第5話 巨乳に関する質問箱を探すんだな。
「パートナーが好きな季節は?」
退治した魔物から出てきた宝箱にはそんな質問が書かれていた。
たしかに試されている。
恐らく質問とは全てパートナーに関するものなのだろう。相手のことを知っていなくては、質問には答えられないわけだ。
しかしどうだろう。このラブクエストに参加している冒険者たちはほぼ全員が今日、しかも約一時間前に初めて顔を知ったのだ。
相手のことなど知っているはずないじゃないか。
いくらなんでもそれを質問に出すには時期が早すぎである。
しかし!
俺はこのゲームの厳しさを感じながら、答える準備は整えていた。
「……冬だ!」
…………ガチャ
貝のように、ゆっくりと宝箱の蓋が開いた。
「や、やった……」
どうやら俺の返答は正しかったらしい。
シャーロットの言う通り、中には銀色の鍵が一つ入っていた。
それを手に入れると、抱えていた宝箱が自然と消滅する。
「あとは、出るだけだ!」
鍵を懐に入れて、俺は出口に向かって歩き始めた。
出口と指示された扉の向こう側は先ほどまでいた食事会場であり、つまりまた元の場所に戻れということなのだ。
その扉の横には門番のように紳士服の男が立っており、鍵を持って近づく俺に視線を向けた。
「鍵はお持ちですか?」
「はい。これですね」
「おめでとうございます。あなたは扉の向こう側でパートナーを助けることができます。ただ、実はこの鍵はもう一つ使い道があるのです」
「…………?」
「その鍵と引き換えに、現金百万ゴールドを得てこの国から出ることができます」
現金、百万ゴールド!?
庶民からしたら目が飛び出る以上の金額だ。
そんな金があったら俺も生活に困らない。当分剣を握ることはなくなるだろう。
それにも驚きだが、なんとまあゴールドを手に入れるだけでなく国を出ることができる。つまりそれは、
「自由の身ってことですか……?」
「ゲームは終わりです。そういう解釈もございますね」
俺が求める、自由。解放。本物の愛なんてどうでもいいんだ。
「パートナーを助けるか、ゴールドと交換し自由を得るか、どちらか一方をお選びください」
息を呑む。
呼吸を整える。
自我を保つ。
俺が苦渋の決断に迫られている
その時、
「トーイいいいいい!!!!!!」
泣き叫ぶ、みっともない男の声が俺の名を呼ぶ。
声の方向に首を曲げると、顔を真っ青にさせたエイダンが階段を駆け下りてきていた。
「なんだ。トイレ行きたいなら回れ右だぞ」
「違う。わかんない、全然わかんないんだよ、質問! お願いだ手伝ってくれ!」
「お前、都合がよすぎるぞ。相手の為に少しは努力してみろ」
「何も知らねーんだよお。巨乳なことしか分からんんん」
「じゃあ巨乳に関する質問箱を探すんだな」
「そんなもんあるわけねーだろおお。あんな少ししか話してないのに、相手のことなんか分かるかよ……」
「そういうことだエイダン。お前はこのゲームの試される部分にまんまとやられたわけだ」
「どういうことだよ……」
「お前の言う通り、会ってまだ間もない相手のことなんて詳しく知っているはずがないんだ。けど、それを知る術はきちんと用意されていたよ」
俺はラ・ブックを取り出した。
「相手と交換した『プロフィール』さ。俺達が宮殿の入り口で記載したように、交換した相手のプロフィールの中にはうんざりするほどの趣味や好みが記載されていたよ。今は見れなくなってるけど、食事会の時は見れていた」
俺は食事会で一人の時、セリアさんのプロフィールを眺めていた。質問に対する情報を、偶然目にしていたのだ。
「外見だけではなく、どれだけ中身も知ろうとしていたか。きっと、それがこのゲームの意図なんだよ」
雰囲気や見た目、そして巨乳しか見ていなかったエイダンみたいな連中は、このゲームでことごとく落とされるということだ。
「トーイ、俺達、……親友だろおおお?」
相変わらず自分勝手で都合のいい奴だ。いつも以上にしがみついてくる。そりゃあそうだ、このまま脱出できなければ赤い粉となって消えてしまうのだから。
