第39話 防衛戦
ヒーローものみたいに出陣したが目的なんだっけ?
黒田を殺すことだっけ?
「一番の目的は人命救助だ」
汚っさんが言った。
読心術だと!
「黒田殺さなくていいの?」
「あまり言いたくないが……救助と避難さえ完了したら爆撃で焼け野原にしてから掃討作戦で皆殺しにする予定だ」
災害まで引き起こされちゃもう殺し合うしかない。
未成年だとか頭が悪いとかは関係ない。
正当性以前の問題だ。やつらは死ぬしかない。
違いがあるとしたら誰が殺すかだけだ。
「つまり俺たちの任務は……ええっと」
関口がわざとらしく首をかしげる。
すると潰れた耳にまぶたに切り傷のある隊員が声を出す。たぶん元格闘家だな。
「我々と避難施設で被災者と合流。敵対勢力を
「だ、そうだ。黒田の始末は?」
「我々が責任を持って行います」
「つまりだ。お前と俺の任務は……」
「モンスターをぶっ殺す?」
キラーンッと白い歯を見せる。
どうだ! 完璧な作戦だろ!
「違う! ハヤトを護ること! お前さあ……なんで知性チートなのに脳筋なの! ハヤトさえいれば集中治療室レベルの怪我でもその場で治せるの! わかる!?」
「いえっさー」
おっと、ぶっ殺のお時間だと思ったらメディックのお時間だった。
正義の味方できるって素晴らしいよね。
それよりも気になることが先にあった。
「ところでさ、カプ●ン製へ……」
「それ以上言うな! 落ちるだろが!」
禁句だったらしい。
近づくにつれてどんどん暗くなる。
火山灰だろうか……。富士山はもう見えない。
「報告より数段状況は深刻なようです。防じんマスクを装備してください。着陸します」
俺はマスクを着け自衛隊の隊員が差し出したヘルメットを受け取る。
そのまま無言で顔にペイントを施してくれる。
それが終わるとヘルメットを装着。隊員がヘッドライトを装着してくれた。
さらにゴーグルを付ける。
邪魔だから般若の仮面は捨てようっと。ぽいッ!
「捨てるなボケが! プライバシーを守る装備だぞ!」
しかたなく仮面は持っていく。
さらに難燃素材のポンチョも羽織る。
結構な重装備だ。
ブーツもスパイク付きのもの。
一応ナイフブーツに改造してくれたらしいが本当にいざというときの装備だ。
ヘリが降下していく。
噴煙が舞っているのか時間経過とともにどんどん暗く視界が悪くなっていく。
時間が夜のうえに粉塵が舞って前が見えない。最悪だ。
降下するとヘリポートみたいなものがある建物の屋上に着陸する。
この視界が悪い中を着陸……正直玉ヒュンした。内緒だよ。
ヘリを降りると今度はストレッチャーに載せられた人が搬送されていく。
なるほど。ここは病院だ。
ついでに患者を運ぶんじゃなくて、俺たちがついでなのか。
一緒に降りた隊員が俺たちに言った。
「現在避難が行われています。細心の注意をお願いします」
要するに「邪魔しちゃダメ」である。
ですよねー。
「怖いから索敵っと……」
窓の外は暗くて何も見えない。一応索敵をする。
「風の精霊よ。我が敵を示し給え」
すると赤く敵がマークされる。
ただ火山灰のせいでノイズが入る。
ただわかるのはすでに囲まれていることだけ。
「ええっと隊員の……」
どうやら緊張していたらしい。
たった今まで名前を聞くのを忘れていた。
「坂本です」
「坂本さん、囲まれてます。迎撃しますので防衛お願いします」
「ま、待ってください!」
坂本さんが言い終わる前に窓を開け外に飛び出す。
壁を蹴り宙を舞う。
無重力を体感しながら弓を構え矢を放つ。
「雷の精霊よ! 複製せよ!」
複製した雷の矢が闇の中を飛んでいく。
鼻と口が痛い。
あまり外にいない方がいいかもしれない。
短期決戦モードだ!
「雷の精霊よ! 炸裂せよ!」
方々でバンッと音がし炸裂光が見えた。
赤い表示がいくつも消える。
「風の精霊よ! 我が身を護れ!」
着地の衝撃を和らげ弓を背中に戻し、真穂の打った剣を抜く。
後ろでドガンッという重い音が響く。ハヤトだ。
この高さを魔法も使わず普通に降りて来やがった。
あいつ戦車とタイマンで勝てるんじゃないかな?
ぜったい怒らせないようにしよう。
俺は振り向きもせず闇の中を駆ける。
噴煙舞う中ゴブリンがいるのが見えた。
ゴブリンは敵を探していた。
やはりモンスターにもこの状況は有利に働くわけじゃない。
頭ががら空きだ!
俺は無音で近づき首をはねる。この剣……すげえ切れ味。
そのまま足音を消し次の標的をロックオンする。
今度もゴブリンだ。まだ俺に気づいてない。
剣をしまいナイフを抜く。
背後に近づき口を手で塞ぐのと同時に後ろから腎臓を一刺し。
そのまま流れるように首にナイフを突き刺し頸動脈から喉まで切り裂く。
そのまま近くのゴブリンを……と思ったら頭蓋骨が陥没してた。ハヤトの攻撃に違いない。
思った通り近くにハヤトがいた。ハヤトは俺を見つけると指をさす。
指の方向には骸骨がついた杖を持った怪物がいた。ゴブリンメイジだ。
俺は弓を構え放つ。
殺気を感じたのかゴブリンメイジが俺の方を向いた。
目が合った瞬間、ゴブリンメイジは呪文を詠唱する。
だが遅い、俺の矢はすでに放たれていた。
ゴブリンメイジの心臓に矢が突き刺さる。
「ぎゃッ!」
ゴブリンメイジの断末魔の悲鳴が上がった瞬間、暗闇から大きなものが出現する。
巨大な岩でできた人型が拳を振りかぶっていた。
ゴーレムだ!
ちょッ! 俺と相性悪い!
毒でも急所攻撃でも死なないやつは勘弁な!
「シュウ! 飛べ!」
そう言うとハヤトが俺の前に出る。
俺は言われるまま横に飛び拳を回避する。
拳を回避したはずの俺の目に飛び込んできたもの。
それは信じられない光景だった。
ハヤトが拳の側面に回り込んだ。
盾で受けることなんてしない。
そのまま巨大な手をつかみひっくり返した。
手に釣られてゴーレムが宙に浮く。
「嘘だろ……」
それは小手返しだった。
ゴーレムの巨体が浮き、頭から地面に突き刺さる。
普通やるか? いや……できるか?
そしてハヤトはゴーレムが倒れた瞬間、ゴーレムの腹を盾でぶん殴る。
そのまま腹を突き破り着地、ゴーレムは二つにちぎれて沈黙した。
ドラゴン押しつけりゃよかった……って飛んでるやつは俺じゃないと無理か。
完全に得意なターゲットが分かれたよ!
「嘘だろ……」
酒で焼けた汚い声がする。
関口が刀を血振りした。知らない間に数匹抹殺である。
これで商人とか冗談だろ。
とりあえず敵は全滅。すぐに来るだろうけどね。
「化けものかてめえら」
関口がニヤニヤする。
「ハヤトと比べるのやめて!」
「俺のどこが化けものだ! シュウと比べるな!」
すでに幼稚園の遠足状態である。
せんせー! はやとくんひどいんだよー!
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