第10話 救済

村人たちの悲鳴が聞こえ、バタバタと逃げまどっている。

私はそんな中、一人立ち尽くしていた。

どうせ私は食われるのだ。

行く手間が省けてよかったとすら思った。


ドラゴンは上空を何度か旋回し、家を踏みつぶしながら地上へと降り立った。

ものすごい大きさだ。まるで山が降ってきたようだった。

ドラゴンと目が合い、私の体はガタガタと震え始めた。

怖い。怖い。怖い。今からこいつに食われるのだ。

ドラゴンは大きく口を開ける。

私は目をつぶった。


次の瞬間、雷が落ちる音がした。

目を開けると、目の前にはローブを着た女の人が立っていた。

その人は私のほうを振り向き、「間に合ってよかった。安心して、もう大丈夫だから」そう言うと彼女は右手をドラゴンのほうへ向ける。

すると再び、轟音とともに稲光が走った。

私はその眩しさに目を細めた。

ドラゴンは耐え切れず山の方角へと飛び去って行った。

私はほっとしてその場にへたり込んでしまった。

周りから村人たちの歓声が聞こえる。

どうやら私は腰が抜けてしまったようで、その場から動けなくなってしまった。

彼女はそんな私を見て手を貸してくれた。

私にはまるで彼女が、絵本の魔女の様に見えた。

私は立ち上がり、彼女を見つめながら呆けてしまった。


村長が前へ出て彼女に話しかけた。

「あなた様はあのにっくきドラゴンを追い払ってくださった。本当にありがとうございます。村の長として、お礼を申し上げます」

彼女は軽く微笑み話し始めた。

「いえ、お礼を言われるほどではありません。私はもともとあのドラゴンを追っていたのです。やっと現れたと思ったら、この村に降りていくのが見えたので、退治しに来ました。今回は取り逃がしてしまいましたがね」

そして彼女は私のほうを見て、

「大丈夫だった?」と優しく声をかけてくれた。

私は感謝の言葉を述べたかったが、いろいろな感情が沸き起こり、うまく言葉が出なかった。

彼女は再び村長のほうを向き、

「これはいったい何があったのですか?」と尋ねた。

村長は少しばつが悪そうに言う。

「あの……この村の古いしきたりで、毎年この日に一人生贄を出すのです。そして、ドラゴンに生贄を捧げ一年の安泰をはかるのです」

「くだらない!」

彼女は怒ったように言い、周りの村人たちはみな暗い顔をしていた。

「そんなくだらないしきたりは今日でお終いです。第一ドラゴンは人なんて食べません。それに奴は姿かたちの分からない怪しい神ではなく、ただのモンスターです。大の大人が寄ってたかって、こんな小さな女の子を見殺しにするなんてどうかしてます」

村人たちはみなうつむき、誰も何も答えない。

「今後はこんなくだらないことはやめると誓ってください」

村長はうなずいた。

それを見た彼女は優しく微笑んでいた。


それから、その日は魔女様を歓迎する宴が催された。

初めは魔女様も断ってはいたが、村長の粘りに負け、宴に参加されることになった。

村人たちも村長もドラゴンから村が救われたことでみな浮かれていた。

私はおばあちゃんと一緒に魔女様へお礼を言いに行った。

魔女様は私に気が付くと、優しく微笑んでくださった。

「あの……ありがとうございました。魔女様のおかげで私はドラゴンに食われずに済みました。本当に……ありがとございました」私は泣き出してしまった。

すると魔女様は私を優しく抱きしめてくださり、

「気にしないで。あなたが無事でよかったわ。悪いのはすべてあのドラゴンなの。だから周りの大人たちの事も許してあげて」

そう言ってくださった。

私は目を真っ赤にしてうなずいた。


宴も終わりに近づく頃、村長が魔女様に言った。

「何かお礼の品があればと思うのですが、あいにくこの村には大したもはございません。ですので、心ばかりですがこちらをお持ちください」そう言って村長は、金貨の入った袋を魔女様に渡そうとした。

「大丈夫です。お金が欲しくて助けたわけではありませんから。よろしければそのお金で、今まで犠牲になった女の子たちを弔ってあげてください」

「ありがとうございます。必ずや彼女たちのためにこの金貨を使いましょう」

そう言うと村長は深くお辞儀をした。

「私はあのドラゴンを追って、各地を旅しています。ですので、もうこの村は安心です。またドラゴンが現れた時にお会いしましょう」そう言って魔女様は立ち去ろうとした。

「魔女様!」

私は魔女様を呼び止めた。

そしてお母さんからもらった宝物を魔女様に渡した。

「これは……あなたこれをどこで?」魔女様は驚いた顔をして私に尋ねた。

「私のお母さんはもともと王都で魔術師をしていて、それでもらったんです」

「ありがとう。これはドラゴン退治に役立つから、いただいていくわ」

私はそれを聞いてうれしい気持ちになった。

「よかったです。あの……それと」

「どうしたの?」

私は意を決して言った。

「私も、魔女様のような魔女になれますか?」

魔女様は優しく微笑み、

「大丈夫よ。あなたもきっとなれるわ。あなたが立派な魔女になった時、また会いましょう」

そう言って魔女様は村から去っていった。

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