第48話「勝者の権利」
慌ただしく戦場掃除が行われ、戦死者達の死体が一箇所に集められた。死体が着ていた鎧に記されている紋章や持ち物などを頼りに、紋章官が名のある貴族の死体を選別しようとするが中々上手くいかない。というのも、勝利した親ゲッツ派軍の兵士や市民(全く戦闘に参加しなかった者も混じってる!)によって金目のものは粗方
「はいルル、これあげる」
僕は手に入れた胴鎧と小手をルルに譲った。
「えっ、良いんですか!?」
肩を負傷したルルは肩鎧と腕鎧を選んでいた。
「うん。熟練兵士相手じゃ君を守れない事がわかったから、これは罪滅ぼし半分、パーティーの戦力強化半分なんだ」
「というわけで私からも」
イリスもルルに首鎧を手渡す。僕は彼女と相談し、今回の戦利品はルルの強化に充てる事にしたのだ。前衛のルルが抜かれてしまうと直接危険に
「おおん……ありがとうございます」
感極まったルルが抱きついてくるが、今この瞬間だけは自分の防具が恨めしかった。革の胴鎧に押し当てられた豊満なバストが柔軟に形を変える。
「……でも本当に良いんですか?クルトさんの胴鎧もこんな状態じゃないですか」
僕の胴鎧に押し当てられたバストの谷間あたりに、敵兵の剣が突き刺さった痕が残っている。剣は革鎧を貫通し、切っ先がギャンベゾンで止まっていた。
「良いの良いの、僕は新調するアテがあるから」
「……?そういう事ならありがたく頂戴しますけど……」
「まあそれは良いから、取り敢えず試着してみなさいよ」
イリスが僕からルルを引っ剥がし、戦利品の試着を勧める。略奪で手に入れたものの最大の問題は、サイズが合わない場合がある事だ。僕は男性としては平均的な体格をしているので今の所サイズの問題で苦しんだ事はないが、ルルは女性で、なおかつバストが豊満だ。騎士ゾンビから奪った革鎧が着用出来なかったのもそのせいだ。
「……ん、ちょっと胸が当たりますけど、サラシで胸を下げれば問題なさそうですね」
ギャンベゾンを着て、そこに胴鎧を着用したルルがそう言う。彼女が着けた胴鎧は胸のあたりが丸く膨らんでおり、豊満なバストも何とか収まったようだ。ベテランパーティー曰く、この丸みは胸に打撃を受けても肋骨に衝撃が通らないようにするための構造らしいが、それが女性の胸にも優しい構造になるとは。
「それでもサラシが必要かあ、胸の形が崩れなグワーッ!?」
イリスに膝の裏を
「ま、これでルルの上半身はほぼ完璧に鎧えたわけだし、かなり継戦能力は高くなったんじゃない?」
「ですね!脇と脚に気をつけてれば後は最悪受けちゃっても良くなったわけですし。本当にありがとうございます!」
イリスに蹴られたのは納得いかないが、ルルが喜んでいるので良しとしよう。
その後はお祭りになった。即位式に合わせて準備していた食堂や居酒屋の人たちが店の表にテーブルや椅子を出し、さらに「マクシミリアン陛下と摂政殿下が炊き出しを御下知された!誰でもパンとスープを貰えるぞ!」と告知が出され、城の前でパンとスープが配られた。これによりお金のない貧民も街に繰り出し、ブラウブルク市を上げた大宴会になった。
【鍋と炎】はビールと串焼きを買って街を練り歩いた。戦闘で疲れ切った身体にベーコンの串焼きの塩気が染み、脂をビールの炭酸で流し込むと疲労も吹っ飛ぶようだった。ちなみにブラウブルク市で売られているビールは多種多様だ。例えば僕が飲んでいるのは「
身体がふわふわとして来た所で、広場で旅芸人達による演劇が行われていたのでそれを鑑賞した。主人公は意中の女性の裸をどうしても見たくて、飲むと幽体離脱が出来るようになるという "黄金の蜂蜜酒" を求めて世界を冒険する。数々の難題を乗り越えてついに黄金の蜂蜜酒を手に入れた主人公はそれを飲み、女性が風呂に入ったところに幽体で忍び込むが、実はその女性は主ナイアーラトテップで彼女に覗きを
そうして祭りを楽しみ消灯も近くなった頃、目つきの悪い怪しい男が話しかけてきた。警戒して鍋に手をかけたが、男が差し出してきたのは鍵だった。僕たちの家の鍵だ。
「随分と探したぞ。……旦那様の計らいだ、暇が出来たら新しい契約書を書きに来いとの事だ」
そう言い残すと男は人混みに紛れて去っていった。……盗賊ギルドって人情に厚いんだなぁ。感謝しなくては。
「そろそろ消灯だし、帰ろうか」
「そうね、帰りましょう。……私達の家に」
酔いつぶれたルルを連れて、僕たちは一旦ギルドに戻って荷物を受け取ってから家に帰った。今朝はもう二度と帰れないと思っていたが、その日のうちに帰ってくる事になるなんて。だがこれは僕たちが自分の力で取り戻した家だ。そう思うと目頭が熱くなる。
「何、泣いてるの?」
そう言うイリスも目に涙を溜めていた。彼女も同じ気持ちだったようだ。絶賛中世やっているこの世界で、僕たち平民の日常は簡単に奪われてしまう。だがそれ故に命を賭けて守る意味がある。不動産屋の店主が言っていた事の意味がわかった。そして守りきった時の喜びは一際大きい。
酒も手伝って涙腺と
「ねえクルト」
イリスは上半身だけ身を離し、泣きはらし潤んだ目で僕をじっと見つめてくる。彼女に聞こえてしまうのではないかと思う程に心臓が高鳴る。
「な、何さ」
イリスが僕の胸に当てた手をきゅっと握り、服を掴んで引き寄せる。これは!
「私ね……」
「イリス……!」
イリスが顔を近づけてくる。非力な彼女では自力で僕を引き寄せきる事は出来ない。僕は軽く身をかがめ、目線を合わせる。彼女の桜色の薄い唇が軽く開く。そして。
抱きつくようにして僕の耳元に口を寄せ、
「私、まだ魔法1発残ってるから」
「うん………………うん……?」
「なんか感動して抱きついちゃったけど、勘違いしないでよね。狼になったら燃やすから」
「イリスさん……?」
「じゃ、そういうわけだから。おやすみクルト。勢いでキスとかしてこなかったのは褒めてあげるわ」
そう言うとイリスは身を離し、自室に戻って行った。下半身に流れつつあった血液が頭に登ってゆく。
「……弄んだな!?僕の純情を弄んだなイリスゥゥウウウウウウウウッ!!!!」
「何が純情よ!抱き合った時にお腹にかたっ、固いものが当たってたんだから!このケダモノ!」
「苦楽を共にした可愛い子に抱きつかれたら誰だってそうなるでしょうがッ!思春期男子の性欲ナメんな!!」
「かわっ……やっぱりケダモノじゃない!!いいからとっとと寝なさい!」
「寝れるかーッ!!」
僕は叫びながらも自室に戻ってシーツを敷き、乱雑に身を横たえた。めちゃくちゃ頑張った人の純情を
◆
「魔法の1発くらい鍋でどうにか出来たでしょうに。……ばーか」
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