第3話 ボールは友達

 幼稚園に入ってから1年経ち、年中になっていた。

 祐作と虫を探したり、さえちゃんのおままごとに付き合ったりと、なんとも幼稚園児らしい時間を過ごしていた。一見退屈そうにも見えるが、何にも縛られずやりたいことをやるというのは、結構楽しいものである。

 しかし、ただぼやぼやしているのもいかがかと思い、木下正也、5歳にしてサッカーを始めようと思う。1周目の時点で私は学んだのだ。クラスのカースト上位に存在できるのはサッカー部などの運動部であるということを。そして、そのさらにトップ層に君臨するためにはサッカーが上手である必要があるということを。もう2週目では美術部には入らない!サッカー部に入って上位のカーストに立つのだ!

 そんなわけで祐作でも誘ってサッカーでもやるか。この辺に幼稚園児が入れるサッカークラブは存在しない。

「祐作!サッカーやろうぜ!」

「いいよー。」

「よし、じゃあボール借りてくるからグラウンド行って待ってろ!」



「三谷先生!サッカーボールってある?」

「うちにはサッカーボールはないんだよ。このやわらかいボールでいいかな?」

「うーん……無いんなら仕方ないか。」

「正也君はサッカーが好きなの?」

「いや、これから好きになるのかも。」

「なにそれー。」

 思い起こせばスポーツなんてまともにしてこなかったからな。運動神経はいい方ではなかったが、運動神経なんてのは子供のうちに身に着けるものだ。今から始めれば十分だろう。



「祐作ー!いくぞー。ほらっ。」

 ボールは祐作の5mほど左を通過していった。ボールを足でコントロールするのは案外難しいものだなぁ。

 それを健気に追いかけた祐作はボールを両手で拾い上げ、こちらへ駆け寄ってくる。

「まさやくーん。」

「あのなぁ、祐作。サッカーではボールを手で触っちゃダメなんだぞ。足で蹴るんだ。」

「ふーん。」

「じゃあ俺はあっちに行くから蹴ってみてくれ。」

「うん。」

 駆け足で祐作から離れる。

「蹴っていいぞー!」

「いくよー。えいっ。」

 祐作の蹴ったボールは放物線を描いて俺の目の前に落ちてきた。こいつは中学のときもバスケ部でそこそこ活躍していたし、才能ってやつがあるのかなぁ。だとすると運動神経は生まれつきか……?

「……ははは、祐作、ナイスパス。」

「『ないすぱす』って?」

「いいキックだってことだ。」

 祐作に負けないように父さんにサッカーボール買ってもらうかぁ。

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