なーなーなぁー

ネット小説家スキー@新米レビューアー

第1話 トキ☆メキ入社試験は恋の予感♡

 突然だけど、僕はもう駄目かもしれない。目の前にはサングラスをかけた筋肉隆々の色黒カッパが四股を踏んでいる。ウォームアップとばかりに彼の放つ張り手は岩を砕き大木をへし折り木綿豆腐を粉砕した。

 そう、100%の木綿豆腐をだ。あんな一撃を食らったら僕は死んでしまうだろう。野次を飛ばしていた他のカッパ達もその破壊力に驚いている。一般通行人のタカシも声が出ない様子だ。


「嘘だろ」


 こんなことなら近所の山で我慢しておけば良かった。



「あ〜とても美味しいですねぇ。まるで味の多目的トイレやー」


「早く放送を止めろ!!」


 事の発端は先日TVの生中継にて炎上することで有名な芸能人が松茸狩りをして美味しそうに食べているのを観たことだ。


「よし行こう。早くタケシも行くぞ」


「私が仕事中の確率95%」


「松茸だよ? 仕事とどっちが大事なのさ。仕事なんて早退すれば良いでしょ」


「仕事を早退することでクビになる確率15%。悪くない確率だ、試してみるか」

 

 ちょうど断食から4時間が経過していた僕はその映像の暴力に耐えられずタケシはタイムカードを切って中国に乗り込んだ訳だ。後タケシは仕事をクビになった。

 

 しかし、近所の公園に住む浮浪者のおじさんにも賢いと褒められたことのある僕が事前にリサーチしていたにも関わらず1本も見つける事は出来なかった――確かにスーパーでは中国産の松茸が沢山あった上に中国で最高峰の山のエベレストに来たのにだ。松茸の鉱脈の200や300000はあっても可笑しくないと思ったんだけどなぁ。


「おーい、松茸出ておいでー。キュウリもあるよー」

 

「椎茸が出現する確率85%。ふむ、また外したか」


 懸命な捜索も虚しくお腹も空いたので、タケシに後は任せてスーパーで買い物して帰ろうと遭難中のエベレストを下山しようとしていた。

 幸い吹雪対策に百均で買ったシュノーケルと棒を立てて倒れた方向に向かう最新式のナビゲーターがあったので全く心配は無かったのだが。


「あれは!?」


「くっ、熊だ! 殺される確率100%! 助けてくれ!」


 何と看板の下でゲームでピコピコしている赤い妖精を見つけたのだ! 今日のラッキーカラーは赤、察しの良い読者は分かったかもしれない、分からない奴らは土下座して寝ろ、つまりこの看板の先に松茸があることは明らかだ。看板には血文字で大きく【死】と書かれていた気がするけどきっと気の所為だ。


「うぉぉぉお! 待ってろ松茸!」


 突然だがトマトに含まれるリコピンと呼ばれる有機化合物をご存知だろうか?

 リコピンは主に植物に含まれるカロテノイドの1つであり、非常に強い抗酸化作用を持ち体内の活性酸素を除去してくれる事から美容や健康、ダイエットにも非常に効果的だといわれている赤やオレンジ色の色素である……赤色だと思っていた妖精はトマトジュースを飲んで赤色になっていただけで元の色は紺天鵞絨(こんびろうど)色だったのだ。

 もしもそれに気付いていれば、あんな事にはならなかっただろう。


 看板の示す通り、僕の松茸を巡る旅は壮絶なものとなった。


 ガッ! パラッパラ(小石が転がり落ちる音)


「うぉっと、今のは危なかった」


 雪で滑りやすくなっている上に足の置き場が殆どない急斜面の険しい山道は一瞬でも気を抜き滑落すれば骨折だけでは済まない。


「暗くて前が見にくいなぁ」


 登山は時間との勝負となる。

 日が沈み光が無くなれば殆ど見えなくなり危険度が跳ね上がる。そして、全く身動きが取れなくなる事から多くの登山家は早朝に出発して夕方までには下山するか休憩ポイントである山小屋に辿り着けるよう計算して登山を行っている。

