第9話 虎穴に入らずんば虎子を得ず
姉が風邪をひき、学校を休んだ。うちの小学校では、学校を休む時は、その旨の書かれた用紙を持っていく必要があった。親が直接小学校に持って行っても構わないのだが、兄弟姉妹や近所の子供に持って行ってもらうのが普通であった。
私は84歳で死んで、今は2周目の7歳だ。実質91歳である。91歳でも、上級生の教室に行くのは怖い。
これだから姉が休むのは困るのだ。
上級生の何が怖いかというと、まず体格が違う。身長が高いし、重量も大きい。そんな体で攻撃でもされたら、ひとたまりもないではないか。さらに、その眼差しが怖い。「なんだこいつ、下級生がこんなところに来るんじゃねえ……。」とでも言いたげな、今にも捉えられて排除されてしまいそうな、そんな目つきで私を見てくるのだ。しかも、私の正体が分かった途端にその目つきは変わり、「へぇ、こいつが心の弟か……。」と、まるで品定めでも始めたかのような空気感に変わるのだ。
ああ、本当に行きたくない。だが!私は91歳相当の頭脳を持っているのだ。解決策は用意してきた!
一つ目のプラン。「先生に渡す作戦」
1周目の時点では思いつかなかったが、自分のクラスの担任に渡せば、職員室とかで姉の担任に渡してくれるのだはないだろうか。さっそく実行だ。
「すみません先生、今日姉が風邪で欠席するので、この用紙を4年1組の担任に後で渡してもらえますか?」
よし、完璧だ。
「うーんとねぇ、お姉さんの担任の先生は、その紙を朝の会までに欲しいと思うんだよね。だから、正也君が持って行ってくれるかなぁ、ごめんね。」
「……はい。」
作戦失敗……。
二つ目のプラン。「友達を連れて行く作戦」
誰かと共に行けば、単純計算で戦闘力は2倍だ。二人ならば上級生を倒せるかもしれない!
「なあ、ヨッシー、これ出すのついて来てくんね?」
「えー、正也くんのお姉さんって4年生でしょ?ちょっと怖いよ~。」
「え~、正也ってねえちゃんと仲良しなのかよー。ラブラブじゃん。」
「は?欠席の紙を出しに行くだけでラブラブとか意味分からないし、姉弟で仲良くて悪い理由が分からないんだけど。てめえ引っ込んでろよ康平。」
「てか一人じゃ4年生のとこ行けないの~?ダッセー。」
「はあ~!?行けるしー!ほんとフザけんなよ!今から行ってくるわボケ!!」
……いかん。康平に図星を突かれたことに動揺したあまり、一人で行くことになってしまった。畜生……チャチャっと行っちゃうかぁ。
西棟の2階。4年生の階である。その階の一番奥に、「4年1組」の教室はある。
なんで手前側の3組じゃないんだよぉ。1組に辿り着くまでに2クラス分の視線を浴びなくちゃならないんだぞ……!
その視線をかいくぐり、1組の教室の目の前に辿り着いた途端、後ろから肩を叩かれ、声をかけられた。
「ねえ、きみ……。」
「すっ!すみません!あ、あの!僕は……!」
凄まじい速度の反射で、まずは謝罪から入った私は、相手の顔を見て気づいた。
「あはは~。そんなビクビクしなくて大丈夫だよー。私、わかるでしょ?」
「あ、はい。」
この人は
「あ、その紙、今日は心は休み?」
「そ、そうです。」
「心なかなか来ないから、そうかと思ってたんだよねー。具合は大丈夫そう?」
「はい。家でちゃんと寝てます。」
「そっか。じゃあこの紙、先生に出しとくよ。持ってきてくれてありがとね。」
そう言うと、蘭さんは私の頭をポンポン、と軽く二回叩いた。
「お、お願いします。」
そうして、私は気づいたら自分の教室に戻っていた。
あ~、年上の魅力やべぇ~。なんだあの余裕は!?年下の扱いに慣れているのか?男の扱いに慣れているのか?ビッチか!?何はともあれ、ありがとうございます、蘭さん。
姉ちゃん、これからはたくさん休んでもいいよ。私がいくらでも欠席用紙出しに行くからね。ていうかいっぱい休んでくれ。
明日、木下心はすっかり元気になっていた。
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