運命の宝探し
第1話 では、ゲームスタートです!
「レディース&ジェントルマン! 盛り上がってますかい!」
部屋の大きな扉から登場した声の主は、小さいながらも立派な貴族のように衣装を着こなした、顔の整った金髪少女だった。黒いスーツに、ピンクの蝶ネクタイ。なんだか胡散臭い。
マイクを片手に、その調子のいい声で語りを続けた。
「わたしはここの支配人、シャーロットです。以後、お見知りおきを。お楽しみの最中ではございますが、重大なことをこれから告げますのでご清聴ください」
会場内に集まった冒険者たちは、瞬く間に静まった。
男女が共に行動している中、全くそれに興味がなく孤独でいた俺もそれには耳を傾ける。
「今日は年に一回、ラビリア王国が主催する、冒険者限定男女マッチングイベント『ラブクエスト』に参加いただき、ありがとうございます。魔王が倒され、この世界は平和となりました。ただ、冒険者で溢れる一方で、少子高齢化や独身者増加が問題視されているのは皆さんもご存じで。誰かが動かなければ問題は解決しない。なのでわたし達ラビリア王国が多額の金をかけ、救済イベントを企画したのです」
シャーロットの甘い声が、豪華で大きな会場内に広がる。
先ほどまでイケメンに見惚れて会話に夢中だった女性も、
腕のいいシェフが用意したであろう高そうな肉を頬張っていた男性も、
壇上で話す彼女に夢中だ。
「みなさんがここに集まったのは、何のためですか? そう、愛を手に入れる為ですね。ただ――
愛はこの世で最も必要ですが、最も必要でない。
それがなくとも剣と魔法で生きていけるみなさんは、求めて今日ここにやってきた。それは紛れもない事実であり、証拠。これまでもみなさんは努力をしてきたはずです。食べて話すで終わってしまっては、何の進展性もなくつまらないでしょう。どこにでもある食事会と同じで新規性もない。今後関わりがあったとしても、そこに生まれるのは薄っぺらい疑惑の愛でしょう。そんな回りくどいことはしたくない。なぜなら、あなた達が求めるのは、信憑性しかない真実の愛なのですから」
「なあ、まわりくどいこと言ってないで。一体何をするってんだ?」
頬に傷の入った剣士の男がシャーロットにぶつけるように言い放った。
「こっちは高い金払って来てるんだ。ご飯食べて終わりじゃないってなら、何か特別なもんがあるんだろう? なんたって、参加した者はほぼ確実に本物の愛を手に入れられるんだもんなぁ!? なあ、はやくくれよ。そうだ、魔法だろ!! 特別な魔法で、本物の愛を俺達にくれるんだろ!?」
「お願いします。少し黙ってくださいませんかクソ剣士」
それは、
紛れもない、シャーロットの発言だった。
表情は変えずとも、声のトーンと周囲のオーラが完全に会場の空気を揺るがしている。彼女は、先ほどとは何か違う!
「ほんと、冒険者の皆さんは恋愛がクソド下手ですね。剣と魔法があれば愛はいらない。冒険に愛は邪魔だ。冒険者の皆さんはかっこいいプライドをお持ちで。しかしそれらはみんな言い訳ですよね。そのプライドでお互いがお互いをつぶし合い、まともな恋愛もできずに、いざ雰囲気が良くなったと思ったら全くもって意味不明な羞恥心と鈍感さで台無しにしてしまう。剣と魔法と、それに愛も実は必要です? 本当に必要なら、そんなプライド捨ててしまってください」
会場内の冒険者達は彼女に圧倒されていた。
「愛は、皆さんが思っているほど、魔法で出せてしまうほど、簡単なものではないのです。それなりの覚悟と、努力と、時には犠牲もつきもの。いいですか、よく聞いてください。
みなさんにはこれから五日間にかけて、ゲームに参加してもらいます。
このゲームはもっとも効率的に確実的に効果的に、本物の愛を作り出すことができるのです。そのゲームこそがラブクエストの大本命。魔法で本物の愛を与えるわけではないのです。これを成功させた時、あなた方が築き上げたものが本物の愛なのです。過去の成功者は、満足そうにこの国を出て行きましたよ……」
ゲームだと……。
俺は一人、絶望を感じていた。
「さて、さっそくこれから。みなさんには『ペア』を組んでいただきますよ」
はい、俺、終了。
ぼっちにペアを組めという命令は拷問にも等しいのをあの女は知らないのだろうか。
「もちろん、ラブクエストを経て本物の愛を手に入れる相手……そのペアはイベント中における、ゲームをクリアしていくパートナーとなります。今までの時間、皆さんはあらゆる交流を果たしたでしょう。その経験を踏まえて、自分が最適だと思うペアを作ってください。これはまだゲームの序章ですよ」
まるでめんどくさい。不参加でもいいのかな、これ。
端っこでずっとパイナップルかじっててもいいかな、これ。
シャーロットは紐で縛って腰から吊り下げていた小さな本を手に持った。
「みなさん、『ラ・ブック』はきちんと持っていますね? それはゲームの参加証でもある大事なものです。相手が決まったら、お互いにラ・ブックを重ねてください。そして同時に『ペア』と言うと、成立します」
あ、もう俺には無理じゃん。成立はしません、永遠に。
「制限時間は5分。わたしが5分経過の合図をするまでに、ペアを成立させてください」
突然の進行に、会場内は静寂に包まれていた。
「ちょっと待った!」
固まった状態の中、大剣を背負った一人の男性が大声を張って人の波を分けながら前に出たのだ。
「俺は抜けさせてもらうぞ! ゲームなんか聞いてねえ。んな面倒くさいことやってられっか!」
正面の大きな扉に向かい、取っ手を引こうとした、その瞬間――
「――――っ」パンッッ!!!!!
