blank room = she; ;

 ──V-Day(+1)当日──



 植木の影から突然襲い掛かられた。

 相手は相蓮楓子だ。急のこと過ぎて事態が呑み込めない。

 なんか『こんにゃろうがあああ』とか叫んでた。怖かった。



 ──V-Day(+1)当日っ# ゚Д゚)──



 私、今、イズちゃんに馬乗りになっています。

 思わず勢いよく飛び掛かって押し倒して乗っちゃいました、えへへ、めんごっ。でもどいてあげなーい。しばらく私の重みを味わうがいい。この重みは特別製、あなたにしか味わわせません。重いとかは言っちゃだめだからね?


「あいれっ、おもっ、むぐ」


 言っちゃダメだからね?

 視線でそう訴えかけると、イズちゃんも頷き返してくれました。はい、手を放してあげます。


「その心霊映像研究会の会長とやらをチョコレートに練り込むというのはどうかしら?」

「却下」

「なぜなのっ……」


 アヤちゃんの提案を私は即座に却下しました。駄目に決まってる。


「ねえ、私が今どんな顔をしているのか分かる?」


 イズちゃんを見下ろし、私は問いかけます。

 怒ってるんだよ、と言いたかったんです。


「……顔がよく見えない」


 返ってきたのはそんな言葉でした。え、なんで?

 純粋に分からなかった私の肩に、アヤちゃんがポンと手を置きました。「分からないって顔をしてるわね」したり顔です。さっきまで号泣してたくせに。


「あなたのその巨乳が、彼に天を仰がせないの」

「……そうなの?」

 

 イズちゃんに尋ねると、


「でか、ってなった……」

 

 なにそれ……もう! 別にいいけど! 好きなだけ見たらどうかな!


「私の胸のことはいいんだよ。それよりも私、イズちゃんにひとつ提案、っていうかお願いがあるんだけど」


 ひとつ、頭に思い浮かんだことがあります。

 それはそれはもう、まるで天啓のように、誰かが私の頭の中にこうするんだよ! とぶちこんできたみたいに電撃的に浮かんだアイデアでした。

 会長は、イズちゃんと動画撮るの大好き人間です。見てて分かります。

 だから……考えました。会長にちょっと勝ってやろうと思いました。だって日ごろから会長、私を見て『胸がうざい』だの『一生肩凝れ』だの何だの失礼なこと言ってきますし、たまにはいいでしょ!


「私たちのチョコレートを食べてほしいの」


 イズちゃんが好きな人ではなくとも、せっかく作ったんだから食べてほしい。本心です。嫌なら、無理強いはしないから。


「会長がこの前撮ったのと同じ動画を、私たちだけでもう一回撮ってみたい。そのなかで私たちのチョコレートも、食べてほしい」


 この怒りは理不尽で、会長もイズちゃんも根本的には何も悪くない。んや、会長は普段の言動が若干悪い。


「……なるほど。分かった」


 すんなりと、イズちゃんも首を縦に振ってくれました。

 もし駄目ならそのときは血の涙を流しながら諦めるつもりだったけど、いいよね? 同意は得たから良いよね?

 よしっ、それならっ……。


「じゃ、撮ろっか。アヤちゃんの家にちょうどいい真っ白な部屋があったから、そこをお借りして」


 ごめんなさーい、あぜちかいちょーう。今から私とアヤちゃんで、あなたがイズちゃんと撮った満足のいく作品を上塗りしまーすっ。


「……どういうことかしら?」


 アヤちゃんが上手く呑み込めていないようだったので、もう一回詳しく説明しました。


「あぜちっちを見返すのね、分かった。協力する」


 快くオッケーを貰いました。

 さて、と。それなら善は急げで今日撮ります!


「チョコどうするの?」


 アヤちゃんの質問に、


「砕いて盛る」


 とだけ、私。

 せっかく作ったのに……、とアヤちゃんは残念そうな顔を浮かべていて、二人で悲しい気持ちにしばらく浸りました。

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