第60話 俺たちの進む道 1
死者行方不明者20万人。
被疑者20名。1名逮捕。他は全員死亡と推定される。
勇者の死因の多くは内ゲバと最後の火砕流での死亡とのことだ。
DNA鑑定するまでわからなかったとのことである。
自衛隊が持ちかえったアホは逮捕から初公判まで数年かかる見通し。
全容解明どころか正確な被害者数すら解明できるまで数年はかかる。
実家は放火され、家族は離散、ハヤトにへし折られて若くして総入れ歯。
体も動くようになるまで相当時間がかかるそうだ。
もちろんハヤトは治療を断固として拒否した。
世界には憎まれ、反省したとしても死刑は確実。
そんな状態があと20年続くわけである。
自殺すらさせてもらえないだろう。
俺なら耐えられない。
もちろん命を奪われた人々からすればふざけるなって話だろうけど。
でも怖いよね。
うん、アホの立場になって考えるのはやめよう。
危険生物討伐は数年かかる見通し。
経済的損失は天文学的金額。取り返しがつかない。
こうして世界でも類を見ないテロは終結した。
関口さんは処分できる資産のほとんどを復興のために寄付。
これに戦慄したのはいわゆる上級国民の皆様。
寄付をせねばならない空気に資産を放出。
空前の寄付ブームが起きたわけである。
関口さんはテレビに雑誌にと出まくっているが、ギャラを全て寄付してるため売名行為という批判すらほとんどない。
時代は美辞麗句の並んだ歌がテレビを賑わし、陰謀論と憎しみがネットで猛威を振るう。そんなカオス。
関口さんくらいガチで活動してても悪口はあふれている。
それでもおっさんは気にせず世論工作までやっていた。自分のじゃなくて俺やハヤトの分だ。
依然救出活動が続く中、人々はアサシンに熱狂していた。
俺たちの戦いはがっつり撮影されていた。
AIで再生されないように顔こそ映っていないが、俺の全裸着替えまで撮影されていた。
俺の粗品は小さなモザイクで顔はなしと……。
モザイクの大きさの改訂を要求する!
ヘソまでモザイクかけろ!
報道の連中だけは許さない!
絶対に! 絶対に許さない!
そこまで毎日報道されれば正体が気になるのは当たり前。
雑誌を中心に不確かな情報が錯綜しまくっていた。
ミッドガルドによる拉致被害者であることまで公開されてたせいか、俺の正体はどこまでも憶測を呼んだ。
でも異世界から帰還した仲間たちの口は固かった。
誰も俺の事を漏らさなかった。
絆ってやつは存在したのかもしれない。
だけど政府の役人とは絆なんて存在しない。
官僚がリークするのも時間の問題かなっと思っていた、そんな頃だった。
その日は学校は休み。……というか関東とその近県の学校は休校中、再開の見通しは立たない。
家を失った人はそれこそ数多いる。
瓦礫の片付けだけで数年がかりだろう。
当然、憎悪は犯人に集まり黒田を殺したアサシンも話題の中心だった。
俺たちはすでに留学名目の国外逃亡の手続きに入り、高校卒業を待って外国に留学する予定。
問題は俺とハヤトと真穂&歌穂の留学を望む国が多すぎたこと。
身分をリークしないし、俺たちを絶対に軍事利用しない約束を守れる国。
となると米の国くらいしかないわけで。
……それでもごり押しを断るのに時間がかかるわけである。
で、その日俺たちは関口さんに呼び出された。
おっさんが裏工作をしまくっていたのは知っている。
純粋に友情から来ているものだ。悪い結果にはならないだろう。
その日はテレビ局へ。
俺とハヤト、それに真穂と歌穂はよくわからず連れて行かれる。
「なにがあるの?」
と聞いたら、
「俳優の目白賢人の記者会見だ」
とそっけなく言われる。
なんでも被災地で助けてから友人になった俳優らしい。
関口さんの会社のキャンペーン。
「みんな助け合おうぜ!」ってやつのCM発表会らしい。
会場に着くとアシスタントの席に案内されてメモを渡される。
他の席には同じく高校生がメモを片手に座っていた。
