第10話 大きすぎる力は身を滅ぼす
2年生に上がり、勉強が少しずつ、本当に少しずつ本格化してくる。足し算引き算、時計の読み方、ひらがなカタカナ、簡単な漢字の読み書きでは、どうしても他の生徒との差を見せつけるには不十分であった。
しかし、九九の暗記においては、既に全てを暗唱できる私は、他の生徒と一線を画すという状況を生み出せた。私は、「その場で頭で掛け算を行っているから初見でもペラペラと暗唱できるのだ」という嘘をついた。
みんなが一生懸命暗記を試みる中、自分だけ完璧にできているというのは、なんとも心地良いものであった。
小学生相手に大人が掛け算で勝負し、優越感に浸るのは悪趣味かもしれないが、せっかくの2周目の人生だ。それくらいの楽しみは許されて然るべきだ。
「正也くん九九全部言えるの!?すごいねー!」
「そう難しいものじゃないぞ。祐作もすぐに言えるようになる。」
「一の段はもう言えるよ!」
「ははは、そりゃすごいな。」
2年生になった私と祐作はともに2組になった。
キーンコーンカーンコーン。
「じゃあみんなー、5時間目終わったから掃除始めてー。」
「あ、そうだ、正也くん、今日は僕歯医者行かなくちゃで、お母さんが学校まで迎えにくるから、一緒に帰れないや。」
「あー、そうか。じゃあ歯医者がんばれよー。」
「僕が行くとこは痛くないから大丈夫だよ。」
今日は一人で帰るし、近道通るか。普段は祐作が「正也くんやめようよ~。」って言って、学校指定の登下校路しか行けないからな。
この小さな川沿いの土手を通ると、少し早く帰れるんだよなー。桜もほとんど散っちゃって、春も終わりだな。なんて考えていると、目の前が光った。
あまりの眩しさに閉じてしまった目を開けると、はるか昔に見たことのある者が立っていた。
「久しぶりだね。覚えているかい?」
「え……。神様……?」
「そうだ。君に『人生やり直しボタン』をあげた、あのときと同じ神様だ。」
この場所……、あのときと同じ!やっぱりあの記憶は間違いじゃなかったんだ。私は確かに神様から「ボタン」を貰ったんだ!
「あの、今回はどうして……?また『ボタン』をくれるんですか?」
「いいや、違う。今回は忠告しに来た。」
「忠告……ですか。」
「君は、君の知っての通り、その記憶だけは引き継いで『2周目』に来た。そして君は、その力を他の人間に対する大きなアドバンテージとして使おうとしている。普通の人間ならそうしようとするのが自然である。だが、あまり力を使いすぎてはいけない。力を使いすぎると、君にとってもよくない結末になるだろう。」
「ど、どうしてですか?」
「詳しくは言えないが、要するに、君の今の脳、7歳児の体に備わる脳には、君の知識はオーバースペックということだ。」
「もし、その力を使いすぎたら……?」
「……それは言えない。」
聞きたいことはそれだけじゃない!気になることはたくさんある!!
「なぜ私は生まれ変われた!?1周目の私の体はどうなった!?この世界は『かつて』とどこまで変えていい!?」
「落ち着きなさい。最後の質問にだけ答えよう。この世界をどうするかは基本的に君次第だ。君の導き方次第で、君の理想の世界に近づいていくはずだよ。」
「そうですか……。」
「色々と言ったが、せっかくの2周目だ。君にはほどほどに力を使って、この世界を楽しんでもらいたい。無理に力をセーブして、一般人と同じように振る舞う必要はないよ。」
「……わかりました。」
「それじゃあ、私はもう行くよ。もう一度言うが、この世界を楽しんでくれよ。……でなきゃ意味がないからね。」
そう言うと、神は消えた。
神の様子から察するに、「かつての世界」はまだ存在しているらしい。ならばここはパラレルワールドといったところか?しかし、なぜ時間は巻き戻っているのだろうか?しかも都合よく記憶だけ保持したままで。そして、どうやら私にはこの世界における使命のようなものがあるようだ。「この世界を楽しめ」と言っていたが、本当の使命はいったい何なのだろうか?
その日は、あまり眠れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます