file 11. 王

 さてこれからどうするか。


 冒険者にはなれた。今すぐにでもクエストを受けてもいいが。


 リアが心配だ。先にそっちを済ませるか。


 ミリューに来てから笑っていることがほとんどない。




「リア、今日のうちに王城に行ったらどうだ?」


「私も、リアが心配だ。リュウに賛成だ」


 シャルは寝ている。




「はあ。なら、みんなで行きたい」




 ……は? そんな簡単に王城って行っていいものなのか!?


 たしかに、アニメとか漫画とかゲームではみんなすぐ行くけど! いざ自分がそう言われると!




「それなら心配ない! 私も、リュウもシャルもリアの味方だ!!!」




 簡単に決めちゃった!!!


 悩む時間をくれ!


 でも、守るって言ったしな。仕方ない。




「ほら、行くぞ。リア。シャルも起きろ」




 それから一度『暁』に帰り、王城へ行く準備をした。




 ****




 それにしても王様ってどんな人だ?


 リアに似てるならめっちゃイケメンか。


 そんな王様見たとこないぞ。


 お兄様もイケメンだったしあり得なくはないか。


 今更だかお兄様っておかしくないか!? これからはギルマスにしよう。その方が無難だ。


 そういえば、お母さんお話は聞いたことないな。人間族は、男が実権を握ってるのか?


 どっちにしろ美人なのは大歓迎だ!




 トン。トン。トン。




「リュウ。まだ準備してるのか? 入るぞ」


「なんだ、終わってるじゃねえか。早くしろ。シャルとリアが外で待ってる」




「おう、すまん。今行く」




 おっと。あれ?


 足になんか引っかかった。


 あ、転ぶ。




 むにゅ。




 こ、この手の感触と顔が挟まれたこの感じは!


 柔らかく、ふわふわで、この弾力! おっぱいだ!!!


 これが伝説の! 


 『ラッキースケベ!!!』


 大学生として年下には素直に真摯な対応で謝るのがベストで絶対的に正しい!


 だが! ここで引くのは男じゃない!


 ここは敢えてここから避けないことを選択する! ルカのために! やましい気持ちなどない!


 いつか終わる、この伝説をじっくり味わわなければ!




 もみっ。もみっ。




「な! 貴様何をしている! わざとか!」




「#%$&”*! #$%##*&%!」




「い、い、か、ら。は、や、く、どけ!!!」




 ドン!


 あ、幸せだった。


 我が生涯に一片の悔いなし!


 バン! ドン! ゴン! パチン!




 こうして俺のラッキースケベ童貞は奪われた。




「おまだぜ」




「リュウ、かお、へん」


「ルカに呼びに行ってもらったはずだけど。リュウ君。ルカに何をしたのかな~」




「ごべんなざい。ゆるじで」




 パチン!


 なぜ今リアにまで殴られるのだ。理不尽だ。俺が悪いけど。


 くそ。将は『美人からの暴力はご褒美』とか言ってたのに。


 そんなことないじゃねえか。


 このくそドMオタク。




 引きずられるようにして王城へと向かった。


 こんな仕打ちの主人公見たことないぞ。みっともない。




「ここが王城だよ」




 すごい。これが本物の城。


 生きている間にこんなとこ来られるとは。


 こんな広い庭、手入れ大変だろうな。




「なんか、私、緊張してきたぞ」


「何言ってんだ。ルカが1番張り切ってただろ」


「ここなら、あそびほうだい」


「シャル。大人しくしとけよ」




「お帰りなさいませ。お嬢様。お待ちしておりました。そちらの方々は?」


「私の友人。私が案内するから心配しないで」




 お嬢様ね。なんか新鮮。


 メイドさんまで。さすがだな。初めて見る。


 元の世界でも見たことないや。




 躊躇なくリアは庭を進んだ。


 そして城のドアを開けた。




 おい。この中どうなってんだ。


 錬金術とかあるのかこの世界には。


 それにこんなでかいの作る人いるのか。天井高すぎだろ。




「お嬢様。王が謁見の間でお待ちです」




「はあ。すぐ行く」




 いよいよか。緊張する。




「リア、ちょっといいか。」




 俺は、リアに最後に尋ねた。


 リアはそれを迷いなく答えた。




 ――キー。




「リア。やっと来たか。待ちくたびれたぞ。そちらの者達は、連れか?」




「ええ。私の友達」




 あれが王様。


 わっっっっっっっっっっっっっっっか!! いや若いのかは知らん! イケメンだ!!!


 盛大にフラグ回収しすぎだ!


 かっこいいにしても、もっと威厳のある感じかと思ったよ!


 髭も生えてないし、スリムだし、髪短めだし!


 確かに目がちょっとつり目で、細いけど。それはそれでいい感じに決まってるというか。


 こんな王様いてたまるか!




