5 やったぜ連絡先交換!
田中に呼ばれた雪宮さんは、飲み物を選ぶのを中断して、静かにこちらに向かって歩いてくる。
うわ、どうしよどうしよ何をどうすれば正解なのか何にもわかんねぇ!
と、混乱していた俺の肩を田中がポンと叩く。
そ、そうだなんか助言的な……
「Good luck!」
や、役に立たねえ!
しかもなんか発音が絶妙にネイティブなの腹立つ!
英語赤点ギリギリのクセに……ってちょっと待てちょっと待てどこいくんだ!
なんで俺から全力で離れていく!?
「……」
なるほど、気を使われたか。
俺と雪宮を二人っきりにしてくれるんだな。
「……何? 榊君」
「……」
でもあの、田中さぁ、なんというかその……もうちょっと段取りとかありますやん。
くっそ可愛く小首を傾げる雪宮さんに対して俺は一体何を言えば良いんですかねぇ!
何を言えば良いんですかぁぁぁぁッ!
ぶん投げてどっかいくなああああああああああッ!
分からん!
いや、アイツが連絡先を聞き出してこいって意図でこの状況作ったのは分かるよ!?
いや、だけどだ。
結局席替えで隣になったにも関わらず、一日ほぼ全く会話を交わす事無く終えた女子相手に、帰り道でいきなり自然と連絡先を聞く為の違和感の無い言葉って一体なんだよ!
あるのかそんなの!
……とはいえ。
「……」
「……」
もう既になんでもないですって言える状況じゃない。
相変わらず無表情な雪宮さんは、俺の言葉を待ってるんだ。
待ってくれてるんだ。
……くそ、こうなったらヤケだ。
勢いで……踏み込めええええええええええッ!
「あ、あの、えっと……折角席替えで隣になったんで……ラインとか交換しねえ?」
……駄目だ違和感しかねえよ!
これ教室で自然と言えりゃ行けそうな感じの文言だけど、放課後帰宅中に呼び止めて言うのは違和感がすげえ!
……ほら、硬直してんじゃん雪宮さん。
多分困惑してんだって唐突な上に強引過ぎて!
表情からは全然分かんねえけど多分そう!
だからえーっと、やらかし……ましたかね?
……や、やってくれたな田中ァァァァァァッ!
許さんぞてめえええええッ!
もうアイツとバッテリー解消しようかな!
おう、解散だ解散!
「……」
で、やらかしたとして……ガチめに嫌われたりしてないよな。
なんかやり方間違えなきゃ良い感じっぽかったのに、距離感盛大に間違えてドン引きされて嫌われたりしてないよな?
……それが、気になって仕方がなかった。
嫌われていたら立ち直れないような気がするけど……それでも、どう思われているのかが気になる……ッ!
と、そう考えていた所で。
「……いいよ。はい、榊君の方でQRコード読み込んで」
そう言ってスマホを出してくれる。
こ、これは……うまくいった……のか?
「……どうしたの?」
「あ、ああ、今やるすぐやる。サンキューな」
言いながら雪宮のラインをゲット。
その後適当なスタンプを送って交換完了。
……良かった嫌われてないっぽい。
単純に連絡先をゲット出来た嬉しさと同じくらい安堵してる。
あー嫌われなくてよかった。
……本当に?
本当に嫌われて無いのか?
これただの社交辞令的な奴というか、迫られたから交換しただけで、実際はあまり良い印象を抱かれていないのでは?
分からん……表情からは何も分からん!
……分かんなくて不安すぎたから、再び魔が差した。
俺は答えを知る事ができるのだから。
つい……超能力を使ってしまった。
雪宮の心を、読んでしまった。
『やった……榊君のラインだ。いきなりで一瞬びっくりしたけど……まさか教えて貰えるなんて! はは、はははははは……っしゃあああああああああああああッ!』
よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおし!
なんか大丈夫そうだぞおおおおおおおおおおおおッ!
『しかもどんなタイミングでどうやって聞き出そうって思ってたのに、まさかこんな形で聞いて来るって……も、もしかして。もしかしてだけど……これ脈あるんじゃ……』
ありまあああああああああああああああす!
『いや、でも……浮かれるな私。榊君だぞ。あの榊君が私の事を好きになってくれるなんて、そんな都合の良い事無いでしょ……』
ずっと好きなんですが俺!?
榊君だから雪宮の事が好きなんですが!?
……と、というかなんだあの榊君って。
俺ただの榊君なんだけど……そんな特別感ねえよ。
寧ろ……ほんと、なんで俺の事好きでいてくれてるんですかね。
結局分かんねえままだなそれは。
まあ……とにかくだ。
超能力をオフにしながら内心でガッツポーズする。
雪宮の連絡先ゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエット!
これも全部この場をセッティングしてくれた田中のおかげだぜ!
やっぱり俺達は最高のバッテリーだァッ!
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