第8話 襲撃者

 メシを食べて部屋に戻るとメッセージが入っていた。


【明日休みだし遊ぼうよ!】


 母親でもない。妹でもない。それにハヤトでもない。

 咲良からである。こんなんすぐ返信するやろ。


【御意】


 なぜ俺はたまに武士になるのだろうか?

 シーフなのに。

 というわけでミッションに挑むことになったのだ。

 なお「デートだ! わーい!」と喜んでいたら【友だち連れて来て】とのこと。

 友だちなんてハヤトしかいないもん。


【ハヤト氏。遊んでくだされ】


【うむ、どうせあの金髪誘おうとしたら友だち連れてこいとか言われたんだろ?】


【貴様エスパーかッ!?】


【おまえ、ミッドガルドでも同じこと繰り返してたからな】


 ひどい!

 ひどすぎる!


【ミッションの件もあるから行ってやる。ところで特殊警棒と金属バットどちらを持っていけばいいと思う?】


【私服に似合う素敵なメリケンサック】


【持ってねえよ。おまえも包丁くらい持って行けよ】


 遊びに行くのに刃物持ってくのは嫌だ。


【拙者、素手が得意ゆえ】


 つうかね、刃物なんて持ってたら警察に逮捕されるわ!

 その後待ち合わせ場所を送信して終了。

 ふうっとため息をつくと、勉強。

 留年への恐怖だけが……いま俺を突き動かしている。

 勉強をしているとドアが乱暴に開けられる。


「シュウちゃん! これ教えて!」


「だからぁ、お兄ちゃんの学力は50よ!」


 中学生なのに俺より勉強進んでいる妹登場。

 この間のマウント失敗を根に持っているようだ。


「いいから!これ読んで!」


「へいへい」


 また英語だ。

 文字なので「実はポルトガル語でしたー!」は通じない。

 本当に英語だ。

 俺はサクサクと和訳をノートに書き、問題も答えておく。


「はーい終了。じゃあ兄ちゃんは数学と社会という苦行をするので」


「待って、待てって! 離せてめえ!」


 俺が追い出そうとすると、歌音は機嫌の悪い猫みたいに暴れる。


「なーにー、お兄ちゃん。バカだから留年したくないのよー」


「なんでわかるの!? これ医大の入試問題だよ!」


 歌音が持っていた問題集を引ったくって中を見る。

 本当に医大の入試問題だった。冗談だろ。


「……おう、歌音ちゃん。これ内緒な。菊池ってアホに頭蹴られたら急に英語できるようになった。はいはい、兄ちゃんの邪魔しないでねー」


 歌音を追い出すと俺は勉強を続ける。

 英語ができるってことはエルフ語のスキルを持ち越しできたわけだ。

 腕力も向こうから持ち越し。

 レベルが上がると腹筋割れた。

 ……じゃあ魔法は?

 使えるかも?


 次の日、待ち合わせ場所に行く。

 当方、服のセンスはない。

 髪だけは切った。駅前の千円のところで。

 待ち合わせ場所にはハヤトが先に来ていた。

 服装は絶望的。

 やつも髪だけは切っていた。


「これか? 駅前の千円カット……」


 相棒との行動パターンの類似性に軽く絶望感を覚える。

 我々は陰キャという星の下に生まれているのではなかろうか?

 しばらく待つと咲良たちがやって来た。


「悪い、待った?」


「いいやぜんぜん」


 などという定型文的会話をすると咲良の連れてきた女の子に挨拶する。

 一人は真面目そうな黒髪の女の子。

 もう一人は……妹よ。なぜ貴様がいる?


