第14話 クズ勇者
玲二の最大の過ちは大人の人脈や国家権力を軽視していたことだ。
異世界で最強勇者をやりすぎて価値観が狂ったのだろう。
連続殺害事件の犯人逮捕というニュースがホットワードに表示された。
連続殺人事件の末端逮捕なのだが、その情報は流れない。
警察には関口がお偉いさん経由で「黒田の名前を聞き出すと死ぬ」とは伝えた。
どこまで信じてくれるかはわからない。
その後の調査で玲二の通っていた学校で2人が行方不明になっていた。
異世界から帰ってきた玲二はいじめっ子を海辺に呼び出した。
あとはショッピングセンターと同じ。水の魔法で窒息させて海に捨てたとのことだ。
もう一人の勇者である田中大も人を殺していた。
田中は死ぬ一ヵ月前に働いていた工場を辞めた。
同日、作業員が機械に挟まれて亡くなる事故が起きた。
遺体は引き裂かれていたとのことである。
闇の魔法だろう。
警察は事故を殺人に切り替えて捜査を開始。
俺たちと勇者が戦ったことはどちらの事件でも闇に葬られた。……と思う。
「ほれ、調べたぞ」
関口がプロジェクターを出してPCでファイルを表示する。
そこには咲良と楓が映っていた。
「真田咲良。高校芸術学科所属。学生コンテスト受賞2回。格好は派手だが、校風がそれを許している。性格は明るくてフレンドリー。シュウ……美人なのに男友達みたいに付き合える系女子か。お前の好みって本当にわかりやすいな。あいつが悲しむぞ」
「放っておいてくれませんかね!」
あいつとは……ニホンのメンバーの女子である。
現在、もともとシャレにならない学力がもっとシャレにならなくなったため勉強中だそうだ。
そのうち会うことになるだろう。
「次は渋谷楓。成績は有名進学校の普通。文芸部所属。大人しくて静かなタイプ……シュウ……お前本当にわかりやすいな……」
「狙ってない!」
「最後に神宮司歌音。成績は有名進学校で上位をキープ。最近はお兄ちゃんが突然頭が良くなった話を周囲にしている。自覚のないブラコン、ツンデレ。シュウ……お前なあ……」
「やめろ、妹をネタにするのはやめろ! やつは断じてブラコンじゃない! 話のネタにしてるだけだ! つうか妹関係ねえだろ!」
俺の猛抗議に関口が首を振る。
「ハヤト、いつもこうなのか?」
「いつもこうですよ。だから向こうでもフラグ折りまくってたんです」
二人が俺を見つめる。
やめろ。
「妹ちゃんはいいとして、問題はあとの二人か……」
関口がうなると片岡夫妻が部屋に入ってきた。追加の資料である紙の束をテーブルに置く。
片岡夫、真次が説明を始める。
「記録では真田咲良の祖母は20代半ばで地方の不動産会社社長と結婚。その前の記録は残念ながら見つからなかった。何十年も前の普通の人間の人生だからなあ、記録があるとは限らないわけだ。真田咲良の母親は長女。地方の大学を卒業して上京、夫と職場で出会い結婚。夫は真田家の婿に入って現在は東京支社の社長と」
「共働きで歌音の学費稼いでいるうちと大違いだな」
「シュウ……お前なあ……お前自身が釣り合いがとれるようにならなきゃいけないんだって」
関口の言葉は本当に……正論だった。
「……その発想はなかった」
そうつぶやく俺を見て片岡夫妻がケラケラ笑う。
「今からがんばれ!」
バンバンと背中を叩く。
「次に渋谷楓。こっちは面白いぞ。明治時代の国際結婚の一例として紹介されている。銀髪で耳の長い女性の写真。そして写真の下の文字。シュウ読めるか?」
写真の下にはエルフ語が書かれていた。
俺はそれを読み上げる。
「ああ、【故郷を離れて】と書いてある」
「写真の女性は病死。それ以上の記録はない。とりあえず、まとめると真田咲良の祖母は異世界人、渋谷楓はエルフの子孫。わかるのはそこまでだ」
真実の近くにまで来たが、確信にはたどり着けない。
皆無言になった。
黙っていると関口のスマートフォンに着信が入る。
「おう、着いたか」
すぐに一人が入ってくる。
『ニホン』のメンバーだ。
それにしてもジョブベースで見ると俺たち戦闘職少ないな……。
「よう、久しぶりだな」
四宮は手を差し出した。
ずいぶんあっさりしている。
だが握手すると力強く握ってきた。
感謝するのが恥ずかしいだけだなこいつ。
なぜ俺のまわりにはツンデレが多いのだろうか?
