file 09. 中心都市ミリュー
「おーい! シャル! ルカ! こっちだ!」
俺は朝、少し早くに門の前で待っていた。
「リュウ。これから世話になる」
「リュウ。おはよ。これから、よろしく」
ルカが周りをきょろきょろしている。
「ところで、リアはどこだ?」
「ああ。朝ご飯も食べずに、なんかずっと部屋に籠もってたよ。昨日食い過ぎたんだろ」
「リア、の、こと。おいてく?」
「シャル……。さすがにそれはまずいかな。あはは。また殴られるの嫌だし」
噂をしていると、聞き覚えのある声がする。
「お待たせ~!」
「やっと来たか。遅いぞ。大丈夫なのか?」
「ごめんごめん。もう大丈夫!」
それからすぐに出発した。
ルカも馬を操縦できるという。正直、リアばかりにやらせていたからすごく助かる。
それから2日、順調に旅を進めた。
「明日にはミリューに着きそうね」
「ルカとシャルは着いた後どうするんだ?」
これからについて話し合う必要があるだろう。
俺とリアはともかく、話を聞く限り、獣人が素直に受け入れられるとは思えない。
「もし2人が良かったら、私らも一緒に冒険させてはくれないか。無論、ただでとは言わない。それなりに仕事はさせてもらうつもりだ」
「シャル、も、いっしょに、いたい」
リアと顔を合わせた。
言われる前から俺達の答えは決まっていた。
「もちろん! こちらからもお願いするよ。これからもよろしくな」
「2人とも。ありがとう。よろしく頼む」
こんなに可愛い猫と狼を手放したいなんて思うわけない!
これでいつでもしっぽ触り放題だ。
「リュウ。忠告しておくけど、2人が寝ている間にしっぽや耳触るのは控えなさいよ」
「そ、そんなことしてたのか!?」
「リュウ、えっち」
「おい! リア!!! それはこの前言わない約束をしただろ!」
もふもふに勝てないのは仕方ないことだ。
ここは大人しく殴られよう。
素直に受け入れていた。
あ、あれ。殴ってこない。
それどころかなんか照れてる?
特にルカなんて。顔が真っ赤だ。
「俺の事殴らないのか?」
「な、殴るわけないだろ! 触りたくもない! 変態!」
「リュウ。じゅうじんぞく、は、しっぽと、みみ、よわい。だから、さわってもらうのは、ごしゅじんさま、だけ。でも、シャルは、リュウ、でいい」
そういう事だったのか。
そんなこと、考えもしなかった。
いや、あっちの世界の動物も耳はともかく、しっぽは嫌がるか。
「いや、知らなかったんだ。すまん。あまりに気持ちいいから。責任は取るのでこれからも触らせください!」
「シャルは、いい」
「リュウ。貴様、覚悟はできてるんだろうな」
「なんだか、私も腹が立ってきたわ」
「なんでリアまで!!!」
それからのことはいうまでもない。
危うく、ご飯も禁止になるところだった。
その日の夜の見張りは、ルカも一緒になった。
どちらかというと、俺の見張り役だ。
そして朝を迎え、ミリューに向かった。
シャルとルカと合流してから、ミリューや獣人族の話などたくさん聞くことができた。
中心都市ミリュー。
名前の通り、人間族の国の中心の都市である。元の世界でいう東京だ。
そこには、冒険者ギルドの他、商業ギルド、王城、魔術協会、各種族の大使館など様々な施設が充実している。
今までの街とは違って、いろんな種族がいるらしい。
そこで住むことも許されている。
だが、よく思わない人も少なくない。
こればかりは、個人の問題だから仕方がない。
2人は、獣人族の国の、中心都市カリウから来たらしい。
中心都市とは言うものの、ノルンの街ほども発展していない。
獣人族の国は、弱肉強食の世界だ。
獣人は、身体能力が非常に高く、生まれて1ヶ月もすればスライムくらい一撃で倒せる。
シャルもルカも孤児院出身だ。
弱肉強食の世界では珍しくない。
人間族が管理している孤児院にいたため、自分たちが魔力を使えることにすぐに気づいた。
それと同時に、自分の弱さを知った。2人ともスライムを初めて倒したのは1歳の時だ。
2人とも同じ年齢で、18年間ずっと一緒だった。
孤児院を出てからも2人で努力した。努力してたくさんの魔物を倒した。
それでも、他の同い年の獣人には勝てなかった。
いつか冒険者になって、お世話になった孤児院に恩返しをしたい。
それが2人の夢だ。
「見えてきたわよ。あれがミリューよ」
丘の上に馬車を止め、少し休憩した。
ん?
