6 突然凄い勢いで踏み込んできたんだけどぉッ!?

 さて……これで雪宮さんの連絡先を手に入れた訳だが、はたして俺にこれを有効活用できるのだろうか?

 浮かれながらもそんな疑問は自然と沸いて来る。


 ベストマイフレンド田中に無理矢理この状況を作って貰って、ようやく踏み出せたんだ。

 そうでなければ、ずっと隣に居たのに俺達の間に会話は無かった。


 俺も……あと俺にそういう感情を向けてくれているのだとすれば雪宮さんも奥手すぎるんだこういう事に。


 そんな俺達が……隣に居ても全く会話を始める事ができない俺達が、唐突に場の流れも何もなく自分からタイミング決めて踏み込んでコミュニケーションを取るなんて事をできるのだろうか?

 ラインとかで唐突にメッセージを送るのってつまりそういう事だろう。


 だからこれ……もしかして宝の持ち腐れ的な奴になるのでは?


 ……いや、弱気になるな。

 今日ラインのIDを交換できたという事がきっかけだ。

 今日中なら違和感なく雪宮さんとラインのやり取りを開始できる。


 やるんだ。今日中だぞ! 絶対にこの機を逃すな!


 と、そんな風にまだ俺がスタンプを返しただけの画面に視線を落としながら自信を鼓舞したその時だった。


「……あの……榊君」


 雪宮さんがスマホを仕舞ってから変わらず無表情で俺に話し掛けてきてくれた。

 嬉しい死にそう。

 いや、ね。今まであまりに何も無さ過ぎて、些細なやり取りが発生しただけで幸福感で死にそうなんだが!?

 ……ま、まあ落ち着け落ち着け。


「ど、どした雪宮?」


 ……で、なんだろう。


「……この後、時間ある?」


「え、あるけど」


 というか無くても雪宮さんの為なら可能な限り作る……え?

 ……ちょっと待て。

 な、なんでそんな事聞かれてるんだ?


 脳がその理由を正確に受け入れられないまま、畳みかけるように静かに雪宮さんは言う。


「じゃあこれから少し……一緒に勉強とか……しない?」


 !?!!!!???!!??!?!?!??!?!?!?!?


 一瞬、脳が状況を理解できずに真っ白になった気がした。

 だけどそれでも、徐々に状況は理解できてきて、より明確にこの状況のとんでもなさを理解し始める。


 これもしかして……勉強とは口実の、実質デートみたいなのに……誘われてません?


「……」


「……」


 ゆ、雪宮さん……俺がどうやってラインを送ろうかとか必死に考えているこの状況で、突然凄い勢いで踏み込んできたんだけどォ!?

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