弾けるように男性の体が破裂し、一帯に粉塵が舞う。
衣服は崩れ落ち、その粉は真っ赤な灰のようなものとなって床に散乱した。
男性は、瞬く間に消滅してしまったのだ。
再び静寂に包まれ、異様な空気となっている会場にシャーロットの不気味な笑い声が響き渡った。
「んふふ……いいですか……
ゲームはもう始まっているんです。
この国に入った時点で離脱はできません。ここに入った以上、あなた方はラブクエストをクリアしないと出ることはできないのです」
皆は戦慄していた。
この中で誰が、この状況を呑み込むことができているだろうか。
「わたし、変なこと言っていますか? それとも、みなさんは都合が悪くなれば逃げてしまうような、その程度の覚悟で愛を求めてやってきたのですか? どんな理由であれ、みなさんはラブクエストをクリアすればいいのです。
ラブクエストのクリア条件、それは二つの選択肢があります。
一つ目は、ペアで全てのゲームをクリアすること。
パートナー同士の絆が試されるゲームを、大きくわけて5つ用意しました。それを全部クリアしてみせてください。先ほど申した通り、これは本物の愛を築く試練です。全てクリアということは、それなりに実る愛も出来上がっていることでしょう。
ただし、ラブクエストにおける”ほぼ確実に愛が手に入る”というのは、このゲームは試練なだけで必ずしも愛し合う結果とはならない、ということなのです。なのでこれにはご注意を。
二つ目は、ペアでキスをすること。
それもただのキスではない、愛のこもった誓いのキスです。
これが、結ばれて国を出る百パーセントのクリア方法。
時間や場所は問いません。本物のキスができればそれは本物の愛を手に入れたも同然です。イベントの意図もクリアということになります。
このどちらか一つを成功させる、
それがラブクエストのクリア条件です」
そしてシャーロットは目線を床に散った赤い粉末に動かした。
「しかし、ルールに背いたりゲームに失敗した時は……どうなるかお分かりで」
口角をつり上げて鋭い目で俺達を嘲笑っていたシャーロットは、瞬く間に子供のような笑顔を向けた。
「みなさん、そんな怖い顔しないでください。全てはみなさんが本物の愛を見つける為のものなんですよ。世界で一番の恋とゲームを、楽しんでください」
なお、静まり返る会場。
ここにいる誰もが悟っただろう。
今、何が起きているのか。
これは現実なのか。
そして、自分たちもあの男性のようになるかもしれない。
思いがけない無残な『死』が待っているのだ。
このペア決め、五分以内に成功しないと、ゲームオーバーだ。
特に男性は息をのんだことだろう。男性参加者が130人に対し、女性は118人と、確実に数名の男性が取り残されるのだから。
最悪の状況を想像するのに、俺はそう時間はかからなかった。
確実に俺は取り残される。
恐らくこの会場の中で最も人と関わるのは苦手で、自分に自信のない人物が俺だ。
「では、ゲームスタートです!」
シャーロットの掛け声が会場に響く。
冒険者が誇ってきた剣と魔法ではどうにもならない。
誰もが後に戦慄する、愛をかけた生と死のゲームが幕を開いた。
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