第4話 師弟

リーテさんと書斎で話した後、私はお風呂を借りていた。

アンティークのような猫足の浴槽につかりながら、私は今までのことを思い返していた。

元の世界では社畜として、周りからの暴言や誹謗中傷、プレッシャーの中生きていた。

仕事が忙しすぎて、学生時代の友達とも疎遠になり、実家にも帰れない日々が続き、

私は東京の地で一人孤独の中生きてきた。

それを、リーテさんと出会うことで人のやさしさに触れ、一人ではなく、誰かと一緒にいることは本当に心強いと感じた。

しかしそれを異世界で感じるとは皮肉なものだ。


私はこれから先どう生きるべきなのだろうか?

リーテさんの言う通り、この世界で穏やかに暮らすことも悪くないかもしれない。

しかし、どうしても上司や周りの奴らの事が頭をよぎってしまう。

おそらくトラウマとはこういうものなのだろう。

どれだけ今を幸せに生きていたとしても、ふとした瞬間に思い出し、そのしがらみにとらわれながらこの先を生きていくことになるのだ。

それは果たして幸せなのだろうか?


私は湯ぶねから立ち上がり、決意を決めた。

どんな手を使ってでも、私は必ずあいつらに復讐する。


私はお風呂から上がり、リーテさんが用意してくれた可愛らしい部屋着を着て食堂へ向かう。

食道にはすでに夕食が用意されており、おいしそうな料理とリーテさんが私を出迎えてくれた。

リーテさんは入ってきた私に気が付くと、口元で微笑み、私を席につかせた。

食事をしながら私は決意を込めて彼女にお願いをした。

「リーテさん、お願いがあります。私に口撃のスキルを教えてください。私にはどうしても忘れられない嫌な過去があります。

それを払拭するためにも、私にはしなくてはならないことがあるんです。お願いです。私をあなたの弟子にしてください」

私はそこまで言うと深く頭を下げた。

「……穏やかに過ごすことはあきらめるの?」

私は頭を上げ彼女のほうを見た。

彼女は少し残念そうな顔をしている。

「沙羅の人生をどうするのかは、沙羅が決めることよ。だからあなたが私の弟子になりたいというのであれば、私はあなたに口撃のすべてを教えるわ。しかし、修業は厳しい。それに、あなたがしたいことを叶えたとしても、あなたが幸せになれるとは限らないわ」

彼女は諭すように私に言った。

「……覚悟の上です。私はこれから穏やかに、ここでリーテさんと過ごしていても、過去の出来事が私の中から消え去らない限り、本当の幸せにはたどり着けないんです。ですから、お願いします。私をリーテさんの弟子にしてください」

私は彼女の眼を見つめ、そう言った。

彼女は少し考えるそぶりを見せてから、私の目を見つめ返し、

「わかったわ。沙羅の覚悟を受け止めます。あなたに口撃のすべてを教えましょう」と言った。

「ありがとうございます。これからよろしくお願いいたします。」

その後食事を終えた私たちは、リーテさんの書斎へ向かった。


書斎に着き、お互い向かい合って椅子に座るとリーテさんが話し始めた。

「まず初めに聞いておきたいのだけど、沙羅のしたいことっていうのはなんなの?」

「私は元居た世界に戻り、あいつらに復讐したいんです」

「復讐、か……何があったか聞かせてもらってもいいかしら?」

そこから私は元居た世界での話を洗いざらいリーテさんに話した。

話し終わるとリーテさんは少し考え込んでしまった。

「……なるほど。それは辛かったわね……」

「私はその時のトラウマから抜け出せずにいるんです。だからこそ、あいつらに復讐を果たして、過去の自分を清算したいんです」

リーテさんは少し悲しそうな顔をしてから、これからの事を教えてくれた。


「まず初めに言っておくけど。沙羅が元の世界に戻ることは可能よ。しかしそのためには、手に入れなくてはならないものが多くある。そこで、修行を重ねていく過程でそれらを手にしていく。かなり辛く厳しい道のりだけど、ついて来れる?」

「……大丈夫です。忍耐力と度胸は、元の世界で嫌ってほど身につけてきました。弱音を吐かず、リーテさんについていきます」

「わかったわ。それじゃあ、明日の早朝から早速修業を始めるわ」

彼女は優しく微笑んだ。


「もともと、沙羅には、口撃のスキルがあるから、これを効果的に伸ばしていくのが何よりの近道になるわ。そこでまず、明日はドラゴンを狩りに行くわ」

そういった彼女は片側の口角を上げ、にやりと微笑んだ。

「ど、ドラゴンですか?確かドラゴンは上位のモンスターだったはずです。それを何もできない私に狩ることができるのでしょうか?」

「おや?いきなり弱音?その調子だと、復讐を果たすのは夢のまた夢かもしれないわね?」

そう言って彼女はクスクス笑っていた。

「そんなことありません!やって見せます!明日私はドラゴンを狩ります!」

私は精一杯強気を見せた。少しでも弱気になったら、不安にのみ込まれそうだったからだ。

そんな私を見て、彼女はにっこり微笑み、

「明日は早いから、今日はもう休みましょう」

そう言って私を部屋へと案内してくれた。


その後私はベッドに横たわり目を閉じた。

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