第2章 不思議な旅 第2話 心のふね
人間の頃、自分達が船で運び植えつけた苗木の成長ぶりに感慨にふけった。
思い返せばあの頃は何かにグイグイと引っ張られるかのような不思議な体験に
身を任せていた。
石碑の聖域も、まだ手入れなさっているだろうか、あの時訪ねた際に大本教の
信徒の方々が掃き清められたそこで、一同揃って祝詞を奏上したことを思い出した。
そう言えばあの人は面白いことを言っていたな。
霊声を聴くその人は、その地に立ったとき、男の声が聞こえたという。
「よくぞ参った」
それは迎えの言葉ではなく、相対峙した感じに聞こえ身構えると、
持つはずのない刀に手を伸ばしたという。
それが何を意味したのか、知る由もない。
石碑にはこう刻まれている。
「世をおもふ 心のふねに棹さして 宮原山に はるばる吾来つ」
古代、権力を得ようとした神々より排斥され、日本本土より離れることを余儀なくされた豊雲尊様が、夫神様と鹿児島湾沖で別れを告げ、供の物を引き連れて渡ってきた時の歌だと直感した。
言いようもない心細さだっただろう。
湾を出ると、別世界に出たのかと思うほど、太平洋の波がうねりだす。
北赤道海流はフィリピン沖で勢いを増すと、世界最大規模と言われる黒潮と化して、
大北上を始める。
そのうねりは、古の船が勢いに抗い、南下するその途上で荒波を越すのに、
どれだけの不安と試練を与えただろうか。
この地方にはサバニと呼ばれる木の漁船がある。
もしそういう類のものだったらと想像すると、命がけの船旅だったであろう。
いや、命があったのが不思議である。
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