第3話「本当の奇跡」

 2日目の朝を迎えた、昨夜の事がまだ夢の様に思え起床からヒロコさんの事が頭から離れなかった。

 ホテルからバスに乗り、2日目の目的地はハウステンボス。

到着早々入場口に観光地にありがちな、来場記念の写真撮影場所でクラス毎に集合写真を撮った。

全クラス撮影を終えると、各々事前に決められたグループ毎に園内の自由行動を始める。

 1日目同様に、高2の僕には興味も何も面白い事などなかった。ただ1日目と異なるのは、偶然でも何でもいいからヒロコさんと遭遇出来ないかな…

そんな事ばかり考え、ただただ時間を潰す様に園内の用水路を巡回する遊覧船に気付くと5度も乗っていた。

頭からヒロコさんの事が離れないのと、船内からヒロコさんを偶然発見出来ないかと思ったからか、こんな時に何故僕には携帯電話が無いのかと悔やんだ。

昼食でさえ普通の生徒なら長崎なら、皿うどんやチャンポン麺を選ぶ所だか、何故か僕はファーストフード店に入りハンバーガーを食べた位だ。

それだけヒロコさんの事で頭がいっぱいだったのだろう。

 結局この広大な敷地のせいもありヒロコさんには1度も会えず、ハウステンボスを後に2日目の宿舎は熊本にある少し古びた旅館だった。

1日目の絶景と反する様に、窓からは山の斜面と謎の鳥居が見える。

何とも気味が悪く感じ障子をそっと閉めた。

 夕食を終え自由時間になる、1日目にハメを外した生徒が多々いた様で前日よりも先生達の巡回が多い。

「今日は駄目か…」

そんな事を呟き、昨日のヒロコさんの行動もきっと寝ぼけていたからで、ヒロコさん自身もやらかしてしまったなぁ位に悔やんでいるのかなと、

半ば昨日の出来事は奇跡で修学旅行のいい思い出として、やりきれない気持ちを抑え胸に終い込み床に就いた。

 3日目は雲仙普賢岳や熊本城を観光したが、相変わらず興味も何も面白い事などなく、ただただ偶然でもヒロコさんに会えればなぁと、昨日同様にそんな事ばかりしか頭になかった。

 熊本城を後にし、3日目のホテルはオートロックで3日間の中では1番グレードのいいであろう、そんなホテルだった。

最終日という事もあり、この日は先生の巡回に見つかるなど、そんなリスクを犯してでも同室の友人達はホテル外や女子部屋にそそくさと出掛けて行った。

部屋に1人取り残された僕はテレビを観ていた。

すると浴室から鼻歌が聞こえてくる、1人だと思っていた僕は恐る恐る浴室のドアを開けた。

「マナブ!いたのかよ!」

「ビックリするじゃないか!」と驚く僕に

「彼女に会いに行くんじゃ風呂入らんとね」

とマナブは上機嫌に言う。

マナブは地元で有名な不良グループの一員だか、気は優しくとてもイイ奴、だがイケメンのせいか彼女もコロコロ変わるそんなクラスメイトだ。

支度を終えるとマナブが言う

「じゃ!俺は出掛けてくるからよ!」

「コウジも女子に会ってこいよ」と

マナブが普段から愛用している、スカルプチュアの香水を置いていった。

香水など無縁だった僕は試しに付けてみる。

「いい匂い!」

「てゆうか、マナブの匂い!」

1人呟き笑ってしまった。

 暫くテレビを観ていると、インターホンが鳴る、

誰だろうと思いドアののぞき穴を覗き込む。

そこには、巡回中の先生を警戒しているのか周りをキョロキョロしているヒロコさんが立っていた。


 あまりにも急な出来事に驚き、動揺する。

 経験が無い程に胸が高鳴る。

 これは夢?

 それとも奇跡なのか?


