第7話 帰還
落ち着きを取り戻した私は、気まずくなりドラゴンに話しかける。
「あの……」
ドラゴンはビクッとした後、「はい!」といった。
私は前の世界で、新卒が同じようになっているのを見たことがある。
まずい。完全に怖がられている。
何とかこの状況を打破しようと、
「ドラゴンさんは、とても大きいんですね!」と優しく声をかけた。
「はい!すみません!すぐに小さくなります!」
そういってドラゴンは小さな少女の姿になった。
背丈は140cmくらい。金髪で目のぱっちりした可愛らしい少女だった。
この経緯を見ていたリーテさんが横で大笑いしている。
「沙羅がやりすぎたから完全におびえてるじゃない!」
「え?あの……自分でも精一杯で」
「でもかなり様になってたわよ。やるわね!」
「ありがとうございます」
褒められるのはいつぶりだろうか。
私は少し温かい気持ちになった。
それから私はドラゴンの少女のほうを向き、
「色々とごめんなさい。あなた、お名前は?」
「はい!私には特に名前はありません!」
かしこまりすぎて軍隊の様になっている。なんだか罪悪感がすごい。
「えっと……何て呼べばいいかな?」
「ええと……あの……」
少女は黙りこんでしまった。そして徐々に目が潤んできている。
まずい。呼び方を聞いただけで完全に泣かせてしまった。
そこへ、リーテさんが助け舟を出す。
「名前がないなら、沙羅が付けてあげたらどう?」
少女の表情はみるみる明るくなり、期待を込めたまなざしでこちらを見てくる。
「私がですか⁉ えっと……じゃあステラ山に住んでたからステラちゃんとかでいかがでしょうか?」
横でリーテさんが噴き出す。
「沙羅、安直すぎるでしょ!」
「私、名前決めるのとか苦手なんですよ!」
私は少女のほうを向き、
「やっぱり別の名前考えるね」と言いかけたが、
少女はすでに「ステラですか!ステキな名前です!ありがとうございます!」とさらに目を輝かせて喜んでいた。
まあ、本人が喜んでいるならそれでいいかと思い、彼女の名前はステラになった。
ステラちゃんが少しもじもじしなら私に尋ねてくる。
「ええと……その……私は、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
「私の事?んー……名前で、沙羅って呼んでもらって大丈夫だよ」
「いえ!そんな失礼なことはできません!」
「え?いや別に気にしないから沙羅でいいんだけど……」
お互いに困ってしまっていると、リーテさんが横から助言してくれた。
「それじゃあ、ご主人様とかでいいんじゃない?」
「え⁉いや、流石にそれは恥ずかし……」私が言いかけると、
「かしこまりました!ご主人様。これからよろしくお願いいたしますね!」
と満面の笑みで私に言った。
この子はあまり人の話を聞かないタイプの子なんだなと思った。
「それじゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうですね。歩きだと結構時間もかかりますし」
私とリーテさんがそんな会話をしていると、ステラちゃんが私のローブの裾を引っ張った。
「あの……ステラもご主人様と一緒にいたいです」
「え?ああ、そうか。でも、私が住んでいるのはリーテさんのお屋敷だから、私が勝手にOKしちゃうわけにはいかないんだよ」
ステラちゃんは目を潤ませる。
「ダメ……ですか?」
断りづらい。そしてまた泣かせてしまいそうだ。
「わ、わかった。確認するからちょっと待ってて」
私はステラちゃんにそう言い、リーテさんに声をかけた。
「あの……ステラちゃんが一緒に来たいっていうんですが、ダメですよね?」
「ん?ああ、いいよ。どうせ部屋もたくさん余ってるから連れて帰ろう」
二つ返事でOKをもらった私はステラちゃんにそれを伝える。
「リーテさんが一緒に来てもいいって。ちゃんとお礼言っとくんだよ」
ステラちゃんの表情がまた明るくなり、
「本当ですか!やった!」と言いながら小さく飛び跳ねている。
そしてリーテさんの前へ出て、
「おい、人間。ありがとう!」と言った。
私は固まってしまった。
何だろう。この奔放な部下を持ってしまった中間管理職のような気持ちは。
するとリーテさんは微笑みながら言った。
「そっか。そういえば自己紹介してなかったね。私は口撃の魔女ことボッカサラ=リーテ。沙羅の師匠だよ。よろしくね」
ステラちゃんの表情が引きつっているのがわかった。
数秒間をおいて、ステラちゃんは後ずさりして、これでもかというほど深く頭を下げていた。
「ごめんなさい!ご主人様のお師匠様とはつゆ知らず。大変失礼いたしました」
「いいよ、気にしないで。今日から一緒に住むんだから仲良くやってこうね」
「はい!ありがとうございます!」
パワーバランスが決定した瞬間だった。
そこから私たちは来た道を戻ろうと歩き始めた。
するとステラちゃんが、
「あの、ご主人様。お屋敷までは遠いのですか?」と尋ねてきた。
「うん。歩いて2時間くらいかな?」
ステラちゃんは驚いた様子で、
「に、2時間!ご主人様をそんなに歩かせるわけにはいきません。一度ドラゴンの姿に戻りますので、お二人は私の背中に乗ってください。10分で戻ります!」と言った。
その後ドラゴンの姿になったステラちゃんの背中に私とリーテさんは乗り、屋敷へと戻ったのであった。
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