第8話 回顧

ステラちゃんの背に乗り、屋敷へと到着した私たちは早速夕食の支度をした。

ステラちゃんが、「私がやります!」と、意気揚々と言ったはいたものの、正直危なっかしくて見ていられなかった。

そこでリーテさんが夕食を作ることとなった。

本当は私がやるべきなのだろうが、あいにく私は料理が全くできない。

リーテさんにすみませんと言った上で、私とステラちゃんはお風呂に入った。


「はあ~、お風呂ってきもちいいよね~」

「はい~初めて入りましたが、これは癖になりそうです」

彼女はとろんとした表情をしている。

そうか、彼女はもともとドラゴンだから人間界の文化にはあまり詳しくないのだ。

「ドラゴンの姿の時はどうしてたの?」

「えっと、住んでいた山から太陽の出る方向にちょっと行くと大きな湖があるんです。そこに行ってました」

「ドラゴンの姿で入れる湖となると、かなり大きそうだね」

「はい。すごく大きくて、すごくきれいなんですよ!今度ご主人様と一緒に行きたいです」

こういう素直なところは本当に可愛らしいと思う。

「ふふ、ありがとう。今度一緒に行こうね」

私がそう言うと、ステラちゃんは笑顔で、

「はい!」と言った。

ステラちゃんが大分慣れてきてくれたようで少し安心した。


お風呂から上がってステラちゃんの髪を乾かし、軽く結わいてあげた。

彼女はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

私に娘がいたら、こんな感覚なのだろうと思った。


その後二人で食堂へ向かうと、そこには豪華な食事が並んでいた。

リーテさん曰く、今日はステラちゃんの歓迎会だそうだ。

ステラちゃんはまた飛び跳ねて喜んでいた。

リーテさんは私たちを席につかせ、みんなで食事を始めた。

やはりリーテさんの作る食事はおいしい。

そのおいしさに、ステラちゃんもびっくりしている。

私たちは他人同士であるが、なんだか家族の様に感じた。


食後、ステラちゃんが眠たそうにしているので、私は彼女を部屋まで送り、

その後リーテさんに呼び出され、書斎へと向かった。


私たちは昨日と同じように、向かい合って席に着いた。

「今日はお疲れ様。大変だったでしょう?」

「はい。本当に死ぬかもしれないと思いました」

リーテさんは、ふふっと笑った。

「でも本当に様になってたわよ。口撃の一つである暴言もかなり上手かったし」

「あれは、前の世界で私が言われていたのを使いまわしただけですよ。」

「そうだったのね。今回はドラゴンが相手だったから、恐怖の感情を引き出すというのが目的だったの。動物は私たち以上に死と隣り合わせで生きているから、恐怖に対して敏感なの。だからこそ、暴言の様な強い言葉と力の差を感じると、ひれ伏す以外に選択肢がないのよ」

私は感心してしまった。リーテさんが初めに言っていた作戦にはこういった意図があったのだ。

「そうだったんですね。さすが口撃の魔女ですね」

「ふふ、ほめてくれてありがとう。ちなみに、人が誰かに従うのも、同じような原理の場合もあるわ。例えば、独裁政治とか」

「いわゆる、恐怖政治というやつですか?」

「そうね。武力で支配するのがいい例じゃないかしら。ただ、その場合には一つ注意点があるの」

「注意点ですか?」

「そう。武力のみで抑圧すると、後々必ず反発を生むの。だからこそ、人を支配するには別の方法を取るのが一般的ね」

私は首をかしげ、「別の方法、ですか?」と尋ねた。

リーテさんはニヤッと笑い、

「ということで、次は近くの村を乗っ取りに行きましょう」と言った。

私は唖然としてしまった。


「どういうことですか?」

「それはまた明日説明するわ。それに、今回の修行にはステラちゃんの力が必要不可欠だから、あの子も一緒に連れていくわよ」

何が何だかわからない。だが、私の目的を果たすためにもこれは必要なことなのだろう。

「わかりました。明日は頑張ります」

私はそう返事をし、少し気になっていたことをリーテさんに聞いた。


「あの、一つお聞きしたいんですけど、ステラちゃんが放った一度目の火の玉はいったいどうやって消したのですか?」

「ああ、あれね。あれはキャンセルの魔法よ。沙羅が立っていた場所の真正面にキャンセル用の防壁を張っておいたの」

分かるようでわからない。私は思わず首をかしげてしまう。

「要は、物理攻撃を無効にできる魔法だと思ってもらえればいいわ」

「そんなことできるんですか!」

リーテさんは少し得意になって、

「私を誰だと思っているの?あの、口撃の魔女よ。あの程度朝飯前よ」

「すごい……」

私は素直に感心してしまった。

「でも、2発目は防げなかったから、作戦を変更したんだけどね」

「え?そうなんですか?」

「そうそう。もし、2発目もキャンセルしようとしてたら、沙羅は消し炭になってたわ」

私は今更背筋がぞっとした。


「ステラちゃんて、実はとんでもなく強いドラゴンなのよ」

そういってリーテさんは、壁からぶ厚い本を一冊取り出し、ぱらぱらとめくる。そして、目的のページを開き、机の上に広げた。

そこには、大きなドラゴンがお城に火を放っている絵が描かれていた。

しかし、こちらの世界の文字で書かれているため、内容は理解できない。

「これがステラちゃんですか?」

「そう。ここに書かれている内容によれば、この時ステラちゃんは、世界の半分を滅ぼしているわ」

「え!世界の半分を?」

「そうよ。この本は、この世界に伝わる古い神話の本なんだけど、彼女はデストロイ・ドラゴンと呼ばれていて、様々な英雄と死闘を繰り広げて何とかあの山に追い払われたそうよ。この章の最後に、『次に奴が現れた時、世界は終焉を迎えるだろう』って書かれているわ」

「そんなに強いんですね……」

私は今日そんなに危険な生き物と、無防備な状態で戦っていたのかと思うと少しめまいがした。

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