そう感じ恐る恐る扉を開けるとヒロコさんが

「ゴメン!急に…」

「どうしても話したい事があって…」

僕は驚きと動揺で直ぐに言葉が出なかった。

だが、冷静を装いヒロコさんに言う

「今、誰もいないし部屋入る?……」

するとヒロコさんはあの笑顔で

「うん!おじゃまします!」と部屋に入った、

部屋に招き入れ、窓際のベッドに2人で座る。

しばらく沈黙の時間が続く、

実際時間にしては5分位だったろうが、

僕には長く感じた。

するとヒロコさんが息を切った様に言葉を発し始める。

「1日目はゴメンね!」

「急にビックリしたよね?」

僕は直ぐに返す。

「イヤイヤ!全然大丈夫だよ!」

「ただ、女子とあんな風になる事は初めてだったから凄く緊張したけどね」

普通ならカッコつける所だが、自然と本音を発してしまった。

すると、ヒロコさんが俯きながら言う

「迷惑…だったかな…」

静まり返る部屋の中で、僕は即答で答えた。

「迷惑だなんて、全然そんな事ないよ!」

「正直…嬉しかったよ!」

「…なぁ〜んてね」

昔から僕はこうだ、照れ隠しなのか傷付くのが怖いのか、必ず本音の後におどける発言をして発した言葉に保険を掛ける。

ヒロコさんは笑みを浮かべた後、

真剣な顔つきで僕を見つめ


「私、コウジ君が好き!」

「もし、コウジ君が良かったら付き合って下さい」


僕は驚いた、1日目の奇跡は結果的に序章であって本当の奇跡は今なのだと思った。

元々ネガティブな性格と、ずっと想い続けていたヒロコさんに告白されるというこの奇跡的な状況に、答えを即答出来ず問い返した。

「凄く嬉しい!凄く凄く嬉しいよ!」

「実は、僕もヒロコさんが好きで好きで片思いでいたんだ!」

「だから、凄く嬉しい!」

想いを伝えるとヒロコさんは、あの向日葵の様な笑顔で僕を見つめている。

「ただ…」と僕が言うと

ヒロコさんは少し戸惑った表情を浮かべるが、僕は話を続けた。

「僕は部活やってるし、他の同級生みたいにデートしたり、一緒に下校したり出来ないよ?」

と言うとヒロコさんは即答する。

「全然大丈夫!」

「部活休みの時とかにデートすればいい!」

「下校だって、私がバイト休みの日は部活終わるまで待ってるから一緒に帰ろう!」

「そうだ!朝一緒に登校したらいいじゃない?」


 なんていい子なんだと思った。

4時から8時までの部活の時間を終わるまで待ってると言うのだ。


僕は更に続ける。

「僕は今時の男子じゃないし…」

「携帯電話だって持ってないし…」

「…それでも、こんな僕でいいの?」

とネガティブな僕が言うと

「今時って何なの?」

「携帯電話なんて無くたって私は何の支障もないと思うけど!」

「話したければ会って話せばいいし、家の電話だってあるじゃん?」

たしかに、ヒロコさんの言う通りだ。

勇気を出して告白したヒロコさんに対して、自分が傷付かない為に保険を掛ける発言をした自分が情けなく感じたし、真っ直ぐに自分の気持ちを伝えてくるヒロコさんの方がよっぽど男らしかったし、この状況を信じられないネガティブな僕の言い訳でしかないと思った。

僕はそう思い、勇気を出して言った。


「僕もヒロコさんが好き!」

「僕と付き合って下さい!」


ヒロコさんは真剣な顔つきで僕に寄り添った。

僕は、テレビドラマで観た様にぎこちなくヒロコさんを抱きしめた。

どの位の時間抱き合ってたのだろうか、

僕から離れるとヒロコさんは目を閉じた。


これは…

初めての経験に胸が高鳴る。

ヒロコさんに寄り添い、

そっとキスをした。


キスが終わると、あの向日葵の様な笑顔でヒロコさんが言う

「コウちゃんダイスキ!」

と言うと僕に抱きつき、暫くの間抱き締めあった。

 その後、別れを惜しむ様にヒロコさんの手を握り締め、先生の巡回に見つからぬ様に非常階段を2人で走りヒロコさんを部屋まで送った。


本当の奇跡。


ここが君との幸せな大恋愛の始まりで、

この先の人生において君を忘れられず

君を想い続け、幸せ、苦しみ、葛藤

そして壮絶な人生の幕開けだった。



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