第1章 出立 第2話 常識と非常識
気付いていた、ただ術がない。
どうすれば、皆と共有できるというのか。
道具はあふれてはいるが、どれだけ叫べば、情報の渦に巻き込まれず
世の中に受け入れられることだろう。
そもそも勇気がないのだ、非常識を常識として受け取ってもらうということは
大変な労力がいることだろう、そう思うと怖気づきまた悶々とした日々を過ごす。
今の自分には、自分の世話をするだけで精いっぱいの暮らしだ。
「世界に叫べ、薬禍薬毒」
その運動が起こったのは7、80年前、経験したわけではないが、
今の世相は世界恐慌、世界大戦があったその頃にとてもよく似ているのでは
ないかと感じていた。
おまけに、権力者のやることは変わらないが、技術の進歩が発揮する威力は
増すばかりで、その絶大な効果は性質が悪い。
その頃の私は、苛立ちを覚えながらも憤りを通り越し、
ただ傍観しているだけだった。
しかし2020年、アメリカ合衆国最後の大統領選挙を契機に情勢は変わり始めた。
世界を完全に牛耳ろうと、千年以上もの時をかけた権力者達の共同謀議が、
突如として破綻し始めたのだ。
青天の霹靂だった。
世界的な感染症騒ぎで暗雲が立ちこんだ世情だったが、希望に胸が躍った。
およそ60年越しの米国軍部の計画が、人類の奴隷化謀議を寸でで防ぎ、
大方の権力者層を秘密裏で一掃していたのだ。
絡め取られた通称「カバール」と呼ばれたその首謀団は、
古来より王族の財務を司り、徴収権や奴隷債を担保にして金を工面し、
通貨発行権益や、自分達に都合の良い金融体制の金力で裏付けられた権力を、
我が物にしてきた者達だった。
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