勇者様、ラブクエストへようこそ
舞知崚博
プロローグ 旅立ち
「トーイ、ラブクエストって知ってるか?」
俺の友人、エイダンからの誘いが全てのきっかけだった。
「知らないな」
簡素に答える。
「冒険者の間で今、話題でよ。国家主催のイベントで、そこで出会った相手とは確実に結ばれるらしいぜ」
「はあ……なんだそれ。今は依頼に集中しろよ。関係ない話はよせ」
「関係なくないだろう!?」
馬車の荷台で運ばれる中、エイダンは声を荒立てた。
「うるさッ!」
「俺達生まれてから一度も恋人らしい恋人できたことないだろ! 女の子と最後に手を繋いだのはいつだ? そうだよ、七歳の時に幼馴染のソフィアとだよ。それも、俺達三人でな!?」
「危ないから座れ」
「俺達はずっと剣術を学び、冒険が好きでここまでやってきた。だけど、そろそろ結婚という将来像も考えた方がいいんじゃないか? このままだと一生独り身な気がする」
「俺は今の生活で満足してるけど……」
「トーイよ。俺と一緒にラブクエストに参加してくれ」
人の話聞いてた?
エイダンはとにかく参加したいのだろう。普段は全くすることの無い時事問題について話し始めた。
「魔王が倒されてから、世界は平和になった。俺達は自由になり、幸せな家庭を築いていけるはずだった。だが、世界は自由になりすぎた! 支配からの解放で、悪い方向に自由が多様化してしまい、恋愛をする人間が減ってしまったのだ……。俺達に恋人がいないのも、全ては社会のせいなのかもしれない……」
人のせいにするな。
「全人類が忘れかけている愛は、人生で大事なものだと再認識する必要がある。だからさ、お願い。一緒に、ね?」
「あんまり気が乗らないな。なんかそのイベント、胡散臭くないか?」
「お前さあ、そんなんじゃ一生そのままだぜ。なんでも行動に移さなきゃ」
「一人でやってみればいいじゃないか」
「…………」
「……一人じゃ心配なんだろ」
「そりゃあ、大親友がいてくれたほうが心強いだろ。安心しろよ、参加費の一万ゴールドは俺が払う!」
「参加費たかッ! 盗賊に目をつけられたら終わりじゃん」
「お前だけが頼りだ!!」
「……しょうがない。様子見て、すぐ帰るからな」
ちょっと顔出したらすぐ帰ろ。二秒くらい見て。
恋人を作ろうと必死になる友人に、俺はついつい気を許してしまった。
今回もエイダンのただの思い付きに過ぎないと思ったからだ。こいつの気まぐれは、いつもすぐに飽きて終わるからな。
俺は面倒くさいと思いつつ、結局いつも首を縦に振ってしまう。
エイダンは派手で格好良く整えられた金髪と好奇心旺盛で自由気ままという、何事も慎重で積極性が無く何の工夫も見られない真っ黒な髪型をした俺とは正反対な男だった。
しかし根本的な所が似ているのだろう。腐れ縁というやつだ。
不器用ですべてが空回りしている所が健気な奴で、悪い男ではない。だから俺は溜息を吐きつつも、いまだにこいつとつるんでいられるのだろう。
ラブクエスト開催日当日。俺は約束通りエイダンと、馬車で故郷から三時間かけてラビリア王国へとやってきた。
あまり乗り気でなくテンションの低い中、さらに憂鬱になる出来事が、俺達の前に現れる。
「参加費を全てここに置いていけ。断れば殺す」
顔を隠した数十名の盗賊が馬に跨り、一人の女性の行く道を遮っている。
その中で長と思われる男が鋭く睨みつけ、剣を向けて脅迫していた。
そんな光景を俺はエイダンと目の当たりにし、行動の選択を余儀なくされた。
”助ける”以外の選択肢はない。
「助けに行くぞ、トーイ。もしかしたらイベントはここから始まっているのかもしれねーぜ!」
目を輝かせたエイダンは躊躇なく剣を抜いて飛び出した。
「おい!」
俺も援護のつもりで無鉄砲な相方を追う。
「俺が魔法で意識を引くから、その間に助けろ!」
「おーけー!」
俺は背後から作戦を告げ、盗賊達の間に入った。
「むっ!!」
盗賊が驚いている間に、
呪文を放つ。
「フレイムフォール!」
