file 12. 親子
あれ、思ってた展開と違う?
これは何かの罠か?
「リアは、いつもどんな様子かな」
「えっと。どんなって言われましても」
なにこれ! 高校生ぶりの2者面談じゃないか!
あの独特の緊張感と同じ!
こういうタイプの拷問かな。
なんか先生に見えてきた!
「そうだね。では、君から見たリアはどんなだ」
「強くて、優しくて、かっこよくて、可愛くて、美しくて、綺麗で――」
「リュウ君。君って人は」
ま、まずい。なんか気に触ること言ったか。
「よく分かってるじゃないか! そうだ! そうなんだよ! リアは、可愛くて仕方がない! それなのに美しさもあって何でもできる! すごい子なんだよ!」
「お、王様? 落ち着いてください……」
そういうタイプか……。まさかの親バカ。子供溺愛。
「これは失礼した。リアのこととなるとつい」
「リアはすごい子だ。僕も王様である前に1人の親だ。だからこそ、心配で仕方がないのだ。子供のしたいことをさせてやりたい。だが王という立場でもある以上、そんな身勝手なことできないのだ」
「王様……」
「全く、あんなに王に歯向かった人間がそんな顔をするな。リュウ君は優しいのだな。きっとその優しさには僕たち以上に何かを見て経験した<ジンセイ>がある。そう感じる」
「そんなたいそうな物じゃありませんよ。これを優しさとは言わないと俺は思います」
そうだ。俺には優しさなんて褒められた様なものはない。
一言で表すのは難しいが、元の世界で見てきた嫉妬や絶望それに近いものだ。
「謙虚だな。僕は嫌いじゃない」
「リアから聞いている事もあるとは思うが、ここからは僕の家族の話だ」
僕は、王になってからリアのおじい様、つまり、僕のお父様と話すことがほとんどなかった。
小さい頃は、お母様とお父様に愛され、僕もお父様やお母様が望む、立派な王族なることを望んでいた。
お父様もお母様もミリューのことだけじゃなく、いろんな街、いろんな種族のことを教えてくれた。
街の外の世界にどんな楽しみがあるかを教えてくれた。
15歳になった頃、ある貴族の方とその娘さんが王城に来た。
僕は、その娘さんと出会って一目惚れした。ちなみに今の妻だ。
それから、毎日のように2人で遊んだ。もちろん、ちゃんと王族の仕事はしていた。
しかし、ある日。僕は王族の仕事をさぼって2人でミリューの街を出た。
その日は、帰ってからこっぴどく怒られたが、街の外の楽しさ、魔物を倒したときの嬉しさに反省もしていなかった。外に出たくなってしまった。
そして、また街を出た。今度は1人で。
気づいたら日が落ちていた。
帰る途中、僕を狙っていたであろう何者かにさらわれた。
僕は、子供ながらに抵抗したが、気を失った。今思えばあの力は獣人族だ。きっと次期王の候補である僕を狙っていたのだ。だからといって今は、獣人族に恨みはない。
目を覚ますと、僕はお母様の腕の中にいた。血まみれのお母様の。その腕は冷たかった。
顔を上げると、お父様が僕をさらった犯人を、いやお母様を殺した犯人を容赦なく殺していた。
今でも、鮮明に覚えている。お父様のあの<背中>を。
僕はそれから、お父様に逆らうことはなかった。僕はお父様とお母様に認めてもらうために。立派な王になるために。
それが今の僕だ。
「それでも、お父様はリアに外の世界を教えた。僕には到底理解できなかった。きっとお母様を殺した僕への恨みだったのだろう。だから何も言えなかった。リアはこのことを知らない。教えるつもりもない。僕は、リアの父親で王だ。だからこそ、リアの気持ちに応えることはできない」
「王様……」
俺は何も言えなかった。いや、言う資格がなかった。
平和な日本で両親から十分な支援を受け、わがままに育って、まだちゃんと恩も返さずアールデウで生きることを決めた俺にそんな事はできなかった。
でも、こんなのずるい。
「と言うわけだ。申し訳ないが諦めるように言って欲しい」
「それは……。できません」
「リアの気持ちを決めるのは俺でもないし、王様でもありません。リア自身です」
「ここまで言ったのにその態度をとは。リュウ君はたいした人間だ」
「王様に会う前、リアが言っていたんです。『私は、お父様に見放されてもいい。それでも自分の気持ちを伝える。自分で自分の将来を決める。』って。」
「王様はリアがさっきなんて言ったか覚えてますか? リアは、『王族として』自由になりたいって言ってたんです。王様のことをどう思ってるかとかは知りません。でも好きとか一緒にいたいとか、そんなの言えないじゃないですか。リアは、自分で王様と一緒の<王族としての将来>と<自由になる将来>どっちもやり遂げるって決めたんです。先のことは誰にも分かりませんが、俺はリアのことを、リアの決めた将来を守ってあげたいです」
「そうか。僕もリアともっと向き合うべきか。でも、それでもリアを認めない。そう言ったら君はどうする」
「俺は、決められないです。さっきも言ったじゃないですかそれはリアが決めることです」
「そうじゃない。聞き方を変えよう。リュウ君は<どうしたい>んだ。僕が、認めなかったら今度は何を僕に見せてくれる」
俺が、どうしたいか……。
なんだそんな簡単なことか。そんなのとっくに決まっている。
「リアが悲しむことをするなら、王様に対して本日2回目の無礼をするだけです」
「君には勝てる気がしない。リアの魅力が分かっているリュウ君に免じてリアと話してくる。リアの話もちゃんと聞いて決めることを約束する」
「それは何よりです。王様。その前に。王様ばっかり<ジンセイ>を伝えるのはフェアじゃないです。伝えておきたいことがあるので今度は俺の話をさせてください」
それから、俺は異世界から来たことを話した。
あっちの世界のことも、こっちであったことも全て話した。
最初は動揺していたが、リアの魅力が分かっている者同士、次第に話は弾んだ。
なんでわざわざ話したのかって? こんなに娘想いなのに悪い人なわけがないからだ。
転移の魔術もないと断言された。さすがに王様に言われたらなかったのだろうと信じた。
魔王なら何か分かるかも知れないとは言われたものの、魔王には会えないだろうとも言われた。
「王様。俺の話を聞いてくれてありがとうございました」
「今更何を言っている。気にするな。それでは行ってくる。ミュリエールと君の友人達をここに連れてくるからここで待っててくれ」
今度は、王妃様!!! 気が抜けない。
シャルとルカがいるだけましか。
「王様。きっと、王様のお父様も恨みでリアに外の世界を教えたのではないと思いますよ。子供の頃の王様みたいに王族じゃない1人の人間として育って欲しかったんですよ。自分の未来を自分で見つけて欲しかったんです。本当のことは分かりませんけど」
その残酷な日以来の王様、いや、ヴォルガ・ファルゲスはきっと王としての未来しかなかった。
自分で王になる以外の選択を排除したのだ。
お母様への少しでもの償いとお父様の願いという自分勝手な理由で。
王になってからお父様と話すことが少なくなったのは、お父様が恨んでいるのではなく、きっと後悔しているからだ。自分のせいで王族としての未来しか与えてやれなかったことに。
お父様もお母様もきっと王様のことを愛していた。だから外の世界を教えた。王様もリアのことを愛している。だから外には行かせられない。
「そうか、ありがとう。リュウ君」
この部屋を出て行く王様、ヴォルガ・ファルゲスの目から1滴の涙が落ちた。たった1滴だけの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます