第2章 不思議な旅 第3話 直会


「あなた方はその昔、私と共に海を渡りこの地へと参った方々です」


その場にいる、植樹に立ち会った十人ほどにかけられたその言葉に驚くよりも、

俄かに信じるには判断の材料も持ち合わせず、霊的地場が形成されている

その不思議な旅の間は冷静でいようと吟味した。


いつものように神憑りを起こしているその女性の声は、通常の声色と変わらず

威勢と張りがある。


人と違い、思うように運ばない人生を送ると、自分が特別な何者かなのではないかと錯覚して信じてみたくはなる。


だがそんなことに意味はなく、陶酔した人生で、身を誤らせることなどしてなるものかと、自分の体たらくを鑑みて踏みとどまり、審神できるほどの高い霊感も

持ち合わせないただの人は、その言葉を心の片隅にそっとしまっておくことにした。


必要とする時が来るのなら、その時に取り出せばよい。


植樹が終わり、松の御前でお祭りが済むと、直会が始まる。


「観音様の御本体は、国常立命様だ」


 一人がおもむろに、岡田茂吉翁の講和集を紐解くと、読みつぶやいた。


「そうだ、そうだ」


霊声を聴くその人に、この旅が始まる前から憑ってきていた龍神か、

その人の体を借りて皆に分からせるかのごとく大きな返事で二度、頷く。


島特有の雰囲気の中、指笛がなると、踊り慣れない者達は

ぎこちない動きで環になった。



     

 


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