第5話 出発
翌朝早朝に目覚めた私は身支度を整えるためクローゼットを開けた。
そこにはこの世界に来る時に着ていたスーツともう1着服が掛かっていた。
流石にこれは……そう思った私は、スーツを着てリーテさんの待つ食堂へと向かった。
食堂に着くとリーテさんは白のブラウスに、黒のロングスカート、そしていかにも魔女というローブを身につけていた。
リーテさんは入ってきた私を見ると、
「あら?用意した服は着なかったの?」と少しがっかりしたように言った。
そう、私の部屋のクローゼットにかかっていたのは、白のゴスロリ衣装だったのだ。
流石にこれを着てドラゴンを狩に行くのは恥ずかしかったので、私はスーツを選んだ。
「流石にあれは……」
そう言って私は俯いた。
「あれは神聖な服なのよ!あなたの魔力を増幅してくれるの!そして何より、あなたにはあれが似合うから着替えてらっしゃい!」
リーテさんは初めて私を強く叱った。
絶対に嘘だ。そう思ったが、私は渋々部屋に戻り、白のゴスロリ衣装へと着替える。
普段のスーツも、下はパンツを履いていたので、スカートを履くのは数年ぶりだ。
本音は嫌だが、昨日あれだけ強く決意を述べた手前、今更できませんは言えない。
私はひどく後悔しながら、食堂に戻った。
食堂に入ってきた私を見て、リーテさんは満面の笑みになり、
「やっぱり似合うじゃない!さあ、ドラゴンを狩りに行くわよ!」と満足そうに言った。
「さすがにこれはちょっと恥ずかしいです……」
リーテさんは、ふーとため息をつくと、仕方がなさそうに、こちらへリーテさんと同じローブを手渡した。
その後私とリーテさんは、屋敷の西にあるステラ山へと向かった。
山へは徒歩で片道2時間かかるそうだ。
道中リーテさんは今回のドラゴン狩りの内容を説明し始めた。
「ドラゴンっていうのは確かに賢い生き物なんだけど、人語を解するのはその中でもより上位種になるの。つまり古龍種っていう種類になるんだけど、真っ向から武力で戦おうと思ったら、私たち魔女の中でも四極の魔女と呼ばれる上位の魔女じゃないと歯が立たないの」
私はあまりの現実離れした内容に呆然としてしまった。
「……あの、つまりそんなに強い古龍種というドラゴンを今から狩りに行くんですか?」
彼女は微笑みながら続けた。
「でもね、いくら古龍種といえども所詮は動物。生半可に人語を解するがゆえに、付け入るスキは十分あるの。つまり私たちの能力と古龍種の相性は抜群てことね」
彼女は楽しそうに話しているが、倒せるイメージが全くわかない。
そんな私の心配をくみ取ったのか、リーテさんは作戦を私に伝えた。
「そんなので上手く行くんですか⁉︎」
「もちろん!沙羅がうまくやればなんの問題もないわ」そう言ってリーテさんは私にウィンクした。
そうこうしているうちに目的地であるステラ山へ到着した。
ステラ山には木々がなく、岩肌が剥き出しになった鉱山であった。
この山のどこかに今回のターゲットである古龍種がいるのだ。
私は思わず立ちすくんでしまった。
「沙羅、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。いる場所は大体わかってるから。足元に気をつけて私に付いてきてね」
「……わかりました」
そう言うとリーテさんはステラ山の岩肌を右回りに歩き始めた。私は置いていかれない様に、リーテさんの後を追った。
それにしてもどうしてリーテさんはドラゴンの居場所を知っているのだろうか?
そんな疑問を持ちながら歩いていくと、岩肌に人が1人やっと通れる様な亀裂が空いていた。
リーテさんはその亀裂を指差し、
「ここが近道だから、ここから行きましょう。足元がかなり悪くなるから気をつけてね」
「わかりました」
そう言ってリーテさんは亀裂に入っていく。
私も後を追い、20mほど亀裂をまっすぐ進むと少し開けた場所に出た。
そこからさらに岩肌に沿って歩き続ける。
すると突然リーテさんに手で止まれと合図を出された。
私は立ち止まり、リーテさんが前方を指さす。
指先の方を見ると全長5m程の大きなドラゴンが眠っていた。
大きい。あんな大きな生き物がこの世界にはいて、そして空を飛ぶと言うのだから驚きが隠せない。
私は小声でリーテさんに尋ねた。
「あ、あれが古龍種のドラゴンですか?」
「違うわ。あれはただのドラゴン。あれくらいのやつだと人語を解す程の知能はないわ」
「ど、どうするんですか?私たちの能力では歯が立たないですよね?」
私は一気に不安になり、たじろいでしまった。
リーテさんは口元で微笑んだ。
「私はこれでも魔女よ。口撃以外にも魔法は使えるわ。ここで待っていてちょうだい」
するとリーテさんは、1人でドラゴンの元へ歩き出した。ドラゴンはリーテさんに気が付き、警戒し始めた。
次の瞬間、手のひらをドラゴンの方に向け、雷を放った。バチンという音と共にドラゴンは一瞬で黒焦げになっていた。
あたりには肉が焦げるにおいが立ち込めている。
私は目の前の光景を理解できず、呆然としてしまったが、ハッとしてリーテさんの元に駆け寄り、
「大丈夫ですか!」と声をかけた。
リーテさんは微笑みながら、私に親指を突き立てた。
私はリーテさんが本当に魔女なのだと思ったのであった。
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