第2章 不思議な旅 第1話 銀の龍の背に乗せて

天の八重雲を千別きに千別きて眼前が開けると、蒼ざめた海が見えた。

台湾越しに大陸の方へ一瞬目をやると何やら赤黒かったが、

晴れ渡る空を泳ぎ高度をさげて清々しい風を浴びると、気にも止まらなかった。


「シートベルトって何?」

「ははは、この時代、乗物で身を守るものじゃ、あまり速度が速いと危ういからな、

それに節分からは、神々も新しき役目を得て何かと慌ただしい、しっかりと自分を

保つ必要がある」


立春のこの時期でも陽光に島々の緑が映えており、沖縄を北上したあたりから

銀粉が舞い上がりキラキラと柱をなして渦巻いていた。


喜界島(鬼界ヶ島)だ。


その渦に身を任せ降り立つ。


「よくぞ参った」


女神が懐かしく暖かい声で迎えてくださった。


「カカ様!」


「貴よ、元気にしておりますか」


「はい」


「此度の旅はあなたの糧となるでしょう、味わってきなさい」


「ありがとうございます」


「豊雲様、お久しゅうございます」


「うむ、いよいよの時ぞ、心せよ」


「は、心得てございます」


こんもりと盛りたてられた半球状の土に、

依り代として植えられた松は活き活きと育っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る