第4話「幸せな日々」

 今日は帰省の日、熊本空港から飛行機に搭乗し 指定された席に着くと備え付けのヘッドホンを耳にし流行りのJ-POPに聴き入る。

昨夜の出来事で眠れなかったせいもあり、ウトウトし始めいつの間にか寝入ってしまった。

暫くすると、トントンと肩を叩かれ目を覚ます。

そこにはミチコがいた。

普段から寝起きが悪い僕は不機嫌に目を覚ましミチコに言った

「何だよー!」

よく見るとミチコの隣にはヒロコさんがあの向日葵の様な笑顔で一緒に立っていた。

すると、ミチコはニヤリと笑みを浮かべ何も言わずに立ち去った。

1人残されたヒロコさんが言う

「コウジ君、寝てる所ゴメンネ」

「良かったら、家の電話番号教えて」と

修学旅行のしおりとペンを差し出す。

僕はしおりに電話番号を書きヒロコさんに渡した。

するとヒロコさんは嬉しそうに

「ありがとう!」と言い

恥ずかしそうに走って席に戻って行った。


 僕はその後色々と考えた。

きっと、周囲を気にする女子だったら携帯電話を持ってなく放課後も部活に励む僕となんて、

付き合おうとなんて思わなかっただろうな…

それだけヒロコさんは僕の事を想い、

好きになってくれたのかな…

そう思うとヒロコさんの真剣な気持ち、

僕に対しての本気な気持ちが伝わってきて、

他の同級生のカップルの様に遜色なく付き合うのは今はまだ難しいけど、


全力でヒロコさんを愛する。

全力でヒロコさんを幸せにする。

あの向日葵の様な笑顔をいつまでも見ていたい。

そう胸に誓った。


 今思えばまだまだガキな僕だったが、あの時の彼女に対する決心や想い、そんな自分を好きになってくれた彼女の想いは、今に至るまで引きずり続けるなどとは思いもしなかった。


 空港から方面別にバスに乗り帰路に向かう。

家の近くの停車場所で降り他の同級生達は親が迎えに来る中、自営業を営み父子家庭だった僕には迎えなどなく大荷物と共に徒歩で家まで帰った。

 帰宅すると忙しく仕事をする親父が僕に気付き

「帰ってきたか、楽しかったか?」

刺身を捌きながら、こちらを見る事なく問いかけてくる。

「あぁ、まぁ楽しかったよ」

そっけなくそう告げると、店舗兼自宅の2階へ上がって行った。

 夕飯を1人で食べ、お風呂に入り部屋でテレビを観ながら修学旅行でのヒロコさんとの出来事を思い出し浸りながらゴロゴロしていると、自宅の電話が鳴る。

「もしもし!」

「あ!コウジ君と同級生のヒロコと申します」

「コウジ君いらっしゃいますか?」

ヒロコさんだ!

ゴロゴロし思い出に浸っていたが、

緊張で胸が高鳴る。

「ヒロコさん?僕だよ」

するとヒロコさんは安心した様に

「コウジ君、こんばんは!」

「さっそく電話してゴメンネ」

「修学旅行楽しかったね!」

ヒロコさんも緊張している様だった。

「こんばんは!修学旅行楽しかったね」

「電話ありがとう、嬉しいよ」

どの位話していただろうか、

ヒロコさんとの話は楽しく、いつの間にか12時を回っていた。

するとヒロコさんが言う

「コウジ君、コウちゃんって呼んでいいかな?」

僕は嬉しくて即答で答えた。

「うん!もちろんいいよ!」

本当に嬉しかった。

トントン拍子で進む2人の関係が奇跡の様で、そのうちバチでも当たるのではないか?

ネガティブな僕はそれ程今の状況、幸せが信じられなかった。

 時計を見上げると1時も近くなり、

「明日、学校だしそろそろ寝ようか?」

「電話凄く楽しかったよ、ありがとう!」

「また、話したいな」

と僕が言うと

「私も凄く凄く楽しかったよ!」

「ありがとう」と言うと

ヒロコさんは携帯電話の番号を教えてくれた。

すると言葉を用意していたかの様に、

「コウちゃん、明日から朝一緒に登校しない?」

「電車3両目の1番前に乗るから、コウちゃんもそこに乗ってね!」

電車通学だった僕達は乗る場所の約束をする。

僕の方がヒロコさんより1つ前の駅で乗車するからだ。

「うん!わかった!」

そう約束を交わし、興奮の中眠りに就いた。

 翌朝、駅でいつも一緒に登校していた友人達に事情を話し約束の場所に乗込んだ。

ヒロコさんが乗車する駅に停車すると、乗り口の先頭には笑顔のヒロコさんが立っている。

「コウちゃんおはよう!」

朝が弱い僕には、朝からそこまで満面な笑顔を出来るものなのか?

