第15話 非戦闘員

 前衛が僧侶のハヤトにシーフの俺、錬金術師の四宮、それに商人の関口というバランス度外視、絶望しかない集団というのが我が【ニホン】である。

 剣士や騎士だったら一人で戦えるから互助会必要ないもんね……。

 それと、ほとんど前衛扱いの魔道士二人、片岡愛理にシェフ高田。

 完全な後衛のレンジャーの弓使い片岡夫だけ。こちらもバランス悪い。

 さらに非戦闘員が5人いる。

 鍛冶士に吟遊詩人に風水師、踊り子に占い師。

 非戦闘員が今日、アジトに来るらしい。


「おはよ!」


 大人の女性がやって来た。

 占い師グラビアアイドルの「たにもとまりな(24歳)」こと谷本満里奈(31歳)である。

 ジョブは占い師。そのまんま。

 やたら色っぽい、大人の女性である。

 好きなものはアルコール度数が高い缶チューハイ。

 異世界じゃ手には入らないけど。

 ミッドガルドでは関口と昼間から飲んだくれていた。


「あんた失礼なこと考えてるでしょ!」


 なぜか心の声を読まれ頬を引っ張られる。

 エスパーか!


「でも……ありがとう」


 そう言って抱きつく。

 なおハヤトは逃げた。こういうのが苦手らしい。

 彼女は俺たちが帰還した数日後に保護された。

 非戦闘系ジョブの死亡率は極めて高い。

 わけのわからないままダンジョンを探索させられて死ぬからだ。

 5人はたまたま俺たちに保護された者たちだ

 俺たちは大人の商人がリーダー。

 非戦闘員の使い方を資本主義レベルで理解している。

 住環境を整え、美味いメシがあるだけで生存率が上がるなんて中世ファンタジー世界の住民じゃ思いつかない。

 だから非戦闘員をバカにするものは存在しない。

 と、俺は抱きつかれたことに全く反応を返さず考えていた。


「まーったく、シュウはかわいくないな! 異世界で洗練された、あたしの占いスキルを見せてやるっての!」


「やっぱりなにか変化あった?」


 満里奈は渋い顔をする。


「ふふふ……それがやべえのよ。当たりまくり。タロットも卜占も水晶玉の適当なやつですら的中率100パーセント。インチキしなくても勝手に個人情報が見えるのよ。試しにアイドルの子を占ったら評判になっちゃって仕事激増。ここに来れない……嗚呼……お酒ちゃん……高田っちのごはん……食べたい」


 高田がいればメシは美味かったからな。

 そして他の4人も入ってくる。


「シュウ、怪我しなくてよかった!」


 踊り子のおっさんが抱きついてくる……女性とは一言も言ってない。

 社交ダンス教室経営の鬼頭大五郎おにがしらだいごろう氏である。

 細身だが身長はそこそこ。

 性格は名前寄りである。

 なお社交ダンスと言っているが、ポールダンスとヨガもやってるらしい。

 弱者互助会クラン【ニホン】では会計やら在庫管理やら、関口の片腕として働いていた。

 はっきり言うがこの人敵に回したら死ぬ。


 もう一人は風水師。

 地脈を整える仕事をしている。

 日本では建築士の山本美香やまもとみかさんだ。

 未亡人感がすごい女性である。

 なお占い成分はない。


「シュウちゃん、ありがとう」


 シングルマザーだった美香さんは家に帰ることができたことを本当に感謝している。

 何度も礼を言うので困っている。

 そして最後の二人。鍛冶士と吟遊詩人だ。

 小柄な双子の女の子が入ってくる。


「よっ!」


 俺と同じ高校生、相馬真穂そうままほ歌穂かほ姉妹である。

 二人は俺の半年前に拉致されたとのことだ。

 ショートカットの黒髪が真穂、ボブカットに銀のメッシュを入れてるのが歌穂。

 見た目に反してうるさいのが真穂、大人しいのが歌穂である。

 真穂が鍛冶士で歌穂が吟遊詩人だ。

 工業高校にいるのが真穂。

 普通科にいながら地下アイドルやってるのが歌穂である。

 二人とも学業が残念なため、関口に家庭教師をつけられていて前回の作戦は不参加だった。

 真穂が顔を真っ赤にして言った。


「あ、あ、あ、あ、ありがとよ!」


「落ち着けって。あ、ジュース飲むか?」


「年下扱いすんな! 私は一個上だっての!」


 いつもこうである。

 ダンジョンで助けてから、もうずっとこうなのである。


「お姉ちゃん! 伝わってないよ!」


 歌穂の言葉に真穂がブチ切れる。


「ちがーう! シュウ! お前も勘違いすんなよ!」


「だからなにを!?」


「うるせー!」


 話が進まない。

 俺が困っているとようやくハヤトが帰ってくる。


「あ、隼人さん!」


 歌穂が俺と話すときより甲高い声でハヤトの方に行く。アニメ声である。


「歌穂か。向こうとあまり変わらないな」


「ふふふふふー♪」


 なぜか鼻息が荒い。

 歌穂はダンジョンでハヤトが救出したのだ。

 それ以来、わんこのように懐いている。

 どうして! 双子なのに! 俺には「シャー!」なの!


「歌穂ちゃん……そのままの君でいてね」


 俺がそう言うと真穂が俺をペシペシ蹴る。


「私じゃ不満か!」


 関口が「ごほん」とわざとらしく咳をした。

 真穂は持っていたギターケースをテーブルの上に置く。


「関口さんわかったよ! ほれ、レベル15になったから作ってみたよ」


 ギターケースの中には剣が入っていた。

 俺が使いやすい片手剣とダガーナイフだ。


「え……真穂、お前電気科だろ?」


 真穂の志望は鉄道会社か道路公団だったはずだ。

 いやそれより、そんなんでレベル上がるの!?


「関口さんに言われて機械科の旋盤借りて作業したらいきなりレベル上がったんだよ。それでカスタムナイフ作ってる工房紹介してもらって作ってみた」


 剣はミッドランドでも見たことがない上質なものだった。

 気泡は入らず、顔が映りそうなほど研ぎ澄まされている。

 ナイフもこれまた上質。


「電動ハンマー最高だわぁ……手でやるの最後だけだもん。あとこっちは砥石がすごい……もう研いでたらあの世に行きそうになったわ……」


 真穂はうっとりしている。

 エロい顔と言ったら殺されるので言わない。


「ハヤトのメイスも作ったから」


「この重量……素晴らしい出来だ」


 ハヤトはメイスを持ったまま手首を回す。

 それで殴ったら相手は絶対死ぬと思う。


「私も、私も! 配信やってたらレベル15になりました!」


 歌穂も手を上げる。


「私も魔法使えるようになったんです!」


 そう言うと歌穂は歌い出した。

 歌詞こそ片言のエルフ語だが……歌は……某パン男のテーマだ。

 すると俺たちの体が輝く。

 ハヤトの祝福と同じ効果だ。


「ヒールも!」


 そう言うと今度はエンダーな曲を歌い出した。

 俺たちが光に包まれる。

 ケガしてないから効果は不明だけど、ヒールの時と同じだ。

 エクストラヒール相当だろう、

 歌穂はふふんっと鼻息を荒くした。

 実は……【吟遊詩人】相馬歌穂と【風水師】山本美香。それと【占い師】谷本満里奈。

 非戦闘員の中でもなにができるかわからなかった三人が今度の鍵を握るとは、まだ誰も気づいてなかった。

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