私の魂としてしょうがないから認めてあげるわ

「今日は、配信やめるね。」


アリアはウツボで疲れ切っているためか。すぐに配信を切ろうとしている。


 


にゃんにゃん丸:お疲れ様です。


水饅頭:アリア様、お疲れ様です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


私は配信が終わって一息ついており、アリアちゃんについて考えていた。


アリアちゃんといっても、私が無理やり作った2重人格みたいなものだ。


昔できなかったウツボのところを、涙組みながらクリアできている。


それは小さな変化であるかもしれないが、トラウマにとりあえず打ち勝っている。


 


いや、ヴァーチャルの世界による自分の深層心理の暴走である。


つまり、アリアちゃんの必死なにゃんにゃん丸さんへの訴えだ。


にゃんにゃん丸さんのために頑張っているアリアちゃんは魂である私にも突き刺さり、恐怖に対して闘わないといけないと思った。


 


だから、気が弱い自分を消すように努力していきたい。


 


その決意を込めて、布団に入った。


 


 


―――――――――――――――――――――――――――――――


目覚まし時計が鳴りやんでしまった。


今日も、疎ましくて憎たらしいデイサービスへの出勤の準備を行っている。


このネガティブな気持ちが昨日の決意を削り落としていき、現実世界へたたきつけてしまう。


長い坂や満員バスへのストレスで、昨日の決意はほとんどなくなってしまっている。


 


更衣室に着いていると、自分の意志の弱さに、「はっ~」とため息をついてしまう。


 


横からドスドスと大きな足音が聞こえている。


どうやら、山田がこちらへと向かってきているようだ。


 


「おはよう。田中。今日の朝の掃除やってくれない?」


山田は、昨日同様に脅しかけてきた。


 


いつもの臆病者の習慣で、山田の様子を観察・分析を行っている。


昨日と同様に、朝の時間がないため爪のネイルもあんまり塗れていない上に、目が充血していることから徹夜している。


言葉の語尾がいつもより荒いことから、どうやら徹夜してソシャゲのガチャを外しており、昨日と同様に機嫌が悪いみたいだ。


 


私は言い返す気力はなかったが・・・


 


山田の目が、徹夜でどんよりしており昨日のウツボの目にみえてきた。


この目をみていると昨日のアリアちゃんの勇姿を思い出した。


 


「恐怖があるから、勇気という反対の言葉があるの。」


アリアちゃんの言葉が心から蘇ってきた。


 


今まさに、恐怖にたたきつけられようしている。


だから、わずかな勇気を一滴しぼらないとアリアちゃんに顔を合わせないと思った。


その言葉で、私はちょっとだけ反抗していこうと思ってしまった。


 


「いやです。」


もぞもぞしている私は聞こえていないくらいの声で言い返した。


これこそ、気が弱い私による人生初の反論だ。


 


この一歩は、果てしなく小さいかもしれない。


でも、私の心の中では魂のこもった重さがある一歩だ。


この重さには意義があるかは分からないが、意味ならたくさんある。


――――気が弱くて重い脚から出た一歩。


――――弱者が後ろへ逃げず、地面にへばりつけるために重く踏むこんだ一歩。


――――アリアちゃんへの誇りを持ちたいと重い気持ちを持った一歩。


 


意味はあるため新しい自分に変わろうとしているが、意義は伴っていない可能性があるため私の人生の為であるかは分からない。


 


しかし、アリアちゃんが引き出した一歩だから、私が成り上がるための一歩にしたい。


 


「聞こえないんだけど?」


山田は、不機嫌そうに言っている。


 


「私は掃除をしたくありません。書類がたまっていますから。もし押し付けるなら、労組に訴えます。」


 


「分かったから、私がするから」


山田は少しびっくりしており、足がすくんでおり、膝が笑っている。


 


私はこの場を静かに去って、面倒くさい書類業務に取り掛かろうとしている。


書類業務を行っている時、誰かに肩を叩かれた気がした。


 


「やれば、できるじゃない。


私の魂としてしょうがないから認めてあげるわ。


マネジメントはミジンコレベルだし、面白い企画も立てきれないダメな魂よ。


でも、闘おうとしている弱いあんたが強いオークみたいな女と戦っている姿は、ちょっとだけど胸に響いたわ。」


リアルの世界なのに、アリアちゃんが褒めてくれた気がした。


 


高貴で自信を持ってくれたアリアちゃんに褒められることがうれしくて、その日の仕事が早く終わった。


 


 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


にゃんにゃん丸さんはこの後の配信に来ており、魂である私は詳細を覚えていないが・・・


 


にゃんにゃん丸:現実はクソですね。でも、吹っ切れた気がします。これからはアリアの下僕として頑張ります。


 


アリアは物寂しそうな顔になっていた。


しかし、にゃんにゃん丸には励ましではなく罵ってあげた。これが彼女の誠意である。


 


彼女はわがままで傲慢であるが、視聴者に何かを残したいという気持ちは人一番に強いと思う。


実際に、にゃんにゃん丸さんと私に勇気を残してくれて、リアルに踏ん切りをつけてくれた。


 


アリアちゃんの存在意義は、


きっとヴァーチャルの世界で視聴者のリアルの世界を変えるためだと錯覚してしまう。


 


だから、最初はアリアちゃんに逃げてもいいかもしれないが。


いずれ、アリアちゃんはリアルと闘うことを教えてくれるのだから。

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