第2話 俺たちでゲームをクリアするんだ!
「では、ゲームスタートです!」
シャーロットという少女が発した声が、恐怖のゲームのはじまりを告げた。
五分以内にペアを作れだなんて、無理に決まっている!
まさかこんなことになるなんて。今では後悔しかない。
室内は瞬く間に混沌と化す。
必死な当てずっぽうの勧誘合戦が始まり、いろんな場所で渋滞が起きていた。
あらかじめ気になっていた人同士もいたのだろう。「ペア!」という声もきこえてくる。
「ふう……」
孤独でありながらもお俺は不思議と冷静でいられた。落ち着いて考えれば、この状況は乗り越えられる。
このゲームから生きて逃れるには、クリア条件を満たす必要がある。
シャーロットの言っていたクリア条件は、
『5つ全てのゲームクリア』
か
『愛のキスをする』
どちらか一方を成功させること!
愛のキスは俺には無理だ。到底そんな未来は見えない。
しかし、ゲームは全てクリアすれば脱出できるということである。
シャーロットも言っていたが、”ほぼ確実”というのが抜け穴であり、ゲームクリアに愛は必ずしも必要ないのである。
そうと気づいた俺は真っ先に走った。大声で名を呼んだ。その相手は、
「エイダンんんん! 早く、俺とペアを組もう!」
「いや、ありえねー。気持ちわるいぞ」
「異性だけが条件とは言っていないだろ? 俺たちでゲームをクリアするんだ!」
エイダンは恐怖のゲームの存在に身を震わせるどころか、馬鹿みたいに表情を緩めていた。
「お前と恋人同士になるつもりはねーよ。残念だけど、もう相手見つけちゃったもんねー」
そう言う彼の横に並んだのは、武闘家の少女だった。気の強いSっぽい感じで、巨乳、そしてとても美人。エイダンの理想のタイプだ。
「まじ……かよ……」
「冗談言ってねーで、早くしないと時間がねーぞ。俺も協力してやるから!」
「うるさい!」
俺は逃げるようにエイダンの前を去った。
あいつの力だけは借りたくない。俺はあいつがいなくたって何でもできる。できるはずだ。普段俺がいないと何もできないあいつが、真っ先に相手を選びやがった……。このイベントだって、あいつの我儘でしょうがなく付いてきてやったのに……。なんだか、裏切られたような気がして、悲しかった……。
「……くそ」
会場の中央で立ち止まり、俺は絶望感に浸りながら周囲を見渡した。
俺みたいな冴えない奴が、簡単に異性から好意を寄せられるわけなく。
「だから、こんなのはごめんなんだ。二度と来るか……」
そんな言葉を吐きつつ、本当に二度と来れないかもしれないという思いが脳裏を過った。
ラ・ブックの裏表紙に書かれた動く時計を、嫌でも目にしてしまう。
「あと、一分……。俺は……ここで……消える……」
時間が無く、いまだペアが成立していない人たちは会場内を駆け回っていた。とにかく誰でもいいからペアを作ろうと必死なのだろう。
しかしそんな中、ひと際目立つ大きな人だかりが視界に飛び込む。
何かショーでもやっているかのような、男性の群がりである。
目を凝らして見てみると、寄られる中央には一人の女性が身を縮ませていた。
「セリアさんだ……」
セリアさんが顔を引きつらせて、男に囲まれていたのだ。
俺がそれに気づき視線を向けたのをまるで感じ取ったかのように、彼女がこちらを向いてきた。僅かな隙間から、俺を存在を捉えたのだ。
しかし、咄嗟に俺は目を逸らす。見て見ぬふりをしたのだ。
俺が彼女を助け出す理由なんてどこにある。
助け出してどうする。
その後はどうする。
俺は彼女とペアを組めるのか?
セリアさんみたいな美少女が、俺みたいなやつを求めるはずがない。
ていうか、俺の助けなんていらないだろう?
俺と違って、あなたは何もせずに人が寄ってくるんだから。
さっきもそうだったじゃないか。
……――
時は少しさかのぼり。
「美味しそうな料理に、可愛い子もいっぱいじゃないか!!!」
会場に初めて入った時、エイダンは飛び跳ねるように喜んでいた。
「早く行こう! 肉が無くなっちまうよ!」
「そっちかよ」
少し腹ごしらえをしてジュースを飲んでいるとエイダンが小声で話しかけた。
「そろそろ俺たちも行くか。きちんとめぼしはつけている。あの隅っこでソファに座っているグループだ。あの左端に座っている子、可愛くね?」
「んー、俺は真ん中のほうが好みだね」
「よし、そうと決まれば行くぞ!」
「いや俺は狙っているだなんて言っていないぞ!」
エイダンに無理やり手を引かれ、既に集まった男女のグループへと連れていかれた。
「すみません、よかったら俺たちも入れてもらえねーっすかね?」
「いいですよ!」
ソファの端に座る女の子が優しく返してくれた。
肩くらいまでの長さの綺麗な黒髪、かっこいい系で巨乳。エイダンのドタイプではないか。まったく。
なんだか、ここのグループは出来上がっていた様子だった。男性四人、女性四人とちょうどよく成り立っているし、このメンバーで今日は過ごそうと皆が思っていたのではないだろうか。そこに俺たちが入ってしまったと考えると……完全に邪魔者じゃないか。申し訳ない。
最初から始める感じの馴れ合い……面倒くさいなぁ。
そんなことを思いつつグループ内で雑談(話を合わせただけ)をし、プロフィールの交換(流れに合わせただけ)もした。
一時間ほど話したころ、俺は一人席を外して食事卓へと向かった。休憩(話した労力と、常に気を遣った疲れによる)である。
パイナップルを皿に取りながら、俺は深く溜息をついた。そして周りの話し声が雑音と化した時、ふと我に返る。
「早く帰りたいな……」
そう呟いた時、すぐ横に何か気配を感じた。
軽く首をひねると、ちょうど肩の部分に触れそうなほど近づいた女の子の顔があったのだ。
「うわああッ! えっ!?」
驚き悲鳴を上げると、女の子もビクッと反応して後退る。それから互いの顔をじっと見つめあうと、ふふと小さく笑った。
「セリアさん……」
俺はゲーム前に、再び彼女と会ったのだ。
そこで、思いがけない悩みを聞くこととなる。
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