第19話 勝利の宴

 アジトに行くのに何回も車を乗り換える。

 ついでに相馬姉妹を迎えに行く。

 最終的にマイクロバスでアジトへ向かう。

 関口は缶チューハイ片手にご機嫌。

 悪ノリしてカラオケまで持ち出して歌う。

 相馬姉妹も悪ノリして歌う。

 ……なにこのカオス。


「オラオラァ! アーサーシーン♪ どうよ私の剣わぁ! ほれほれ褒めろぉ!」


 真穂に頬をウリウリされる。

 うむ直球で答えてやろう。


「真穂。お前は最高だ。お前(の打った剣)は美しい。お前はこの世で一番(の鍛冶師)だ」


「ば、ば、ば、ば、ば、ば、ばかー!」


 ……なぜだろうか。

 どうしてグーで叩かれたのだろうか。

 ハヤトを見ると、「お前そういうとこだぞ」と言われ、歌穂に視線を移すと「自業自得です」と言われる。

 関口は指をさして大笑い。

 真穂はヤケになって歌う。アニソンを。

 こちらサイドの住民なのである。

 俺も乱入して歌う。

 ミッドガルドじゃ勝利の美酒なんて味わうことができなかった。

 ダンジョン探索が進めば必ず誰かが死んだ。

 今回だって何も解決してない。

 それでも俺たちは勝利を祝った。

 アジトに着くと、他のメンバーは先に来ていた。

 特に満里奈はすでにできあがっていた。

 関口は指をさして笑うと俺たちに言った。


「職人に挨拶してくる。お前ら少し待ってろ」


 そのまま厨房に消える。


「テレビでやってるよ!」


 そう言うと片岡愛理がテレビをつける。

 テレビに映っていたのは俺とハヤト。

 どの局もショッピングセンターでの戦いと人質奪還作戦を交互に放送していた。


「いやー凄い映像でしたね。実在するヒーローということですが、先生どうお考えですか?」


 アナウンサーが頭髪の薄い男性に質問した。

 大学の教授らしい。


「正直わかりません。ですが彼らは人知を超越した力を持っているようです」


「私たちの生活に影響はあるのでしょうか? 例えば我々が彼らの奴隷になるとか」


 ねえよバカ。


「それは誰にもわかりません。ですが今まで政府は超能力者を隠していたことは間違いありません。これは政府の陰謀……」


 陰謀論が続く。


「それと人質を取った少年は16人を殺害し、ショッピングセンターの少年は連続誘拐事件の被疑者だそうですが。先生どうお考えですか?」


「なにか大きな陰謀が我々の知らぬところで動いているのは確実でしょう」


「誰だこのバカテレビに出したやつ!」


 思わず俺がツッコミを入れる。

 するとみんな「うんうん、わかる」とうなずいた。


「どこの局も同じ。だって異世界の存在を知らないんだもの。知ってて帰ってきた私たちだって、本当のことを言ったら【頭のおかしい人】呼ばわりよ」


 片岡愛理、現役記者がそう言うのだからそうなんだろう。

 そりゃそうか。ヒーロー出現ってだけでも大騒ぎだもんな。

 大学の先生だって背景をなにも知らないもんな。

 少年犯罪の専門家の方がいいんじゃね?

 そう思ってチャンネルを変えたら少年犯罪の専門家が中里の心理を解説していた。

 愛情不足や怪我での挫折を中心に解説していた。

 これも情報が足りない。

 中里は異世界で人殺しを覚えた。

 中里たち勇者のミッドガルドはヒロイックファンタジー。

 俺たちのミッドガルドはリアル戦争。

 殺せば殺しただけ喜んでもらえる世界。

 俺たちみたいに戦闘の恐怖を体験したこともないだろう。

 レベル20差を技術で埋めて生き残った俺たちがおかしいんだろうけど。

 そんな甘やかされまくった状態で帰ってきたら、日本での身分はただのクズと……。

 少しだけ気持ちがわかったような気がする。

 俺だって同じになったかもしれない。

 あのとき勇者と戦うことを選択せず、力に溺れることもできたのだ。

 みんなも同じ考えだったようで無言だった。思うところはあるだろう。

 そんな沈黙を四宮が打ち砕く。


「まあまあ、今日は徹夜で飲もうぜ!」


 四宮が肩を組んでくる。

 なぜ俺に振る!


「むーりーでーすぅー。俺は未成年で門限あるのー! 酔わせて襲おうとしてもダメですー!」


「……さすがにねえわ」


「マジレスするのやめて!」


 漫才をしていると関口がやって来る。


「ガキどもはメシ食ったら家まで送る。外野に足を引っ張られたくないからな」


「妥当な判断だと思います」


 ハヤトが同意した。

 真穂と歌穂がふくれたが俺は関口に賛成だ。

 くだらないスキャンダルで身バレとか嫌すぎる。


「それと職人さんがアサシンとバーサーカーの慰労会だって言ったら喜んでたぞ、さあ食え!」


 高田がお寿司を運んでくる。

 多い! すごく多い!

 俺はお高い寿司を前にして……理性を失った。


「ふががが! ふごごご!」


 蛮族が食べる食べる食べる。


「うみゃー! この寿司うみゃー!」


 同じく蛮族の真穂も冬眠前の動物のように食べまくる。

 四宮も同じ蛮族モードだ!

 それを見てハヤトが一言。


「落ち着けバカども」


 それでもやめられない。だって美味しいんだもん!

 これだけ美味しい寿司を前にして理性を保っているハヤトと歌穂はすげえと思う。

 しこたま寿司食ってやった。


 寿司パーティーが終わりマイクロバスに乗る。

 車内ではずうっとテレビの映像が流れていた。

 番組を変更してまで俺たちの話題を流していた。


「シュウ、ネットも俺たちの話題ばかりだ」


 ハヤトが俺に画面を見せる。

 俺たちの戦いの映像が流れる。

 それが終わると警察幹部が頭を下げる映像に切り替わる。

 何人もの捜査員が殉職した。

 その責任を誰かが取ることになるのだろう。

 俺は仕方ないと思うんだけどね。

 中里を殺さずに捕まえろって、死にゲー初見でクリアしろっていうくらい理不尽だし。

 そうは言っても一般人にその情報が伝わることはないだろう。悲しい。


「そんな顔すんなって。うちの金持ち担当がちゃんと責任持って雇うってさ」


 真穂が俺をヘッドロックして頭を拳でぐりぐりしてくる。

 一見すると関口は金をばらまいているだけに見える。

 でもそこから利益を生み出すのだから資本主義の魔法使い凄い。

 いろいろ考えてると人質の女の子のインタビューが流れた。

 女の子はたまたま中里の家の隣に住んでいて、その日事件に巻き込まれた。

 偽善かもしれないが事件を忘れて元気になって欲しいと心から思う。

 彼女は何一つ悪くないのだから。

 未成年の彼女の顔にはモザイク。メディアの記者も気を使って質問していた。

 とにかく怖かったと訴えている。


「助けてくれたアサシンになにか言いたいことがあるかな?」


 彼女はすぐに答えた。


「アサシンありがとう!」


 俺は膝を抱えてうずくまった。

 意思に反して涙があふれてくる。

 一年も人でなし生活をしてた俺だけど、とうとう救われたような気がした。

 あの生活は無駄ではなかったのだ。


「お、おい! 泣くなよ!」


 真穂が慌てる。

 ハヤトも俺の側に来て背中を叩く。

 歌穂ももらい泣きしていた。

 俺はこの日、はじめて報われたのかもしれない。

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