 彼のように山を舐めた者の末路は決して易しいものではないだろう。

 

「ヘリタクシー( 'ω')ノ。あの山の麓までよろしく」


「初乗り500円アルヨー」


 知恵と勇気で険山を越えた彼を待ち受ける次の試練は魑魅魍魎が住まう危険な川下り。


「ケケケ、そこの美味そうなニンゲン。オレと勝負しろ。負けたらお前の命は無いけどなぁ! 万が一、いや、億が一にでも勝ったらこのキラキラして綺麗なシールをやろう」


「妖怪にしてはかなりフェアなルールじゃないか、受けて立つよ」


「俺たち日本の河童は武士道を重んじるからな。ルールは6vs6のシングル。伝説モンスターは無しだ!」


「おk、ルール把握。伝説モンスター6体でいかせて貰うよ!」


 互いにゲーム機を構える。

 当然だが河童のゲーム機は完全防水加工がしてあり技術の進歩が伺える。


「「デュエル!!」」


 高がゲームといえど負ければ死ぬという危険な勝負。しかし、彼には自信があった。


「(これでも僕は大会上位常連。頭に皿乗っけた全身緑野郎に負ける筈がない)」


 このゲーム、世界的に大ヒットしておりプレイヤーの腕や掛けた時間よりもモンスターの質と課金額が大きな勝敗を分ける。出現確率が小数点以下の伝説レアリティのモンスターとなれば額にして8桁は必要と噂され、実際手塩にかけて育てた熟練プレイヤー達のモンスターも瞬殺だった。何だこのクソゲー。

 彼の予想通りルール破りの伝説モンスターによる圧倒的パワーの前に相手のモンスターは既に残り1体となった。


「どうしたの? もう後がないみたいだけど」


「こんなの反則だ! 武士の誉はどうした!?」


「ここは中国だよ、そんなものは存在しない」


「くっ、なんて正論なんだ」


「このまま押し切らせて貰うよ」


 そして、健闘も虚しく決着はついた。0vs1で河童の勝利である。ゲーム内にて対戦中に突然頑固親父が現れちゃぶ台返しからの大逆転は歴史に残る名シーンだった。


「チートじゃん! 武士の誉はどうしたの!?」


「俺は武士じゃねぇ、河童だぜ」


「……正論だね」


「さあ約束通りお前の命と「大逆転きーっく」ブヘラッ」


 こうして結果は彼の勝ち確からの逆転サヨナラ敗北ハットトリック勝利となり、蹴り飛ばされた河童は白目を剥いて川に還っていった。弱肉強食・優勝劣敗・適者生存・焼肉定食、自然界は力あるものしか生き残れない、私はタンとハラミが好きだ。

 敵を退けたもののここは魑魅魍魎が住まう危険な危険な川下り(2度目)、次の刺客は直ぐに現れた。


「河童一郎を倒した位でいい気になって貰っては困るな」


「誰!?」


「私の名前は河童二郎、命を掛けて次は格闘ゲームで勝負してもらおう」


「同じく河童三郎、パズルゲームで勝負だ」


「河童四郎、RPG、勝負」


「河童五郎子よ、恋愛シュミレーションゲームで勝負しなさい」


「はい! 河童太朗55歳です! 人生という名の一度きりのゲームに全力を尽くしております! 御社を志望した理由は――」


「河童六郎です、トランプで勝負しましょう」


「か、河童七郎……えっと……しりとりでもします?」


「河童「多すぎるわボケ!!!」」


 チュドーン


 機転を効かせた彼は対河童用決戦兵器(RPG-7)で強敵達を消し飛ばす事に成功した。また、第8第9の刺客(河童)が現れないよう川にマーガリンを1パック入れた辺りしっかりリスク管理出来ている。但し__


 ガシッ


「なっ!?」


 相手が河童だけであったらの話だが。


「わ、私の長所はどんな辛い状況でも諦めない強い精神です。具体的には50歳の時に起きた――」


 ボロボロのスーツ姿でしがみついて必死にアピールしているバーコード禿げで中太りの人間の男性、彼の本名は窓際 族男 63歳、彼の人生は壮絶なものだった。

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