第2話 追憶の初恋
2度目の出生から時は流れ、ついに、2度目の幼稚園に入園となった。
ああ、こんなだったか、幼稚園というのは。幼稚園の時の記憶など、高校生になる頃にはほとんど忘れていたものだから、新鮮なものに感じる。
「たくさんお友達出来るといいわねー。」
「でも
祐作君というのは、近所に住む同い年の子で、幼稚園に入る前から度々遊んでいた子だ。1周目でも祐作とはそこそこ長い付き合いをしていた。
「あ、ほら、祐作君いるわよ。話しかけてきたら?」
仕方ない、話しかけてやるか。
「よう、祐作。」
「まさやくん。これもらった?」
「なにそれ?バッヂ?」
「バッヂっていうの?新しく入る子はもらえるんだって。」
「へえ~。俺も貰いに行くよ。」
「ぼくもついてくー。」
どうやらあっちの教室で貰えるっぽいな。
「まさやくんっていろんな言葉知ってるよね。」
「まあな。祐作もこれからたくさん覚えてくんだぞ。」
「たくさんって?」
「……『いっぱい』ってことだ。」
幼稚園に入る前の子供というのは思ったよりも無知である。基本的にテレビの教育番組の知識がすべてなのだ。
「すみません、新入生はここでバッヂを貰えるって聞いたんですけど。」
「えーと、君のお母さんかお父さんは来てる?」
「はい、あそこにいます。」
「あらー。そうなのね。君のお名前は?」
「木下正也です。」
「えー……き、き、……あった!はい、このバッヂつけてあっちの部屋で入園式に出てね。」
「ありがとうございます。」
手を伸ばしてバッヂを受け取った。
「まさやくん大人の人みたい。」
これくらいの手続きはできるさ。大人なんだから。
「まもなく入園式が始まりますので、新入生の保護者の方はお子様を連れてホールまでお集まりください。」
「あら。正也はどこに行っちゃったのかしら。」
「あそこで祐作君と話してるよ。……あ、こっちに来た。」
「母さん、父さん、ホールに行こう。」
「正也は私に似て本当にお利口ねぇ。」
「ははっ。かもね。」
「――みんなには楽しい幼稚園生活を送ってもらいたく――。」
こんな子供たちにそんな話しても分からないと思うぞ、園長。親たちも我が子をカメラに収めるのに必死で誰も聞いていないし、泣き出す子が出てくる前に早く終わらせてくれ。
「……きみ、なんて名前?」
「えっ……。俺は木下正也。」
こんな唐突に名前を聞けるのは幼稚園児の特権だ。大人になってからこんなことをしようものなら変質者扱いされて終わりだ。
「わたしはね、さえ。」
さえ……さえ!顔は忘れてしまっていたが名前は知っている!すごく仲良くしてくれた子で、親からは私が幼稚園の時に好きだった子と聞かされていた。だが、卒園と同時に引っ越してしまうことも知っている。それ以降会うことは一度もなかった……。
おそらく1周目でもこうやって仲良くなったのだろう。これもまた運命なのだろうか。
「さえちゃん……。よろしくね。」
「うん!よろしく!」
さえちゃんはタンポポのようにやさしく笑った。
「――そして新入生のみんなを受け持つのは、こちらの
「はじめまして。三谷です。これから楽しい幼稚園生活にしようね。そして、保護者の皆様には、お子さんを安心して通園させてあげられるような幼稚園づくりを目指して参ります。よろしくお願いします。」
今度は、顔を見て思い出した。三谷先生。私の初恋の人だ。名前はすっかり忘れてしまっていた。子供ながらに大人の女性に憧れてしまったのだろう。
しかし、こう見ると記憶していたよりも……美人ではない。完全に思い出補正が入っていた。三谷先生、2度目の初恋はあなたにはあげられません。
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