「げッ! シュウちゃん!? なんでいるの!? 強い人紹介してくれるって言ってたのに! ねえ、咲良先輩! そいつゴキブリすら捕まえられないヘタレだよ!」


「二人は……知り合い? え……歌音ちゃん実はヤンキー?」


「中学のときの先輩! 内部進学しないで別の学校行ったの! そっちの人は?」


「山神隼人だ。誠に不本意だがシュウの相棒やってる。特技はシュウを的にするボウリングとダーツだ」


「ら、らめ! ハヤト、アタイの体だけが目的だったのね!」


 ハヤトが無言で俺の胸倉をつかむ。

 俺もハヤトの胸倉をつかみ返す。


「いちゃついてんなって」


 咲良に突っ込まれてお互い手を離す。


「それで……歌音。喧嘩が強い人ってどういう意味だ?」


「えっとシュウちゃん……とりあえず場所変えて話そうか」


 変なやつらだな……。

 場所を変える。

 ファミレスしか選択肢ないよね。

 と思っていたらカラオケに行くことになった。

 おなごとカラオケとか自分の人生に訪れるとは思わなかった。

 部屋に入ると咲良が俺たちを紹介する。

 おそらく最後の一人、大人しそうな黒髪の娘の件で俺たちを呼び出したのだろう。

 なにが「遊ぼうぜ」だよ。泣くよ。泣いちゃうよ。


「じゃ、一応紹介するね。こちら、菊池と愉快な仲間たちを10人病院送りにした二人ね」


「その妹です。残念ながら」


 歌音はまだ不満そうである。

 そりゃなあ……バカにしてた兄貴だもんな。そりゃ信用できないよね。

 と思ってたら咲良が歌音の背中をバンバン叩く。


「なに言ってんの。いきなり『お兄ちゃんが天才になった!』って自慢してたじゃん!」


「違う! 絶対違う! は、はあ、なんで私がシュウちゃんのことで喜ぶの! 違うからね!」


 歌音はなぜか俺をポコポコ叩く。なにこれおもしれえ。

 だから俺は歌音が恥ずかしいようにおどける。


「神宮司修一ッス。スリーサイズわぁ……ぐああああああッ!」


 ハヤトが俺の顔にアイアンクローをかける。

 ちょ、やめ! お前の腕力だとシャレにならんって!


「いいか、おまえのスリーサイズなど誰も聞きたくない」


「ら、らめ! スイカ潰れちゃう! シュウちゃんのスイカ潰れちゃうぅぅぅッ!」


 パンパンと腕を叩いてギブアップ。


「ホントあんたらおもしれえなあ!」


 咲良はゲラゲラ笑い。歌音は笑いながらブチ切れてる。

 でももう一人は下を向いていた。


「で、そちらは?」


 アイアンクローを解くとハヤトが聞いた。

 俺たちが守るのは咲良だ。でも女子が暗い表情してたら気になる。これは男の本能ってやつだろう。


渋谷楓しぶやかえでです。咲良ちゃんと同じクラスです」


「楓ちゃんよろしくー。んで……なにがあったん? おいちゃんに話してみ」


 なるべくふざけて聞こえるように気を使った。

 相棒がシリアス担当。俺はコブ●枠。

「わかってんじゃん!」と咲良はニヤッと笑い、バンバンと背中を叩く。

 すると下を向いていた楓がポツポツと話し始めた。


「つきまとわれてるんです……学校から家に帰るときに視線を感じるんです」


 ストーカーというやつだろうか?


「警察には通報したの?」


「はい……一応見回りに来てくれることになりました。それでお兄ちゃんに学校の送り迎えしてもらってたんですけど、三日前に階段から落ちて大怪我して……」


「事故……なわけないか。それで俺たちにボディーガードして欲しいということか」


 ハヤトがクールすぎる言い方をした。

 すると咲良が頭をポリポリ掻いた。


「悪いね。菊池たちに頼もうと思ったんだけど、あんたらが壊滅させちゃったし」


 ハヤトの口角がヒクッと上がった。

 どうやっても俺たちに関わってくる問題のようだ。

 相棒がエラーを起こしたところで俺に交代。


「いいよ。ただし条件がある」


「なに? 『つきあえ』とか、えっちなことだったら殴るよ」


「ちーがーいーまーすー。咲良ちゃんも一緒に帰ってくれる? 知らない男二人に送り迎えじゃ楓ちゃんがかわいそうじゃん」


 これで咲良の監視もできる。


「変なやつが必ず来るわけじゃないし、私もいた方がいいか……うん、そうだね、それはいいアイデアだわ。それで御礼は? なにか欲しいものある?」


「一緒に帰るだけだろ。いらないって」


 ピラピラと手を振る。


「ありがとうございます」


 楓が頭を下げる。


「なんでも頼んでよ! せっかくだから歌おうぜ!」


 咲良がマイクを握る。

 というわけでさんざん飲み食いして歌った。

 なお、咲良はアニソン許容派だった。


 俺たちは女子を家まで送ったあとハヤトと公園にいた。


「【風の精霊よ。索敵せよ】」


 俺はエルフ語でつぶやく。

 やはり赤い点があった。

 赤い点はなにかを察したのか、高速で俺たちに近づいてくる。


「来たぞ!」


 俺たちは構えた。

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