第41話 ガソリンスタンド
朝を待って外に出た。
……と言いたい所だが火山灰のせいで朝なのかわからん。
さすがに夜中は俺たちが遭難するので、とりあえず午前6時に外に出る。
その前に朝食と準備体操にストレッチをしておく。
自衛隊の車両で……と言いたいところだったが、前が見えず本当に危ないので徒歩で出ることになった。
自衛隊の小隊が護衛につく。
はぐれたとき用にトランシーバーと地図機能つきのGPS端末を渡された。
ネットを使わないからこの状態でもかろうじて使えるらしい。
防炎のポンチョと防塵マスク、それにヘルメットとゴーグルは着用。
自衛隊の鉄帽を貸してくれるのかとワクワクしてたら工事用の黄色いやつ。
軽いからこっちだってさ!
さすがに「敵に見つかるからやめて!」と懇願したら黒のに変えてくれた。
そこにライトをつけて出陣。
装備は一人約30キロ超。異世界でのダンジョン探索とあまり変わらない。
むしろこちらの方が装備の素材がいいから食料や水をたくさん持てる。
包帯や医療用の消毒薬もある。
さらには携帯シャベルとガスマスクまでバックパックに入っている。……ガスマスク必要なのか。
腕時計型の端末から警報音が鳴ったらすぐにつけてとのことだ。
腕時計はまだ一般に出回ってない装備らしい。
すげえなと思っていると関口がドヤ顔してた。むかつく。
でも一酸化酸素や硫化水素を勘で判別しなくてもいい……。正直しゅごい。
防弾チョッキにボディアーマー、さらに銃と弾薬がないので自衛隊の人たちよりまだ軽い。
鉄板の盾を持ってるハヤトだけは100キロオーバーである。
筋肉聖職者は置いとくとして、自衛隊の人が無線機まで持っているのを見て驚いた。
俺の2倍くらいの荷物持ってるよね?
レベル1でこれだもん。人間を超えている。
そんな隊員たちは昨日に引き続き隊員が顔にペイントを施してくれた。
するとハヤトに隊員が優しい声で話しかけた。猫なで声とも言う。
「バーサーカー、ラグビーで世界を目指さないか? なあに経験がなくともその体力があれば問題はない」
勧誘だった。
「おま! 俺がレスリングに誘うって言っただろ!」
言い争いが起きる。
すると別の隊員が俺に話しかける。
「アサシンはアーチェリーやるよね?」
ずずずいっとゴツイ顔を近づける。
なんだろう……? 圧が……。
「きょ、競技はやったことないです」
つうか競技者になめてんのかって怒られると思うっす。
「じゃあ陸上も今からでいいからやってみない? 病院での戦闘の映像見たよ。100メートル7秒くらいで走ってたでしょ? 音も立てずにあの速度で、しかもジグザグに走れるんだ。本気で走ったらどうなるのかな? ねえ、うちに来ない? スポーツやってお給料も出るよ。君なら国の金で留学も難しくない」
「た、体育会系が苦手なので……」
そう言うと急に圧が消える。
「わかった。今は興味なしと。帰ったらまた会って話し合おう」
笑顔が怖い!