長年一緒にやってきた仲だ。見殺すなんてことはできないし、力にはなってやりたい。だが、
「手伝うって言っても、俺は何をすればいいんだ。お前が答えなきゃいけないのに、俺がいて何になる。俺はお前の相手の何も知らない。何の役にも立たないぞ」
「好きな果物……」
「え?」
「好きな果物なら、知ってる……。言ってたんだよ……ブドウって」
「一緒に探せって? 好きな果物が質問として書かれた、宝箱を!」
「お願いだ……! このとおり!」
エイダンは俺に手を合わせて頭を下げてきた。
「……ほんと呆れたやつだよ。手伝ってやる。まだ時間あるしな」
「ほんと助かる。今度飯奢るから」
本当にその機会はやってくるのだろうか。本当に俺たちは日常に戻れるのだろうか。
たしかに「好きな果物」という質問はプロフィールにあった。しかし、それが質問となった宝箱が存在するかは不明だ。無いこともありえる。
その場合、エイダンは完全に詰みだ。
「やったー! お先に失礼!」
ハツラツな男が鍵を持ってやってきた。紳士服の男は俺達に聞こえないように先ほどの説明を彼にする。男は頷いて鍵を差し込み、回した。どちらを選んだかは、向こうに行ってみないと分からない。扉が奥に開かれた。
男がそこから出てると、扉が自動的に閉まり始める。
「うおおおおおお!!」
なんと、鍵を持たない青髪の若い弓使いが出口に向かって走ってきた。
「まさか鍵を持たず、強引に出るつもりか?」
鍵を使って出て行った者によって開かれた扉。それが閉まる僅かな隙に男はそこに滑り込んだ。
「ンぐあぁっ!」
しかし、呆気なく体が消滅。恐らく「ルール違反」とみなされ赤い粉塵と化してしまったのである。
「トーイ。俺はこんなにも絶望したことないぜ」
「とにかく目的の宝箱を探すしかない。行くぞ!」
俺とエイダンは館の奥へと進んだ。
残り時間四十分。
この限られた時間内に、あるかも分からない特定の宝箱を見つけるなんて無謀にもほどがある。
しかもその宝箱を手に入れるには魔物を倒す必要まであるのだ。
「トーイ! 見ろ、魔物だ!」
廊下の先は十字に別れており、そのど真ん中に目玉が一つの魔物がいた。二本足で立つ、小さめのやつだ。
「ギィエエエエエエ」
俺とエイダンの存在に気づくと奇声を上げて両腕を掲げる。攻撃態勢に入ったその時。
その魔物は無残に分断され、床に転がった。
「……え?」
驚きのあまり俺達は立ち止まって唖然とする。
まるで切られたことに気づかなかったように血が遅れて出て来た。とても綺麗な切断面と、斬撃数に見合わない一秒にも満たない成された時間からは容易く剣の腕を疑える。
十字となっている廊下の右横から、剣を抜いたまま走る赤髪の男が出て来た。
癖の強い髪質は、まるで彼の狂気さを表しているようで、今度はそれを行動に示し始めた。
魔物が死んだのを楽しそうに眺め、出て来た宝箱を鷲掴みにして持ち上げる。
「スクランブルエッグ!」
質問を見てすぐに男はその単語を叫んだ。
不正解だったようで宝箱は消えていく。男はそれを投げ捨てて、左側の通路へと走り去った。
「なんだアイツ!」
エイダンと共に後を追い、男を再び視界にとらえる。
彼は廊下にいる魔物をどんどん剣で切り裂いていくのだ。それはまるで何も考えていない。視線と体の動きで分かる、全て感覚だ。
魔物を倒しては手に入れる宝箱に対して適当な言葉を放ち、捨てていく。
「腰!」「草!」「花びら!」「三人!」「猫!」
答えが正解かどうか分かる前に宝箱を投げ捨ててしまう。最初から不正解だと知っているかのように。
「トーイよ……やべえ奴がいるもんだ。あいつとは関わりたくないし、宝箱を先に見つけられたくないぜ」
「同感だよ」
「……ん?」
ここで俺は、とある事象に気づいた。
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