外に出るとみたことある景色だ。
ここって……。
間違いない。あの場所だ。
俺が最初に転移した場所だ。
あの時の記憶がよみがえる。
懐かしい。最初はここがすごく綺麗にみえて死んだと思ってたっけ。
今見る景色はなんだか前とは別の場所ように思える。
てことは――。
空を見上げた。
さすがにいないか。だいぶ前のことだし。
「リア、ここってドラゴンとかよく出るのか?」
「何言ってんの? そんなの聞いたことないわ。ドラゴンなんてそんな頻繁に出てこられたら困るわよ」
「そう、だよな」
あの時、どんな確率だったんだよ。
ドラゴンは、魔力を好んでいるらしい。
強い魔力を感じた場所には現れやすいという。
ならあの時の転移は相当な魔力だったのであろう。
「そろそろ、行くわよ」
休憩を終えた俺たちはミリューへ向かった。
****
「ここがミリューか。今まで行った街とは別物だな」
街の中は、外から見るより広く、とても綺麗だった。
エルフやドワーフ、獣人に妖精。いろんな種族がいた。
思ったより差別があるわけじゃなさそうだ。ここならシャルもルカも気が楽だろう。
俺たちが目を輝かせている間、リアは、1人浮かない顔をしていた。
王女様だもんな。
王様の父親もいる。この街がどう見えてるのだろうか。
「リア、大丈夫か? とりあえず宿探して休もう」
「ごめん、ありがとう。宿ならいいところがあるの」
リアについて行った。
「ここよ」
<お休み処 暁>
ずいぶんと日本っぽい名前だな。
アールデウでは珍しい気がするけど。
「いらっしゃいませ。あら、王女様。久しぶりですね」
「鈴音さん。その呼び方はやめてって言ってるでしょ」
「あらあら。元気になったみたいね。リアちゃん」
鈴音って日本人じゃないよな?
中も旅館みたいな雰囲気だし。
「ま、待て。意味が分からん。リアが王女ってどういうことだ」
「あれ? 言ってなかったかしら? 私の名前は、リア・ファルゲスよ」
「そちらはお友達? 初めまして。中井鈴音と言います。よろしくね」
ルカが愕然としている。無理もない。人間族の王女にいきなり怒鳴り、一緒にここまで来たのだから。
それより間違いない。この名前と苗字。
「はじめまして。八重樫琉です」
「ル、ルカだ。よろしく頼む」
「シャル」
「リュウさん。珍しい名前ですね。そちらのお2人もとてもかわいらしい」
「中井さん、少し話をしたいんですがいいですか?」
「分かりました。でも、お部屋にいってからにしましょう」
部屋に案内された。
旅館の雰囲気。中井さんの着物のような服。そして、何といっても部屋の畳。
どこでこんなものを……。
「それではリュウさん。リアさん達は別の部屋ですのでお話を」
聞きたいことが多すぎる。
「中井さん。あなたは日本人ですか?」
心臓がいつもより早い。
「そうですね。違うとも言えるしそうとも言えます。私の曾祖母がどうやらニホンジンと言ってたみたいなんです。もう亡くなってしまいましたが」
「じゃあお名前とこの店はその名残で?」
「ええ。子供には、ミョウジという中井の後に名前を付ける。そう聞いています。このお店も曾祖母が建てて今もやらせていただいてます。リュウさんもヤエガシという似たようなのを付けてましたね」
ひいおばあさんが異世界人だったのか。
俺の前にもアールデウに来た人がいるのか。
「中井さんのひいおばあさんと一緒です。俺も、異世界人なんです」
「やはり、そうでしたか。親からは曾祖母が異世界から来たっていつも言っていたと聞かされていました。お名前を聞いたときもしかしたらと」
「もし良かったら後で中井さんのひいおばあさんの話聞かせてもらえませんか?」
「いいですよ。後で声かけますね。それと、中井ではなく鈴音とお呼びください。シャルさんもルカさんにもお願いしてありますので。それでは」
「分かりました。鈴音さん。ありがとうございました」
俺と同じ日本人がいたのか。
今も俺以外の元の世界から来た人がいるかも知れない。
いたとしたら、いつか会えたらいいな。
「それにしてもこの畳。やっぱり落ち着くなあ」
久しぶりに昔を思い出した。
将元気にやってるかな。
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