第11話 目算
「想像以上にうまくいったわね!」
リーテさんは、満足げに言った。
そう、ドラゴン襲来から退治までの流れはすべて計画通りなのだ。
全ては、このアイテムを手に入れることだった。
「でもこのアイテムは何なんですか?普通のコンパクトにしか見えませんが」
リーテさんは、ふふっと笑いながら言った。
「これは、リンク王国の王都への通行証みたいなものなのよ。貸してみて」
リーテさんはそう言って私からコンパクトを受け取り、見つめる。
するとコンパクトが光りだし、ホログラムのように青い画面が浮かび上がった。
私は、リーテさんが水晶で私の能力を見てくれたことを思い出した。
リーテさんはコンパクトをこちらに向け、画面を見せてくれた。
私には読めないが、こちらの世界の文字が浮かび上がっていた。
「こんな感じで魔力を込めると身分証が展開されるの。これを門番に見せるとすんなり王都へ入ることができるわ」
「身分証を見せないと王都へは入れないんですか?」
リーテさんは少し表情を曇らせた。
「数年前にね、この世界では大きな戦争があったの。南方から攻めてきたキリクという民族が領地拡大を狙って攻めてきたんだけど、もともとリンク王国は小さな国だからかなり劣勢に立たされていたの。実際に領土も奪われたわ。それを救ったのが四極の魔女と呼ばれる4人の上級魔女たち。彼女たちはとにかく強くてね、見ているほうが可哀想になるぐらいの蹂躙っぷりだったわ。そして奪われた領土を取り戻し、リンク王国に有利な条件で、不可侵条約が結ばれ終戦を迎えたの」
この世界ではそんなことがあったのか。日本では戦争が終わって数十年たち、今ではすっかり平和だからあまりピンとこない。
「ただね話はそこで終わらないの。四極の魔女の力はあまりにも圧倒的過ぎてリンク王国の王様が、彼女たちの反乱を恐れ、爵位を与えて国の四方の僻地に追いやったの。国の防衛という名目でね」
「せっかく一生懸命頑張ったのにそんな扱いを受けるんですか……報われませんね」
私は自分が会社員だった時を思い出した。
すごい結果を出しても、それを良く思わない人がいるということだ。
「そうね。ただそれほど圧倒的だったいうことよ。そして王様は王都に魔術学校を作り、四極の魔女に対抗する術を今作っている最中なの。左遷も魔術学園の真実も、公になってはいないけどね」
「でも、それとリーテさんや私が王都に入れないことに何の関係があるんですか?それにどうして、そんなことまでリーテさんは知っているんですか?」
彼女は落ち着いた表情で言った。
「私が四極の魔女の一人だからよ」
「え?」
私は突然のことで理解できなかった。
確かに思い返してみれば、隣国との境界にあるあの大きなお屋敷に一人で住んでいるというのは、僻地へ左遷されたということで納得がいく。リーテさんも上の理不尽に付き合わされていたのか。私はリーテさんを不憫思ってしまった。
リーテさんは微笑みながら続けた。
「だからこそ、私はすんなり王都には入れないの。王都の入り口にはね、魔力を感知するアイテムがあって、一定以上の魔力を感知するとブザーが鳴るようになっているの。私たち四極の魔女対策ということでね。でもね、このお面をつけていることで、ある程度は魔力を隠せるんだけど、やはりそれでも魔力が漏れてしまうの。そこで、このアイテムが必要なのよ」
そういってリーテさんはコンパクトを指さした。
「これは、王都の魔術師に与えられる身分証なの。これがあれば多少魔力が漏れていても、王都の魔術師ということで、王都に入ることができるのよ。それにお面もしてるから、顔バレもしないしね」
私は思わずなるほどと言ってしまった。
「それにしても、どうしてあの村のあの子がこのアイテムを持っていると知っていたんですか?」
「それはね、あの子の母親と戦争の時にちょっといろいろあってね……」
リーテさんは暗い表情をした。
私は地雷を踏んだと思い、話を変えた。
「しかし、どうしてそこまでして王都に行く必要があるんですか?」
リーテさんは私の問いに対してにやっと笑い、
「次の目的は、英雄を手籠めにすることよ」
英雄を手籠めにする?
私の頭の中には、セクシーな衣装で男性を誘惑するリーテさんの姿が浮かんだ。
「て、手籠って……あの、私には無理です!そんな男性を誘惑するような事は!」
リーテさんは笑い始めた。
「手籠めっていうのは、そういう意味じゃないわよ。ごめんなさいね、順を追って説明するわね。初めに言ったけれど、沙羅を再転生させるためには、手に入れなくてはいけないものが多くあるの」
「英雄を手籠めにするのも必要なことなんですか?」
「そうよ。その英雄の攻略方法は大体わかってるからそこは安心してね」
なんだかよくわからないが、リーテさんが必要というのであればそうなのだろう。
「それじゃあ一度屋敷に引き返して、明日王都へ出発しましょう」
「わかりました」
私たちは、屋敷へ戻ることにした。
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