■人はね。認めてくれることが一番うれしいの。

魂である私はデイサービスへの出勤日である。


目覚ましの音は以前より鬱陶しいと思えなくなった。


おそらく、アリアちゃんのために資金を貯めると目的が出来たためだ。


人は目的意識が芽生えると、ネガティブな感情がなくなってしまうんだなと思う。


バスの移動も坂に対してもストレスはかなり軽減している。


 


そういったことを考えている間にもデイサービスに着いた。


タイムカードをすぐに押して、更衣室に無心に足を運ぶ。


 


―――――


制服に着替えてながら今日の動きを確認している。


ドスドスと地面が鳴り響いており、オーク山田が隣に来ているみたいだ。


以前みたいに理不尽な命令をだされることはなく、淡々とお互い無言で着替えている。


瞬時に、山田の様子を見てみると。


警戒心から付いた観察眼が働き、オーク山田の状況を確認している。


朝の時間がないため爪のネイルもあんまり塗れていない上に、目が充血していることから徹夜している。


どうやら、徹夜してまたソシャゲをやっているみたいだ。


ため息が多くついているのをみると、ソシャゲのガチャは大負けしていたのかな?


オーク山田の様子で気が弱い私は少しおびえているが。


不機嫌なオーク山田に堂々としていられるのも、アリアちゃんのおかげだ。


こんな奴と絡んで、無駄な仕事を作っている暇があれば。


クソゲーの勉強か、サムネ制作に取り掛かりたいと思えているから、おどおどしながら対応するのも馬鹿らしく思えてきた。


 


よっし。仕事早く終わらせよう。


書類業務に取り掛かっている。


 


―――――


 


書類業務を行っている時、肩に叩かれている気がしている。


 


「あんた。前よりましになったじゃない。


さっさと仕事終わらせて、配信しなさいよ。


別に寂しいとかそんなんじゃないからね。」


照れているアリアは声が小さくて聞こえづらかった。


 


「はいはい、わかりました」


魂である私は子供をあやすように言った。


 


このやり取りは心の中で行っており、同じ職場の人に感づかれたらやばい。


だから、アリアちゃんはここで出ないでほしい。


 


アリアちゃんがここに現れてから、仕事も早くなった。


書類業務を終わらせるためにさっさと動いていると、通常業務の時間になっている。


 


―――――


通常業務になり、送迎や朝のバイタル測定を終わらせていた。


利用者様たちがデイサービスについており、少しゆっくりとしている。


いろんな利用者様に声掛けを行っている時に、一人の利用者が手を挙げている。


 


「はぁ~い。少し待ってくださいね。」


魂である私は、やんわりと答えた。


 


「ごめんなさい。トイレに行かせてください。」


車いすに乗っている80歳の右片麻痺を患っている真壁さんが話している。


少し構音障害が入っているが、認知機能はしっかりしているため身体機能のみ落ちている利用者様だ。


 


「では、トイレに行きましょうか。少々お待ちください。」


口調や言葉使いに注意を払い、敬意を表している。


 


全ての利用者に対して敬意を払うべきだと思うが。


認知機能が低く、普通の会話すら成立できない人には子供をあやすように接している。


だから、年配の方で敬意は払っているつもりだが丁寧語や敬語を忘れることが多いのだ。


 


真壁さんの場合は、服装もしっかり整っており、言葉の丁寧さがところどころ見られている。


だから、きちんとした真壁さんは敬意のところはしっかりとはらわないといけない。


いつも丁寧に扱わなくていいとお嬢様口調で言われているが、長年のお嬢様口調が丁寧に扱うように強要されているわけだが。


 


車いすで介助しながらトイレまで移動した。


真壁さんは麻痺により右手がうまく動けないため介助を行っている。


しかし、介助用ではなく普通型車いす乗っているところを見て、自力で行きたいという気持ちが強いのだろう。送迎も途中まで自力で漕いでいらっしゃるみたいだ。


やはり、自分で動きたいという気持ちが強いのだろう。


お嬢様としてのプライドも高いのであろう。


 


「真壁さんトイレです。一人でトイレ移りますか?」


別の利用者がいないため時間的余裕はある。


そのため真壁さんの自力で行いたいという気持ちを尊重した。


 


「いいの!?」


自力で行えることを認められて、真壁さんは喜んでいる。


 


「右足に装具も履いているし、大丈夫ですよ。ただし、手すりはしっかり握ってください。


保険で手は軽く備えておきますね。」


 


「分かったわ。私頑張るからね。」


 


立っている時はトイレにあるL手すりを必死握っており、お尻は後ろにひけており後方に倒れそうだ。


トイレまで数歩歩くだけでも、右足がびっこひいており、見ているだけでもふらふらしている。


そして、必死に手すりを握りながら、動かないであろう右手を必死に動かしながらズボンを脱いでいた。


真壁さんはトイレ座る際に尻餅をつかないようにゆっくり座ろうとしている。


でも、高齢というのもあり少し尻餅をついている感じになっていた。


尻餅をつくことは想像できていたため、すこしクッションみたいに受け止めていた。


 


「今回、尻餅はそこまでついていないみたいですね。あと少しです。」


魂である私は、真壁さんの努力に感動して心の底から感動していた。


真壁さんにとってはかなり苦労する作業であることは理解できているつもりだ・・・


健常者である私たちはそういうのを理解できない部分は存在しているが、私はそこを少しでも減らすように努力していきたい。


 


「田中さんって、やっぱり優しいのね。


特に最近の田中さん好きよ。


気が弱くてくよくよしているイメージだったけど、今は根を張って生きていると思うわ。


きっと、夢でも持ったのね。


どんな活動かは分からないけどさ。応援するわ。


田中さんは人の立場になって考えてくれるから、きっとうまくいくわ。


やっぱり、人はね。認めてくれることが一番うれしいの。」


トイレは一人でしたい真壁さんがこうして内心を話してくれている。


きっと、誰にも知られたくないから、こういった場で話してくれたのだろう。


構音障害がある中、必死で話している姿は正直うれしかった。


 


「真壁さん。ありがとうございます。


私も真壁さんに認められてうれしいです。


この社会は、孤独ですからね。お互いを認めるという機会少ないですからね。」


魂である私は、にこやかに笑っていた。


 


「なるほどね。


視聴者も孤独であるから、承認してほしいんだよね


私は未熟だから、そういうの難しいんだよね」


アリアは何かを思っているかは分からないが、しみじみと語っている。


 


真壁さんの言葉が嬉しかったため、今日の仕事はすぐに終わった。

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