薄汚れたペーパータウンの山羊たち

拙井松明

第1章 

第1話 Welcome

「お姉さん、この前のお話聞かせて」

「良いわよ。どこからだった?」

「うーん、忘れちゃった。最初からが良い!」

 子供たちに囲まれた女性が、木漏れ日の下で昔話をせがまれている。


「この世界には2種類の人間がいます。それぞれ“刻者マーカー”、“素者ペーパー”と言って、そのマーカーである男の人がとある街に行った話」

「どんな街?」

「どんな人なの?」

 好奇心旺盛な子供たちが、女性を質問攻めする。女性は微笑み、

「ここから遠く離れたところにある“セレティア”という大きな街よ。彼は自分がマーカーであるために、5歳で両親を失い、行き着いた孤児院でも事件に巻き込まれたの」




 その時のことは今も鮮明に覚えている。3年も悲しみに暮れ、やっと現実に馴染んできたと思った矢先だった。結局、警察も国もクズばっかだ。そういう俺も、クズの中に飛び込むのだから、何とも言えないか。


 グリーズ・スパーダ(後のグリーズ・ヴェンデッティ) 19歳、セレティアにて。


 -セレティア

「お前さんかい?ファミリーに入りたいってのは」

「ああ。いや、はい。よろしくお願いします。グリーズ・スパーダと言います」

「おう。俺はスケイレだ。よろしくな」

 グリーズと握手を交わすスケイレは、大柄の男で、いざ目の前にすると圧を感じる。彼は、来たばかりのグリーズに街案内すべく車を走らせてくれた。


「広いだろ、この街は。外の奴らは、雑居してて薄汚れてるとか言うけど、俺は好きだ」

 セレティアは、この国で二番目に大きな街であり、日常生活で必要なものは全て街内で事足りる。


「お前は、なんでうちに入ろうと思ったんだ?」

「この大きな街を治めている自治組織であるに憧れてまして」

「まぁ、腐り果ててる警察になるよりか良いわな。とはいえ、うちも汚いことはするんだぞ」

「わかってます。早くボスに会いたいですね」

(毒をもって毒を制す。そのためには、裏社会を仕切るアンタらのファミリーの力が必要なんだ)


 ボスの単語を聞いた途端、スケイレの顔色が変わった。青白いさの中に黒が混じるような色だ。

「おっと、なんだ?」

 車窓から外を見ると、ひったくり犯がバイクで暴走して花屋に突っ込んだところだった。犯人は、未だに大声を出して暴れている。


「グリーズ、最終試験だと思ってアイツを捕まえてこい!」

は使って良いですか?」

「ペーパーの俺からしたら、羨ましい限りなんだ。一発決めてこい!」


(消えてくれって思ってた力が活かされるとはな)

 グリーズはジャケットを車内に脱ぎ捨て、ワイシャツのネクタイを外した。

 そして後頭部に手を当てると、ワイシャツ越しに背中が光り出す。その光は、彼の刻証マークである剣を形をしている。彼の手がその光に触れると、そのマーク通りの剣が目の前に現れたのだった。


「斬られたくなければ、投降しろ」

「こいつ、マーカーか。めんどくせぇ、やっちまえ!」

 そう言うと野次馬の中から、犯人の仲間と思われる覆面の男たちが出てきた。鉄パイプや金槌など、様々な凶器を持っているようだ。


「俺は投降しろって言ったからな」

 グリーズに飛びかかる犯人たち。鉄パイプがグリーズの剣に敵うはずなく、パイプ自体を切断された。唖然とする相手の顔面に剣の柄で一撃をかまし、次の相手へと移る。


「何なんだよ!」

 金槌の一振りを剣で受け止めたグリーズは、それを切り返しで吹き飛ばし、その風を剣に追わせるように一人二人とみねうちで斬りふせる。

 まるでショーのような剣使いは、野次馬から歓声が出るほどだった。


「事の発端だけ残ったな」

「うるせぇ、バケモノ。これ以上近づい......」


「うるせぇのはアンタだよ、犯人さん」

 残りの犯人は煽り切ることなく、蹴散らされてしまった。グリーズは少し哀しそうな目を空に向けてから、車から降りるほど盛り上がっているスケイレの元へ行った。


「立派なもんだよ、お前さんは」

「いえいえ。これくらいはシメられます」

痛めに肩を叩かれる賞賛を受けたグリーズは、そのままスケイレの車に乗り、一日をかけて街を案内された。




-喫茶店

「今日はお疲れさん。さっきの犯人も無事確保されたっぽい」

「それは良かったです」

「謙遜すんな。俺らは確かにマフィアで、影を生きる存在だ。だがな、この街の人たちにとってはなんだぞ」

グッドマークしてくるスケイレ。すると、喫茶店の店主が、慌ててやってきた。

「スケイレさん、仕事の電話です」

「誰からだ」

(ボスから)

「ボスからです」

「それはそれは。今行く」


時折、ペコペコしながら電話をしている。グリーズには内容の見当がついている。というか、そうでなければ、わざわざスケイレのところになど来ない。

ボスと同じ街にいるのに、ボスの面を知らない地区長は、スケイレしかいないのだから。


「ボスから、俺ら宛に仕事だ。内容は少女をチンピラから取り返すことだ」

「そうですか。わかりました」

(ここまでは計画通りだ。あとは明日......)

「明日、本部から派遣される人が来るそうだ。俺は忙しいから、お前に任せたい」

「はい、頑張ります」

(あとは、仕事とを済ますだけか)



<次回予告> by ???

ついに始まる、ボス直々の仕事。

派遣されてきたのは、グリーズと同じマーカーようだ!

個人的にグリーズのような奴は苦手だ。

予告読んでる俺は誰かって?

それは次回までのお楽しみだぜ!


また次回も、どうぞよろしく!!


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