俺の持つ剣が赤く光り、炎が溢れ出る。そして周囲に大きな炎の壁が誕生した。
「な、なんだ!? 魔法か!?」
視界が真っ赤に染まった盗賊達は驚く。馬が後退し、女性を助けるには絶好のチャンスだ。
「今のうちだ、エイダン!!」
「お嬢さん。俺の名前はエイダン。どうぞ、呼び捨てでお呼びください。あ、なんてすべすべな手肌。健康なんですね。いえ、礼には及びません。どうぞ、これから末永く――」
「いや今そんなことしてる場合か! 早く行くぞ!」
俺は二人の手をつかみ、強引に引っ張ってその場を去った。
巨大な炎が消えた頃には盗賊から遠く離れており、悔しそうな彼らの姿を背後に、俺達は逃げるように門の中へと駆け込んだ。
何はともあれ、目的地であるラビリア王国へ着いた。
「あ、ありがとうございます。友達と待ち合わせをしていたら、あんなことに……」
助け出したのは、桃色の美しい髪の女性だった。
花の髪飾りがとてもかわいい。小柄で律儀そうな雰囲気に反して猫のような釣り目がなんだかグッとくるポイントだった。
「わたし、セリアっていいます」
話を聞くと同じ『ラブクエスト』への参加者らしい。
こんな可愛い子でも、出会いを求めてこんなところに来ているのか。キッカケというのはそんなに日常に無いものなのか。
賑やかな街を歩き、開催地となる宮殿へ一緒に向かった。
途中、セリアさんは友人達と合流でき、俺達は微笑んで別れを告げた。
「いいなあ、セリアさん……また会えるかな」
「あんな人が彼女だったら、幸せだろうなぁ」
「なんだよトーイ。結構その気じゃねーか!」
「世間的に見てだよ……!」
宮殿の入り口に着くと、参加者と思われる若い冒険者達が列を作っている。
なにやら参加する為の登録を行っているらしく、皆は必死に何かを机で書いている。自分の番になるとそれが何か分かった。
個人情報も登録するようで、名前や年齢などよくある項目だけでなく、好きな武器やら動物、お気に入りの音楽や場所など、気が遠くなるくらいたくさんの情報が登録に必要らしい。
「よし、できたっと」
「……早いな」
記入が済んだエイダンの登録書はボン!と煙に包まれ、なんと、小さな本に変化したのだ。
「それは『ラ・ブック』と言って、参加証明書になるので大切にお持ちになっていてください」
紳士服を着たダンディな男性が横から説明してくれた。
「早く書けよ、トーイ!」
「わかってるよ」
記入が終わり俺もラ・ブックを手に入れるのを紳士服の男が確認すると、宮殿の中への案内が始まった。
「本日はようこそおいでになられました。王も歓迎しておられます」
「なあ、可愛い子いっぱいいる?」
「それはもちろん。既に参加者の入国は制限されており、この度は男子百三十名と女子百十八名、計二百四十八名が参加しています。そういった情報も、ラ・ブックで確認できますので覗いてみてください」
エイダンは一人でガッツポーズをとる。
「俺はかっこいい感じの魔法使いの女性がいいなぁ。あと巨乳な人がいいなぁ」
「ほざいてろ」
「その他、ラ・ブックでは様々なことができます。時間や情報の確認はもちろん、プロフィールもそこに載ります。自分のプロフィールだけでなく、交換した他人のプロフィールも自由に観覧することができます。互いの本を近づけ、『トレード』と言うと交換成立です」
「このラ・ブックって、魔法でできてるんですか?」
俺は気になって尋ねた。
「そうですよ」
「魔法ってすげー」
しかし、廊下だけでとても広く大きく、豪華な宮殿だ。
「あの扉の向こうが会場です。先に着いた参加者達がパーティをしております」
「うおおおお! 早く行こうぜ!」
これから何が起きるかも知らずに、俺達は会場へと向かって行った。
恋心とプライドを利用した過酷な、
意欲の無い俺なんかにはとてつもなく苦痛な、
生き残りゲームが始まるとも知らずに……
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