少しビビっていると関口が肩を組んでくる。
「な、政府はお前らを手放すつもりはないぞ。あらゆる手段を使って取り込んでくる」
「うわぁ……」
「悪いことばかりじゃねえ。政府もお前に借りがあると思ってるし、扱いに失敗すれば政権が吹っ飛ぶ。国を利用し倒す方法を帰ったら叩き込んでやるから覚悟しろよ」
ハヤトと顔を見合わせる。
だんだん人生の難易度が上がってくる。
ブツブツ文句をつぶやきながら外に出る。やはり暗い。
坂本さんが俺たちに説明する。
「まずは4キロ先のガソリンスタンドを目指しましょう。そこから避難所の学校を目指します」
「通信は? 車で行ける距離じゃないの?」
自転車でもそんなにかからない距離だ。
「昨晩まではありました」
つまり今はなくなったと。
「自衛隊と警察は?」
「行方不明です」
なるほど。戦闘になる可能性が高いな。
それにしてもこの状態になるとたった数キロがここまで遠くなるのか……。
その疑問の答えはすぐにわかった。
降り積もった灰に足を取られる。
それでも俺たちは歩いた。
装備が重くのしかかる。
……と言ってもコケだらけの洞窟フロアの探索と同じだ。
火山灰ですぐゴーグルが汚れて視界が悪くなる以外はついこの間までの日常でしかない。
集中して歩いたら4キロはすぐに踏破した。
午前7時半。1時間半ほどかかった。
30キロの装備と最悪の視界と考えれば合格ラインかもしれない。
ガソリンスタンドが近づくと索敵する。やはりノイズでやや精度が劣る結果になった。
だけど敵の反応あり。
バックパックから双眼鏡を取る。
目盛りがついているので計算。
100メートル先にゴブリンが見える。敵の反応は5。目の前には3。
俺が双眼鏡を覗いていたのでハヤトも敵に気づく。
俺はハヤトとこそこそ音を立てずに進む。
自衛隊は俺たちに先行する。
弓を引きガソリンスタンドの前にいたゴブリンに矢を放つ。
心臓に突き刺さり絶命。
それを合図に関口ハヤト組が一匹のゴブリンに襲いかかる。
後ろからメイスで頭を殴り、前から日本刀で一閃。
肩口から切り裂かれたゴブリンが倒れる。
自衛隊も音を立てないように二人がかりで制圧。
(人型の生き物……殺すの初めてだよね? 代わろうかな?)
と余計なことを考えたが容赦なく急所にナイフを突き刺し終了。
心配などする必要なかった。
やはりプロである。
なお俺は初めてゴブリン殺した後1週間悪夢を見た。
残りは2体。
ガソリンスタンドの中に入る方法を考えないと。
裏口に回ると鍵が開いていた。裏口から侵入する。
防塵マスク越しでもわかるにおい。血だ。
そこには男性の遺体が転がっていた。
年は70歳くらい。ガソリンスタンドの制服が血に染まっていた。
服はボロボロでナイフで肉を切り分けた傷がある。
食いやがったな!
怒りがこみ上げ荷物の重さが気にならなくなった。
剣を抜き敵に近づく。
二体のゴブリンは髪の長い別の遺体にかぶりついていた。
俺は襲いかかる。
ゴブリンは二体。まずは一体の喉めがけて剣を薙ぐ。
刃の向きを切り替え今度は頭。
サクリと音がして頭蓋骨を破壊する。
二体目が声を上げる前に振り向き剣を下から振り上げる。
内股の筋肉をごっそりそぎ落としゴブリンが尻餅をつく。
思いっきりあごを蹴り上げ倒れたところで剣を突き刺す。
刃を横向きにして肋骨の隙間から心臓を一突き。
自身になにが起こったのか理解する間もなくゴブリンは絶命した。
隊員は中の惨状を見て息を呑んだ。
すぐに無線で報告する。
関口が遺体に手を合わせる。
やはり女性の遺体だった。こうなってはハヤトのヒールも効果がない。
年齢はもはやわからない。
関口は遠い目をして言った。
「たった4キロ先でこれか。どうやら敵は統率されてないようだ。好きに動いてるせいで逆に被害が拡大してるようだ。俺たちが到着しなきゃ病院も危なかった」
「学校は?」
「わからん。だが急ごう」
「遺体は?」
「生きてる人の方が優先だ。俺たちにできるのは無線で場所を知らせることだけだ」
避難所に持っていくためにミネラルウォーターと食料を回収して外に出る。
装備の重量が少し重くなったが気合は入った。
「ハヤト、これ俺のキャラじゃねえんだけどさ……助けような」
「ああそうだな助けよう。シュウ、あくまで俺の勝手な考えだが……俺たちはこのために異世界に召喚されたのかもしれない」
休憩を挟んで俺たちは学校を目指した。
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