「お初にお目にかかります。私、狼人族のルカと申します。お会いできて光栄です」


「ねこびとぞくの、シャル。あえて、うれしい」


 ルカはともかく、シャルまで珍しくちゃんとしてる。


「八重樫琉です。お会いできて光栄です」




「僕は、ヴォルガ・ファルゲスだ。リアの友達よ。楽にしてくれて良い。それでは早速、本題に入ろう」


「リア。お前は何のために冒険をする。なぜ王城から、ミリューから出る」




 いよいよか。リア頑張れ。


 王様も1人のお父様だ。自分の気持ちを伝えろ。




「私は、王族じゃない時間が欲しいの。自分だけの時間が。お兄様だってギルドの仕事をしているじゃない!」




「またそれか。ロフィエは、この人間族の国のため自分からギルドマスターになると言った。あいつは努力してこの国のためにと自分で決めた道だ。だから僕は許した。お前は自分のことしか考えていない。王族としての自覚を持て」




「私は……」


 私は、生まれたときからここで過ごしている。


 小さい頃は、おじいちゃんにお父様、お母様、お兄様にもかわいがられていた。


 やんちゃでいつも泥だけになって帰る私を、みんなが笑って待っててくれるのが好きだった。


 でも、おじいちゃんがいなくなってからみんな変わった。


 いや、私の見える世界だけが変わったのかも知れない。


 今まで、王族のことを深く考えた子なんてなかった。


 おじいちゃんがくれていた時間がなくなって、王族としての時間が増えた。


 別に王族の仕事が嫌いなわけじゃない。むしろ、好きな方だ。


 だからお父様のことだって、尊敬している。


 でも、本で知った世界。おじいちゃんが教えてくれた世界。


 それをこの目で見たかった。その世界にいたかった。


 好きな服を着て、好きな物を食べて、自分で決めたことをする。


 そんな毎日が欲しくなった。


 王族の自分から逃げたこともあったけど、リュウが助けてくれた。


 自分のことしか考えてないかも知れない。それでも王族としてみんなと冒険者になりたい。


 だから……。




「私は、自由になりたいの。好きなことをしながら、みんなを助けて。王族として自由になりたいの」


 ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。




「ならん。そんな都合のいいことあるわけがない」




 あ。私。駄目だったんだ。


 ごめん。リュウ。ルカ。シャル。




「お言葉ですが、無礼を承知で失礼いたします。わたくし、あまり丁寧な言葉が得意ではないので、ここからは、リア王女の付き添いではなくリアさんの友人の1人として失礼します」




 え? リュウ。そんなことしちゃ駄目だよ……。




「お、おい。無礼者!!!」


「まて。許す。申してみろ」




「ありがとうございます。すぅー。ふぅー」


「俺はこれまで22年間、両親にわがままばっかり言ってきました。自分が気にくわなければ怒って、家出して、心配ばかり掛けてきました。それでも、俺のことは絶対に見捨てなかった。自分のためじゃなく俺のためにお金も時間も使ってくれるんです。こんな息子嫌だったと思いますよ。くそ生意気で金もかかって。なのにいつも俺の心配ばかり。意味わかんないですよね。俺にはそんなことできません。お父さんはいつも『したいようにしなさい』そう言ってくれました。でもそれも簡単なことじゃない。俺が自由にしたらお父さんの自由はその分なくなるんです。そんなの子供だから気づかなかったですけどね。だから、王様、いや、リアのお父様もつらいかも知れません。ですが、少し娘の話を聞いていただけませんか?」




 リュウ。なんでそこまで。




「分かった。リュウと言ったか。お前に免じて少し考える。だが、お前にお父様と呼ばれる筋合いはない」




「も、申し訳ございません」




「ミュリエール、そこにいるんだろ。ちょっとリア達を連れていけ。僕は、リュウと2人で話をしたい」




「あら。ばれてましたか。どうも初めまして。リアの母親のミュリエール・ファルゲスです。じゃあリアとお友達こっちに来て」




「リュウ。ありがとう」




「気にするな。守るって言っただろ!」




「その割に今すごい顔よ。本当に大丈夫?」




 リュウにまた助けられた。


 なんであんなことしちゃうかな。でもそういうところが――。




「さあ、リュウ。こっちだ。ついてきなさい」




 ****




 や、やばい。明らかにやらかした。


 王様に連れてかれるって何されるの。やっぱり処刑とか。牢屋とか。


 何であんなこと言ったんだ。王妃様にも聞かれてたし。


 恥ずかしい。いや、いまはそれどころではない。


 命の危険が。


 俺の異世界生活もこれまでか。


 早かったな。もう少し堪能したかった。




「ここだ。ここに入れ」




 何この部屋。


 警備とか厳重じゃん。やっぱり処刑室だ。


 今謝れば許してくれるかな。




 ガチャ。


 ま、まぶしい。




 あれ? 普通の部屋だ。これは、拷問されるのか!




「あそこまで言ったんだ。そう緊張するな。ここに座りたまえ」




「あの、申し訳ございませんでした! どうか命だけは!」




「何を言っている? 話をしたいと言っただろ」




 あ、あれ?


 何もされないの?




「さあ、座って。話を始めよう」

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