第1章 出立  第7話 名作

しかし当時ほどの熱意もなく、その頃のジャーナリズムは死んでいたので、

月面着陸に比べても遜色ない歴史的大イベントを、リアルタイムで全人類が共感する

空気は薄かった。


ただ一部の者達だけが、急激に再生回数を増やす動画に近づき、ある者は近しい者に邪険に扱われながらも、モニターの向こう側に共感者を得て小躍りしていたのだろう。


弾圧を受けてCCPの実態を知る法輪功系のメディア、武力行使に対抗して民主化を求める学生時代を過ごした中国人教授、信仰心の厚い宣教師、国際政治を教える幸福の科学の役員、現地取材を決行する若い政治活動家、個々発信の動画を波乗りできたことで探究心を潤し、私も徐々に昂揚していった。


政治系、SNSを駆使する世代、海外在住者、彼らYoutuberの影響で、

一次情報を求め、英語を解せないもどかしさを覚えながらも、大統領本人のつぶやきを心待ちにするほど私ものめり込んだ。


そもそも注目し始めたその動機は、トランプ勝利を友人と賭けていたのだ。


2016年の茶番を見たことで確信を得ていた私は、不正選挙でジョーじいさんの

当確が決まった時点でも、このままでは終わらないのだろうと予兆を感じていた。


周囲には奇異な目で見られていたかも知れないが、以前は本やネット記事でしか

拝見しなかった彼らの企みの解説を、動画に散逸していることを見て、

とうとうこうゆう時期が来たかと、不審を抱いているのは自分だけではなかった

ことに嬉々とし、画面の前で頷いていた。


年末には、「Fight For Trump」の叫びをあげる行進が世界各地で起こっている

ことを知ると、一層気分が高まった。


日本でも行われたデモを取材したオールドメディアの記者は、その一団の所属や

思想背景を分かりかねていたが、単純なことだ。


不正が嫌いで正義好きな、感の良い人達が寄り集まっただけのことである。


このドキュメンタリーをスタンリー・キューブリック監督が生きていたなら

どんな映像作品として残してくれただろうか。


彼は名作しか残さなかった。

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