四宮は錬金術師。
レベルが低すぎて日に三回ファイアボールを使えるだけだった。
その代わり、日本で剣道と古流をかじっていたせいで日本刀を使える。うらやましい。
うちのオフェンサーの一人である。
錬金術師が前衛だからな! うちは!
彼は俺たちの数日前にミッドガルドに召喚された。
まだ帰って来たばかりである。
「関口さん、例の件検証してきました」
例の件とは、俺たちは日本でしかレベルアップできないことだ。
「どうだった?」
「久しぶりに道場で乱取りしたんですが……上がりましたよ。今はレベル15になりました」
「やっぱり殺す必要ないってことか。俺も帰ってきてからスパーリングしたらレベル上がった」
俺は疑問があった。
俺たちはすぐにレベルが上がってクラスチェンジができた。
すでに彼らは上級職になったのだろうか。
「クラスチェンジは? 20前後からできるみたいだけど」
「してない。そもそもレベルは15から上がらなくなった」
俺たちと他のメンバーの違いは一つ。
異世界、ミッドガルドに帰還しているかどうかだ。
つまり、レベル上限を突破するにはミッドガルドに帰る必要があるということだ。
ハヤトは黙っていた。
「ハヤト先生。意見があればどうぞ」
「お前もわかってるだろ。俺たちの成長速度は異常だ。一晩で体型が変わり、今までできなかった動きができるようになり、魔法が使えるようになった。まるで……」
「勇者のようだ?」
「それだ。だが俺のたちの出会った勇者は……」
「クソ弱かった」
「ああ、戦闘経験が少なすぎる。命のやりとりをしたことがなさそうだった」
確かに弱い。
レベル1時代の俺たちよりずっとぬるい。
「……もしかして異世界はわざと弱い勇者を作っているとか?」
愛理が言った。
だが答えは出ない。
なんの証拠もないからだ。
また沈黙。これが袋小路というやつかもしれない。
時間だけが過ぎていく。
資料をどれだけ読んでも答えはない。
だが……そのとき俺はつぶやいた。
「やつら……それに気づいて咲良を異世界に連れていって女王にしようとしてるとか……」
「シュウ、そんなことが可能なのか!」
ハヤトが俺の肩をつかんだ。
「俺たちみたいに魔道士の部屋を見つけたとかで帰ってこれれば。あとは王の首さえはねてしまえば……正当性を主張して国を乗っ取ることは理論上可能だ。もちろん根回しが必要だが」
「シュウ、たしか玲二は『ゲームは終わらない』って言ってたよな? たとえ警官を殺して指名手配になっても異世界に行けるとしたら?」
「日本にいる必要がない……勇者ごっこは永遠に続けられる」
つまりそういうことだ。
俺たち下級戦士は日本に帰りたかった。
勇者は日本に帰りたくない。
俺たちと違ってミッドガルドでレベルアップができる勇者たちには日本は必ずしも必要とされてないのだ。
レベルアップに悩んだら、たまに殺しに来ればいい。
あとは好き勝手に生き、わがままを通し、力尽くで言うことを聞かせる。それがやつらの理想だ。
そのために邪魔な存在は?
王……でもなんで? 勇者は優遇されていたはずだ!
……俺たちはまだわかっていなかった。
クズ勇者の中にもランクがある事を。
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