第40話 救世主降臨
【レベルアップしました】
頭にシステム音が鳴り響く。
ステータスを見ると100ほどレベルアップしていた。
ドラゴン倒しても経験値1も入らなかったのに! 死にかかったのに!
ゴブリンで上がるとは! なんたる理不尽!
ゴブリンは迷宮の雑魚モンスターだ。
一番弱く、特殊能力もなく、人間よりも小柄で力も弱い。だけど一番遭遇時の死亡率が高い。
やつらは集団戦が得意だ。そして数が多い。……それこそゴキブリよりも多い。
やつらの数の暴力の前では軍人だろうが警察官だろうが格闘家だろうが関係ない。
死亡する原因はたいていゴブリンだ。
だから見かけたら抹殺せねばならない。
とりあえずゴブリンの死体を引きずりながら病院に帰る。
解剖とかDNA採取とかすればいいんじゃないかな?
内臓の位置がだいたい同じなのは解剖したことあるから知ってる。
あとで「実はゴブリンは人類でしたー。殺人罪で起訴起訴ー!」とか言われたらどうしよう?
話せばわかるってよく言うけど、話してもわからない生き物だしな。
それで何人も死んだから断言できる。
いるんよ。話せばわかるってお花畑全開でゴブリンと話そうとして槍で串刺しにされるやつ。
目の前で仲間が殺されるといきなり現実主義者になってゴブリン殺し始めるけど。
またマスコミに叩かれるな。……いいや、暗い話は後で考えよう。
逮捕されることになったら外国に亡命すりゃいいか。
病院の敷地の前で待っていた坂本さんのところにゴブリンを置く。
「はいサンプル。解剖するなり剥製にして飾るなりどうぞ」
坂本さんは無言でポータブル無線機を出し本部に指示を仰ぐ。
無言なのが動揺を現している。
どこかの基地直送で解剖かな?
その間にハヤトを中に連れ込む。
ぐへへ……ヒャッハー! 患者がいるぜえ! 救世主の登場だー!
「そろそろ頃合いか……」
関口さんも一緒についてくる。
露骨に嫌そうな顔をするハヤトを救急に連れて行く。
というか救急の最前線は今や入り口なのでただ病院の中。
だから建物内に入る前に呪文を詠唱。
「風の精霊よ。洗浄せよ」
風でゴミを飛ばして中に入る。それと……。
「水の精霊よ。純粋なる水で洗浄せよ!」
半導体の洗浄に使う超純水で血を洗い流す。
あ、忘れてた。
「毒で殺菌する?」
「「いらねえ!」」
二人に怒られ終了。
アルコール作ればよかったか。
えーっと……。
「酒の精霊よ。純粋なる酒精を……」
初めてだがうまくいった。アルコールができる。
まずは手を消毒。
二人が無言で手を差し出すので消毒。
ある程度のきれいさだけど災害時だし仕方ないよね。……でも足りないかも?
「念のためにオゾン作る?」
「「いらねえ!」」
二人に拒否されたので中に入る。
玄関は野戦病院状態だった。
あちこちに患者が寝かされ処置がされている状態だった。
ハヤトが近くの男性に手をかざす。
「光の精霊よ。この者を癒し給え」
重傷者だけど後回しにされている男性にヒールをかける。
意識がなかったがごほっと咳をして目を開けた。
本当はもっと重篤な人を回復すれば効率がいいのだろうけど、任されるほどの信用が俺たちにはない。
自衛隊の人に治療の許可を求めても断られたかもしれない。
とりあえず治療しちゃってあとから許可を取ればいい。
病気は治らないけど怪我なら下半身が潰れても復活できるのだ。
「な、なにが……げほッ! げほッ!」
「動かない方がいいです。痛みは取れませんので」
ハヤトは抑揚のない声で言うと次に行く。
トリアージとかあるけど症状がわからん。
経験的に死にそうな状態はわかるけど詳しいことはわからないよね。
ハヤトが治療を続けていると周囲の人たちがカメラを向けた。
人々は息を呑み奇跡を撮影していた。
懸命に処置をしていた看護婦までハヤトから目が離せなくなっていた。
それは非科学的技術の極み。存在してはならない技術。
目の前で起こっているのは奇跡だった。
折れた骨が元に戻り、流血が止まり、意識が元に戻る。
規則では止めねばならない。
だが効果は存在した。
遅れて中に入った坂本さんが慌てて病院側に事情を説明する。
もめてたけどその間にも治療してしまう。
結局政府が責任を取ることで落ち着いた。
そりゃ本職は反対するよね。責任とれないもん。
数時間ぶっ通しで働いて軽傷者と一部の重傷者を治療完了。
病人は動かせる人だけ動かしてあとは警察と自衛隊が合流するのを待つだけだ。
俺とハヤトは壁にもたれかかって床に座っていた。
夜には政府の車両もやって来て動ける人を後方へ運んでいた。
雑用しかやってない俺たちもバテてた。
ダンジョンよりキツいかもしれない……。
「あー……ハヤト、俺たち何しに来たんだっけ?」
「シュウ、治療と避難、それに救助だ」
「そっかー……じゃあもっと奥に行かないとな」
ため息をつく。疲れた。
すると元気な汚っさんがやってくる。
「おいお前ら! ラジオ聞け!」
ネットが死んでる状態だと乾電池で動く機械は本当に役に立つな……。
ラジオの音量を上げる。
地元のラジオ局だった。
「災害情報の続報です。異世界に拉致された人々を救ったバーサーカーが被災地で救助活動に参加した模様です。XX病院で治療活動を終え富士山を目指……」
「有名人だなハヤト!」
「うるせえ!」
ハヤトぶち切れ。
「ヒャッハー! 救世主の降臨だー!」
げしッ!
ハヤトに無言でケツを蹴られる。
これ以上いじるのはやめておこう。
さらに放送が続く。
「政府の発表によりますと富士山五合目に派遣された自衛隊が行方不明との……」
「嘘だろ……」
俺たちより遙かに装備のいい自衛隊が行方不明?
「お前ら普通に災害かもしれない。ゴブリン程度に殺されたとは思えないからな」
関口さんがフォローする。
「ですよねー! ですよねー! ……もしかすると黒田かな?」
二人とも無言になった。
やめて! その無言!
「日が出たら奥を目指すぞ。相手は話し合ってもわかり合えない連中だ。見かけたら……迷わず殺せ。責任は……俺が取る」
汚っさんの言葉に俺たちはうなずいた。
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