第2話「奇跡」

 あの出会い?と言うべきか、

あれから半年の歳月が過ぎ、季節も秋へ朝晩は徐々に冷え込み木々も様変わりしだした。

 そんな頃、2年生のビックイベントである九州への3泊4日の修学旅行の日がやって来た。

初の飛行機に緊張しながら到着した1日目の観光地長崎。

グラバー園など様々な観光地を周ったが、2年生の僕には興味も何も面白い事などなかった。

 1日目の観光が終わりホテルに到着する、5人部屋の部屋に入ると窓からは絶景の夜景が目前に広がった。

 夜景にこの日1番の興味、絶景に感動していると同部屋のクラスメイトが、

「先生達の目を盗みホテルから外出するか?」

「それとも…女子の部屋に行こうか?」

などと悪巧みを企て、部屋から出ていった。

 部屋には僕と、クラスでも物静かで少しヲタクなタニナカとの2人が残された。

するとタニナカが言う、

「コウジ、俺達も女子の部屋とかに行こうよ」

正直、僕は普段物静かなタニナカが、そんな事を言い出すとは思っておらず、拍子抜けした。

「いいけど…タニナカは誰か知り合いの女子いるのかよ?」

「いるわけないじゃん!」

「コウジは誰かいないの?」

その問いかけに、マネージャーのミチコを思い出した。

「1人いる!部活のマネージャーの子!」

そう僕が言うとタニナカが興奮気味に

「行ってみようよ!」と

目を輝かせながら迫って来た。

「うーん…」

僕は少し考え、せっかくの修学旅行だしダメ元で行ってみようかと考えた。

「よし!じゃあ行ってみるか!」と

バックから修学旅行のしおりを取り出し、ミチコの部屋番号を探した。

「タニナカ!502号室だよ!」

「行ってみよう!」

巡回する先生達の目を盗み、非常階段から5階の502号室へ走った。

部屋の前に着き、インターホンを鳴らすと扉が開き1人の女子が出てきた。

「誰ですか?」

明らかに怪訝な顔をしている、僕は直ぐに答えた

「ミチコの友達なんですが、ミチコいますか?」

そう言うと、怪訝な顔した女子は仕方なさそうな感じで部屋の奥へミチコを呼びに行った。

「コウジ君!どしたの?」

「イヤ〜、友達のタニナカがさぁ、女子の部屋に行きたいって言うから…」と言うとタニナカが、

「俺のせいにするなよー」と

お互いカッコつけ責任を擦り付け合う。

そんな僕達のやりとりを見ていたミチコが、

「入っていいよ!その代わり先生が来るかもだから少しだけね」

普通科とは違い看護科の先生達は少し厳しい様だった。

 部屋の中に入ると僕達の部屋とは少し違い、入って直ぐにツインのベッドルーム、奥には和室という構造だった。

奥の和室には4人の女子がお菓子を食べながら女子トークが盛り上がっている。

タニナカは真っ先に和室に向かって行った。

 僕は、その輪に加わる勇気がなくベッドルームで1人戸惑っていた。

すると、左側のベッドで既に寝ていた人が動き出し頭まで被っていた布団から顔を出した。

「コウジ君!どうしたの?」

そこには、あのヒロコさんが寝ていたのだ。

「イヤ…あの…ミチコに用が…」

とっさに嘘をついた。

片思いの人を目の前に、女子の部屋に遊びに来たなど口が裂けても言えるはずがない。

 しかし、ヒロコさんは少し寝ぼけてる様に見えた。起き上がると洗面所に歩き出し、急に歯を磨きながらベッドルームをフラフラしている。

歯磨きを終えたヒロコさんから、衝撃的な事を言われる。

「コウジ君、寒いから一緒に寝ようよ!」

夢か、幻か、冗談か…

それとも僕が寝ぼけてるのか…

女子とベッドに入るなど初めての僕は、言われるまま緊張と困惑と少しの嬉しさの中ベッドに入った。

お互い頭まで布団を被り、完全な密室状態だ。

 すると、ヒロコさんは携帯電話を取り出しディスプレイを点灯させ僕の顔に向けた。

ヒロコさんは笑みを浮かべ、

「コウジ君だ!」と僕を笑顔で見つめている。

僕はヒロコさんに質問した、

「彼氏いるのに、僕とこんな事してていいんですか?」

本当はこのままこうしていたい。

思いとは裏腹に理性的な自分がヒロコさんに問いかける。

「大丈夫。5ヶ月前に別れたの…」

「元々、友達に無理に紹介されて相手の押しの強さに負けて付き合っちゃった様な感じだったの」

「だから、そんな好きじゃなかったのかな…」

それからも、神妙な顔つきで元彼の事を色々話してくれた。

僕はただただ頷くしかなかった。

 布団の中で話に夢中になっていると周りから声が聞こえてくる。

「あの2人ヤバくなーい?」

「ねー!誰か止めた方がいいよ!」

ただ話してるだけなのだが、傍から見たら怪しく見えるのかも知れない。

それはそうだ、男女が1つの布団に入り頭まで隠れているのだから。

 その時だ、先生が各部屋に点呼に周っていると情報が入る。

「ヤバイ!ヤバイ!」

女子達が焦り出すが、もう既に遅く無情にもインターホンが鳴る。

女子5人は和室へ、僕とタニナカはそれぞれベッドに入り頭まで隠れ寝たフリをする。

部屋に入って来た先生が人数を数え始める、

「1、2、3、4、5、6?、7!」

「2人…多くないか?」

布団の中で思った、やはりバレるか…

そのまま寝たフリを続けていると、

「ベッドの2人!出てきなさい!」と

声を張り上げ先生が言う。

恐る恐る布団から出ると、

「君達男子じゃないの!」と叱責され

僕とタニナカはベッドの横に正座をさせられ、尋問が始まる。

「君達名前とクラスは?」

「2組櫻井です…」

「2組タニナカです…」

項垂れた僕達は俯き、小声で答えた。

「担任の先生には報告します!」

「早く自分達の部屋に帰りなさい!」

天国から地獄とはこういう事か…とつくづく感じながら部屋に帰った。

 しかし、片思いのヒロコさんと一緒に寝て沢山見つめ合い、色々話せた事が奇跡に思えた。

担任に報告されるなど、この嬉しさからしたらどうでも良かった。

 たとえヒロコさんが寝ぼけていて、正気に戻り過ちな行動だったと気付いたとしても、僕にはこの夜の出来事がこの修学旅行の1番の思い出だと1日目だか既に確信した。


 だが、この後に本当の奇跡があるとは、

 この時は思いもしなかった。



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