第42話 救助活動
遺体をカーペットが敷かれた部屋の床に並べ、休憩室にあった使い込まれた毛布をかける。
最後に遺体がある旨を手書きで記した紙をガソリンスタンドのドアにテープで貼る。
それを自衛隊がカメラで撮って終了。住所をメモにも書く。
俺たちから見ればゴブリンによる殺人だ。でも別の人が見たら獣害かもしれない。
もしかすると流れで災害扱いかもしれない。
その区別は現時点では誰にもわからない。
だから証拠が必要になる。メモに写真に音声とできるだけ証拠を集める。
あとで警察などの関係機関や内閣に提出するらしい。
作業兼休憩を終え学校を目指す。
ここから2キロ程度の場所らしい。
外に出る。
遺体の回収はしない。いやできない。
物資とマンパワーは生存者の救出のためにある。
近くには救出する人はいなかった。
民家はまばらに存在したが風魔法で索敵しても人の反応はない。
30分ほど歩くと歩くと進行方向の先に明るいものが見える。市街地に入ったのだろうか。
すると肩を叩かれる。
叩いたのは関口だった。
「お前ら見ろ。火事だ」
よく見ると家は燃えていて黒い煙が上がっていた。
消防はいない。明らかに不自然な光景だった。
「生存者がいるかもしれない。探知できるか?」
「やってみる。風の精霊よ。探知せよ」
するとゴブリンやモンスターではない反応を感じた。
相変わらずノイズはひどいが俺は走る。
こんなひどい状況だけど少しくらい救いがあったっていいじゃないか!
ハヤトも走る。
自衛隊の人たちもついて来る。
関口を引き離し俺たちは倒壊した民家にたどり着く。
バックパックを置いて装備を外す。
ナイフと携帯シャベルだけは持っていく。
「ハヤト! そこを持ち上げてくれ!」
ハヤトも装備を置いてかつて屋根だったものに手をかける。
「うおおおおおおおおッ!」
バキバキと音を立て屋根が持ち上がる。
俺はすぐに隙間に滑り込み腹ばいで進む。
「シュウ! 屋根が保たない! 崩壊する前に助け出せ!」
小さな泣き声が聞こえた。
俺は鳴き声の場所を目指す。
女の子が倒れていた。小学生くらいだろうか。
足の場所に柱がある。
俺は携帯シャベルを柱の下に突き刺す。
そのままテコの原理で隙間を作り女の子を抱える。
いままで泣いていた女の子が意識を失いぐったりと力を失った。
まずい!
心は焦りながらも確実に進む。
明るい方に進んだせいか潰れた家の中が見えた。
性別すらわからなくなった遺体が見える。女の子の家族かもしれない。
考えるな! 急げ! 急げ! 急げ!
女の子を抱えながら進み外が見える。すると手が伸びてくる。
「こっちだ!」
坂本さんにつかまれ外に出された。
「ハヤト!」
「わかってる!」
ハヤトが手を離した瞬間、バキバキと音を立てて屋根が崩壊した。
女の子の腹には木材が突き刺さっていた。
「ハヤト!」
救命処置をしようとした坂本さんに割り込む。
「坂本さん! 押さえて!」
坂本さんはすぐに察して押さえつける。
他の隊員も一緒に女の子を押さえつける。
俺は容赦なく引き抜く。びくんと体が跳ねる。
俺は叫ぶ。
「ハヤト頼んだ!」
すかさずハヤトがヒールをかけると傷が塞がる。
たぶん救急的にはアウトの極みだろう。
誰も責任がとれない処置だ。
だが助かることはわかっている。
だからもう一度探知。
俺は治療はできないからな。
すると閉じ込められた人々の姿が見えた。
【実績を解除しました。人命救助……】
うるせえ!
俺たちは救助活動に励む。
結局、ここだけで10人の男女を救い出すことに成功した。
ただ問題は命こそ救ったが意識がないものが多いことだ。
とりあえず火事場から離れ人々を寝かせる。
厳しい。人命救助は甘くない。思った以上に絶望的で厳しかった。
とりあえず休憩する。
体力をごっそり持って行かれた。
水を口にする。
すると遠くから音が聞こえてくる。
「敵襲か!」
ハヤトが立ち上がる。
ゴブリンの太鼓だろうか?
だが音がおかしい。
なんだろうか。この純和風に聞こえるんだけど違うやつ。
ポップスとも違う。
なんだっけ。冬の日本海がなんとかと言ってる。
田舎に行ったときに婆ちゃんが聞いていたような……。
あーッ! 演歌だ!
大音量の演歌を流しながら何かが近づいてくる。
闇からきらびやかな物体が姿を見せる。
それはデコトラだった。
デコトラと重機が闇の中から現れた。
デコトラから作業服を着た汚い金髪のおっさんが降りてくる。
どう見ても元ヤンキーだ。
おっさんは散弾銃を向け怒鳴る。
「お前ら! あいつらの仲間か!」
「あいつらってのはわからねえが、自衛隊と民間人だよ。いま救助活動やってたんだよ」
ピラピラ手を振るとおっさんは散弾銃を降ろした。
「そうか……そりゃすまなかった。どこに行くつもりだ?」
「この近くの学校が避難所になってるはずだ」
するとおっさんがニヤッと笑う。
「怪我人を乗せな。送ってやる。俺たちも学校に向かってるんだ」
ああ……こういうノリ、なつかしいな。
そうか、ここは日本だ。
日本なのだ。
「俺たちはそこの学校に立てこもって救助が来るのを待ってたんだわ。それで昼間のうちに国道出たとこのホームセンターに調達しに行ったってわけよ」
「逃げないの?」
「あんたらと同じだ。怪我人が多くて動けねえ。警察が助けを呼びに行ったが戻って来なかった。俺たちも戻って来れねえかとヒヤヒヤしてたが自衛隊がいれば大丈夫だろ? なあ、救助はこの近くまで来てるんだろ?」
「救助に向かった連中が行方不明になったから偵察しに来たんだ。でも無線があるから助けを呼べるんじゃないかな?」
「おう、わかった。銃を持ってる自衛隊の兄さんたちは座席に乗ってくれ。護衛を頼む。あんたらは悪いがコンテナの中だ。すまんな」
「充分ッス。ありがとね!」
「視界不良でスピード出せねえ。15分くらいかかるが我慢してくれな」
コンテナの中には水や食料、オムツなどの生活用品が積まれていた。
あと大きなシャベルやバール、あと野球のバットがたくさん。これは武器だな。
空いているスペースに腰を下ろす。
……疲れた。
俺はため息をつくと関口に話しかける。
「関口さん。心配しなくていいよ。あの人たちレベル1」
すると関口はため息をついた。
やっぱり疑ってたようだ。
関口さんが突っ伏して話は終了。
するとハヤトが俺に話しかけてきた。
「シュウ、気づいたか? 大音量の演歌のせいかゴブリンが近づいてこないぞ」
「どういう理屈よ! ああ、もう! 俺たちも車で来りゃよかった!」
今さら言っても遅いけどね!
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