その位、この朝を楽しみだったのだろう。


 その時の彼女の笑顔は今でも忘れられずにいる。


「ヒロコさんおはよう!」

照れながらあいさつを返す。

それから学校がある駅までヒロコさんは嬉しそうな笑顔で色々な事を話続ける。

きっと、もっともっと話したい事が沢山あるかの様に次から次へと一方的に話を続け、僕は頷くばかりだった。

駅に着き電車を降り駅から出ると、周りの同級生達の視線とコソコソ話が聞こえてくる。

「えー!あの2人付き合ってるの?」

「もしかしたら、修学旅行で…」

などと、視線と言葉が突き刺さる。

それはそうだ、ヒロコさんは学校でマドンナ的存在で狙っている男子は多々いたからだ。

そんな周囲のざわつきを気にしながらも、彼女と登校するという事、これが学生の青春なのかと感激しながら通学路を2人で歩いた。

 すると、学校まで半分位来た所でヒロコさんが突拍子もない事を言い出す。

「コウちゃん、今日遅刻していかない?」

遅刻してどうするのかと疑問が湧き出しヒロコさんに問い返す。

「いいけど、どうするの?」

「公園で少しお喋りしてから登校しようよ!」

電車内、通学路ではまだまだ話足りないのだろう。

もしくは、ヒロコさんはもっと僕を知りたいのだろうか。僕もヒロコさんを沢山知りたかったから、

「いいよ!公園行こうか!」

そう話し、登校する同級生達とは違う方向に向かった。

 公園に着きベンチに座ると、蛇口をひねったかの様にヒロコさんが喋りだす。

暫く話していたのだろう、公園の時計を見ると10時前になっていた。

「そろそろ行こうか?」

そうヒロコさんに言うと

「そうだね…もう10時だもんね…」

ヒロコさんは淋しそうに呟いた。

学校に向かい歩き始めると、ヒロコさんのマフラーが目に入った。

「マフラー凄く似合ってるね」

そう言うと、嬉しそうな笑顔を見せた。

「コウちゃんはマフラーしないの?」

「欲しいけど、どんなの買っていいかわからなくってさ…」

とっさにそんな事を言ったが、ただ経済的にも毎月のお小遣い的にもマフラーなど余計な物を買う余裕が無かったのだが、そんな事を言えるはずもなく、とっさに嘘をついたのだ。

すると、ヒロコさんが言う

「10時になるし、お店も開くからマフラー見に行って見ようよ」

幸い修学旅行でお土産も何も買わなかった為、財布にはお小遣いの1万円がそっくり残っていた。

その安心感からか、

「うん!見に行こうか!」

「もし選んでくれたら嬉しいな」

そう僕が言うと、ヒロコさんが

「私が選ぶから、任せて!」

そう目を輝かせ嬉しそうに僕に言った。

 お店に入りマフラー売り場に着くと

「これ!これがいい!」

選びもせず、最初から決めていたかの様に取り出したのは、色違いでお揃いのバーバリーのマフラーだった。

「私は茶色!コウちゃんは紺!」

「お揃いだし、この色凄く似合うと思うよ」

色違いのお揃い、凄く嬉しかった。

レジで精算し店員さんが袋に入れようとすると、

ヒロコさんが言う

「すぐ使うので袋大丈夫です!」

「それと、タグ取って下さい」

お店を出るとさっそくヒロコさんが、自分と同じ巻き方を教えてくれながら巻いてくれた。

「よし!これでお揃い!完成!」

あの向日葵の様な笑顔で言う、僕も嬉しくて嬉しくて天にも登るような気持ちになった。

お揃いのマフラーをし、手を繋ぎ学校へ向かった。


 僕らが通うこの学校は正門を入り、昇降口に向かうまでに看護科棟の前を通らなければならない。

遅刻をし、尚且つ授業中の教室前を通ると、それはそれはさらし者位に目立つのだ。

授業中の教室内がざわついてるのがわかる。

僕は凄く恥ずかしく下を向いて歩いたが、

ヒロコさんは堂々と前だけ向いて歩いている。


 私の彼氏だから!

と、ざわつく教室に見せつける様に。


昇降口に着くとヒロコさんは、

「また部活後にね」と

笑顔で言い残しお互いの教室へ向かった。


 放課後の練習が始まる、マネージャーのミチコが

「ヒロコ、練習終わるまでマネージャー室で待ってるって言ってたよ」と

笑みを浮かべマネージャーの仕事に消えて行った。

 先輩の引退後、新キャプテンになった僕は練習終了後に部員を集め監督の前に並ぶ。

練習終了後恒例の監督の話の為だ。

一通り監督から野球の話が終わると、最後に監督が言う。

「2年生、修学旅行は楽しかったか?」

「はい!」

2年生全員で返事をすると、

「まぁ、女子の部屋に忍び込んで正座させられて怒られた奴もいた様だが」と

監督は僕を見てニヤリとする。

ミチコも後ろで吹き出していた。

まさか…監督にまで話が云ってるとは…

いきなりの事で動揺してしまった。


 練習を終え身支度を整えると、約束通りマネージャー室へ向かった。扉をノックすると、

「はーい!」と

ヒロコさんの声が響く、扉を開けるとヒロコさんは毛布に包まりながら勉強していた。

この寒い部室でずっと勉強して待っていたのだ。

「コウちゃん!お疲れ様」

「もう少しでキリのいい所まで終わるから、そこにあるエビピラフ食べて」

まだ温かい、僕をヒロコさんに聞く

「いつ買いに行ったの?」

「グランドから校歌が聞こえてきたら、そろそろ終わりの合図だよってミチコに聞いてたから、さっき校歌が聞こえてきたから急いで買いに行ってきたんだ、温かいうちに食べて」と

笑顔でヒロコさんが言う。


 バイトがない日は毎回欠かさず、僕の為に寒い部室で勉強しながら僕を待ち、自分が働いたバイト代でお腹を空かせた僕の為に食事まで用意し一緒に帰る日々をこの後も3年生になるまで続けてくれたのだ。


 ここまで想ってくれ、行動する事はなかなか出来る事ではない。

 こんな初々しく幸せな日々を過ごし、2人は愛を深めていき3年生を迎える。













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僕のナイチンゲール、伝えたい感謝と真実 櫻井幸二 @happiness-kabutomushi

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