たしかにこれなら俺たちは目立たない。
筋肉が引き締まった目白がいた。
シャツが悲鳴を上げている。
表情もやたら自信に満ちあふれている。
「……ちょっと待て、なにあの筋肉」
「あー……アジトで毎日稽古つきあわせたらああなった」
と関口さんが照れ笑いした。
うっわー……。
吐くまで稽古したな。
「じゃあそこで大人しくしてろよ。あとで菓子買ってやるから」
ガキ扱いここに極まれり。
関口さんが壇上に立ち話を始める。
内容のない横文字だらけの資料を読むと眠くなる。
要するに「社会貢献するよ。財団設立したよ。CMキャラは目白くんだよ。当時のことをインタビューしてね」ってことである。
関口さんの話を聞けばいいのに。
今は世界中で拉致被害者の体験記が出版ラッシュだ。
誰もが異世界の話を聞きたがっている。
その中でも奪還作戦と富士山テロ事件鎮圧の立役者である関口さんの話だったら誰でも聞きたいと思うんだけどね。
関口さんはその声に「政治利用されるからヤダ」と口を閉じている。
だから関口さんの関係者である目白のインタビューに世界各国のマスコミが押しかけているわけである。
俺たちはアシスタント扱いなので、交代で水を配ったり、資料を渡したりマイクを渡したりとちゃんと仕事をする。
で、つまらない話で30分。
ちゃんと労働したぞ!
目白がやってくる。
悪の帝王関口のおっさんがニヤニヤしてる。
それと同時に目白は無言で冷や汗を流していた。
「どうやら俺は賭けに勝ったようだぞ」
関口さんがつぶやいた。悪い顔で。人に見せられないほど悪い顔で。
俺は思う。
黒田は本当の悪党を敵に回したから負けたんじゃないかって。
だって関口さんのレベルでも善人寄りの小悪党なのに……。
もっとやべえのがゴロゴロしてるんでしょ。この世界。
「えー、というわけで私は世界中のみなさんとの絆を信じて恩返しをしたいと……」
と言ったとき司会の女性が質問する。
「そう言えば目白さんはあのアサシンとも会ったことがあるとか……どうでした生アサシンは」
会ったことねえよ。ツッコミが止まらない。
だけどハヤトは無言、関口さんはひたすらニヤニヤしている。
「え、ええ。彼は……普通の……」
関口さんがほほ笑むと目白がビクッとする。
すると目白はキリッとしてマイクを握る。
その目は嘘くさいくらいに真摯なものだった。
そして目白は意を決して言った。
「僕がアサシンです!」
やりやがった……。
会場が沸き立つ。
俺が呆れる中、関口さんがバンバンと背中を叩く。
「よかったな~。これで心配事が一つなくなった」
汚な!
大人汚な!
その後、速やかに東京地検が目白に出頭を命じて事情聴取。
これまた世論が冷めぬうちに不起訴になった。
さらに思わせぶりに内閣が富士山での戦闘における殺人は正当防衛であって起訴しないとスピード閣議決定。
おまけに法を無視した独断専行の政治責任を取って解散総選挙をすると発表。
黒田にも人権があるとか余計な事を言ってた政治家が青ざめる事態になっていた。
なお富士山だが、立ち入り禁止になっている。
なにももできずに放置されている。
噴火のせいもあるのだが、俺の毒がね……。ちょっと……強すぎまして。……はい。
反省してます!
そして真穂の二振りの剣は国に預けた。
海賊版と言えども大蛇退治の実績があるリアル神剣だ。
一年かけて大蛇とドラゴンの血の穢れを清め、その後皇居に置かれるらしい。
陰陽師は出世したらしい。
あの袴は一番偉い人専用の柄だったらしい。
なんとか神宮の一番偉い人カラーとかなんとか。
どうりでブチ切れたわけだ。
だけど結果は一つ昇級。
それでも期待のエースとのことだ。
パニック起こしても死ななかったので能力は高いのだと思う。
そして数ヶ月後、都内に慰霊碑が完成した。
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