第12話 英雄

私が英雄と呼ばれ始めたのは、キリクの第1次侵攻の時だ。

当時私が配属されていたのは、コルトーナ砦という小さな砦で、私はそこの指揮官だった。

キリクの兵約1万の軍勢に対し、こちらは騎兵や歩兵、魔術師など合わせて1000程度。

劣勢は明らかだった。


幸いなことに、このコルトーナ砦は過去に難攻不落とうたわれただけあり、左右は岩山に囲まれ正面からの攻撃に対してのみ防御すればよいため、防戦には適していた。

私たちは砦にこもり王都へ救援の早馬を走らせてひたすら防戦の構えだった。

王都からの救援が来るまで約1週間。何が何でも、そこまで死守するのが私の使命だった。

私は魔術師達に連携の魔方陣を組ませ、5日間ひたすら魔力を溜めさせた。

一人一人の魔力は弱くても、連携して溜めさせることで強力な大魔法が打てる。

その間もキリクの軍勢は昼夜問わず攻撃を仕掛けてくる。

私は兵たちの指揮を下げぬようとにかく鼓舞し続けた。


そして何とか5日守り抜き、ついに大魔法の準備が整った。

その時の作戦はこうだ。

砦の目の前にいる8000程の軍勢はそのままにしておき、1キロ程離れた本陣へ魔法を放ったうえで、そこに私自ら先陣に立ち強襲をかけ敵将を討ち取る。

我ながら無謀な作戦であることはわかっている。

しかし、こうしなくてはおそらく5日目の今日中に砦は破られてしまうからだ。

私はおそらく生きては帰れないだろう、死に場所はここへ決めた。

私は皆の前で作戦を発表した。

そして1000の兵の中から、志願者のみを集め総勢100騎で岩山を秘密裏に下り、岩山の下に広がる森を通るルートで本陣に近づいた。


作戦決行の時刻。空がどんよりと曇りだし、上空から火柱が敵陣へと叩きつけられた。

私は声を荒げた。

「覚悟は決めたか!我らは今より敵陣へ赴き敵将を必ずや打ち取る。この功績は後世に語り継がれるだろう。死を恐れるな!死して御国の礎をなれ!突撃!」

鬨の声が上がり私たちは敵陣へと切り込んだ。


大魔法であらかた守備の兵は死んでいたものの、それでも600以上は兵が残っていた。

敵兵は突然の大魔法に加え、我々の奇襲に動揺しており、右往左往していた。

そして本陣へ辿りついた私は、豪奢な鎧をつけた敵将を見つけ、名乗りを上げた。

「我はレイテ王国コルトーナ砦が主長、デュエム=エスタ=チェルタルド!貴様の首は私がいただく。覚悟!」

敵将は怯み逃げ出そうとする。私は脇にいた護衛の将や兵を切り捨て、敵将に追いつき、討ち取ることに成功した。

私は敵将の首を頭上高く掲げた。

残っている兵たちは大声で勝鬨を上げた。


その後勝鬨を聞きつけた守備兵たちが手筈通り、砦の正門を開放し、残りの騎兵や歩兵たちが打って出る。

そして砦前にいた敵の軍勢を私たちが後ろから襲い、挟撃の形をとった。


しかし、敵もさすがに数が多い。徐々に砦の兵たちも数が減っていく。

もうダメかと思われたその時、王都からの救援がやってきたのだ。

その数約1万、今度はこちらがかなり優勢となった。

逃げ惑う敵兵たち。リンク王国の兵たちは、残党狩りを始めた。

その後敵兵はほとんど打ち取られ、コルトーナ砦の前には屍の山が築かれた。


この功績を称えられ、私は一介の将から英雄と呼ばれるようになり、

国王直轄の大隊を率いる大将に召し上げられた。


その後のキリク侵攻も何とか凌ぎ、最後は四極の魔女と呼ばれる上級魔女たちの多大なる力もあり、戦争は終結した。

王は今後の国土防衛のため、四極の魔女たちに爵位を与え、国の四方に配備、更に王都に魔術学園を建設しさらなる防衛に務めておられる。


リンク王国は小さな国だが、無理な侵略戦争などは起こさず、平和主義だ。

だからこそ私は祖国であるこの国が好きだ。

そして有事の際は、私がこの国の礎となり殉じる所存である。


と、いうのが英雄デュエム=エスタ=チェルタルドの表向きの物語である。

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