第4話 最初のゲームは『宝探し』です。

「ようこそ、男性のみなさん!」

 その元気な声の主はもちろん、シャーロットだ。


「最初のゲームは『宝探し』です」

 その言葉を聞いて、辺りが一斉にざわついた。

「おいおい、どういうことだよ」「ペアはどうした?」「女性側はどうなってるんだ」


「みなさんのパートナーは、向こうの部屋に閉じ込められています」

 男達は黙った。目を尖らせた。

「きっと向こうは向こうで足搔くでしょうが……、助け出すことができるのは男性のあなたがたです。

皆さんはこれから、隠された宝箱を探してください。

その宝箱は開きません。開けるには、宝箱に書かれた質問に答える必要があります。不正解の場合ペナルティは無いですが、その宝箱は消滅してしまいますので他の宝箱を新しく探さなければなりません。

その宝箱の中には、鍵が入っています。それを持っていればみなさんはここから出ることができ、パートナーを助け出すこともできます。鍵を見つけて脱出、それがこのゲームのクリア条件です」

 パートナーを……女性を助けるために、男性が宝箱を探すというゲームか。二人で協力というよりかは、完全な個人プレイじゃないか。俺一人が頑張らなくてはならない。

「制限時間は一時間。一度手に持った鍵は、その本人しか使えないのでご注意を。それでは……ゲームスタートぉ!」

 

 慌てて動き始める男の群れの中、俺は手で口を抑え、勝手に一人で勝った気になっていた。


 だって、このゲーム……まるで”愛”がいらない!!


 たしかに女性のパートナーの為に動き回りはするが、ただ宝箱を探すだけ。探して質問に答えるだけなんて、誰にだってできる。

 ただ、不安なのがその質問だ。どんな系統の質問が来るのかが全く分からない。知識的なものか、心理的なものか……はたまた計算系か?

 とにかく宝箱を探そう。考えるのはそれからだ。一時間と制限時間があるのが要となる。時間内に俺が脱出できなければ救出失敗となり、俺もセリアさんも消滅してしまうのだろう。回答可能な宝箱を見つけるまで時間がかかるかもしれないし、そもそも宝箱が人数分あるのかすら不明だ。

 

「しっかし、広すぎやしないか……」

 宮殿の中に用意された、ゲームスペース。一体、人が暮らしている所はどれだけ広いのだろう。

 まるで後片付けができていない子供部屋のように物が散乱した中央部屋を俺は探し始めた。武器を備えた冒険者達が腰を曲げて手探りをしている構図は、自分で言うのもなんだがあまりにも地味だった。


 この『宝探し』にわりと乗り気でお喋りだった男性達も十分ほど経つと、ほぼ無言になっていた。なぜなら、

「くそ! 宝箱なんてどこにあんだよ!!」

 俺の隣にいた男が叫びながら、自身の武器である巨大なハンマーで周辺の物を薙ぎ払った。

 ……そう。隈なく探してもそれらしいものは見当たらない。俺達が探している宝箱が、そもそも想像している宝箱なのかすら怪しくなってきた。


 明らかに腕の動きが遅くなってきていた時、異変は起きた。


「うわああああ!!!!」

 男達のその悲鳴は、吹き抜けの三階からよく聞こえた。

 ドタドタと多くの参加者が階段を駆け下りてくる。


「どうした、何があった!」

 ハンマーの男は上に声をかけた。


「魔物がっ……魔物がいたんだ! 奥の部屋に!」

「……なに? 本当か?」

「本当さ! 開かない巨大な扉があって皆で力を合わせて開けたら、でかいカマドウマみたいな魔物がいやがった。剣士が一人、頭を食われちまったよ!」


 頭を……食われた?


 剣士が……魔物に?


 この、宮殿内で?


 俺はあらゆる単語を整理し、状況を疑った。


「おいおい、そんな冗談はよせよ!」

 俺の隣で男はハンマーを振りながら大げさに笑う。

「自分が勝ちたいからって、人を騙すのはやめ――ッ」


 濡れ雑巾が落ちるような音がした。

 何かが、床に落ちたのだ。俺の真横で。

 それが視界に入ると、瞬く間に血の気が引いた。


 床に広がった血だまりの真ん中には、ぐちゃぐちゃになった頭が落ちていたのだ。男の、鼻より上の部分だけが床に乗っていた。

 当然、俺の横に立つ男の頭は半分無くなっており、右手に掲げられていたハンマーがするりと抜け落ちる。そしてハンマーは床に落ちた自身の上頭部をぺしゃんこにしたのだ。

「……ひっ!」

 体が倒れると共に周囲の男たちはようやく起きている出来事に反応し、武器を構えて距離を取っていた。


 犯人は刃を構え、階段裏に張り付いていた。

 容易く人間の頭を切断した刃は鎌の形をした長い腕である。その黒い毛並みの生物が床に降りた。

「この宮殿……本当に魔物がいやがるのか!」

 参加者達は驚きの声を上げ、じりじりと様子を見ていた。


 しかし彼ら冒険者は魔物を討伐するのではなく、背中を向けて館の奥へと進んで行ってしまったのだ。

 俺は一人残る。なぜかって、俺はちょうど部屋の隅にいて魔物と壁に挟まれて逃げ場がないのだ。

「くそ……」

 絶望的だ。

 しかし、彼らに助けてくれだなんて言わない。去って行った者達の気持ちも理解はできた。このゲームの目的は宝を探すことであり、魔物を倒すことではない。そして完全に逃げることのできない俺みたいな囮役がいたのならば、それは好都合と考えてしまうだろう。

 俺はこの状況を一人で打破しなければならない。


 この魔物……幻覚とかじゃなく、倒せるんだよな……。


 俺は剣の握りを掴んだ。

「フレイムスルー!!!」

 刃から炎が発生する魔法を使用し、得意の抜刀術を組み合わせて瞬く間に魔物を一刀両断させた。


「グェエエエエ……」

 不気味な鳴き声を出しながら絶命する魔物を見て、ふうと溜息を吐きながら剣を鞘に納める。

「低級でよかった……」

 安堵していると、俺はそれを目にした。衝撃と歓喜が胸の中で一気に込み上げる。見つけてしまったのだ。

「もしかして、これが宝箱か!?」

 いや、出てきたという言い方が正しいだろう。

 俺が倒した魔物が灰のように粉塵と化して無くなり、宝箱だけが残ったのだ。


「……宝箱は魔物の中に隠されていたというわけだ。めちゃくちゃ偶然だけど、結果オーライだ」


 一人で笑いながら箱を持ち上げて確認した。肝心なのはこれからで。

 何か箱の側面に書かれている。恐らくこれが質問だろう。

 俺はそれを読み上げた。

「……パートナーが好きな……季節……は?」


 そこに記載されていた質問は、頭が良ければ分かるものでも、人間性を確かめられるようなものでもなかった。


 パートナーが好きな季節は。


 俺はその答えを考えるより先に、ああなるほどと脱力してしまった。

 このゲームの意味を悟った。


 たしかに試されていたのだ。

 パートナーとして相応しいかどうか。


 パートナーに興味を持っているか、を。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る