file 08. 猫と狼
アグロスの村を出てから1日が経った。
このペースで行けば、ミリューまではあと4日かかるらしい。
「今日は、この辺で野営しましょ」
考えてなかったがこの状況って!
リアと2人きりのお泊まりなのでは!?
もしかしたら、あんなことやこんなことや。
駄目だよ! リア! そんなこと!
「ちょっと、リュウ。何考えてんの。言っとくけど夜は離れてもらうから」
こ、心読まれた!?
「変なことなんて考えてないよ。えへへ」
「誰も変なことなんて言ってないけど」
しまった。
――パキッ、パチッ、パチパチッ。
それにしても魔術って便利だな。
火なんて簡単におこせるし、水にも困らない。
「リュウ。そろそろ見張り交代するよ」
「大丈夫。俺は、馬とか扱えないし。これくらいさせて」
「そう。それじゃお言葉に甘えて。お願いね。おやすみ」
――ヒヒーン。
朝早くに出発した。
どうやら夕方には途中にあるノルンという街に到着するらしい。
今日はそこで宿泊する予定だ。
俺は馬車に乗っている間に寝た。
「リュウ、着いたわよ」
「あれ、ずいぶん早かったな。今何時だ」
「何言ってんの、もう夕方よ」
「あれ、ごめん。寝過ぎた」
ここがノルンか。
ノルンの街は、近くに魔物が出やすいことから冒険者がたくさんいて宿屋がたくさんあった。
ここにも冒険者ギルドがあるらしいが、ミリューで登録しないと使えないらしい。
「宿もとれたから街を見て回りましょ」
街は活気にあふれていた。
ここも人間族ばかりだな。
いつになったらもふもふとかエルフとか羽根つきとかに会えるんだ。
「一応ここが冒険者ギルドよ。今は見るだけだけど」
「ここがギルドか」
想像してたよりも大きな建物だった。
いよいよ実感が湧いてくる。
それから、食べ物や服、アクセサリーなどが売っている商業エリアを探索した。
「だいぶ歩いたわね。もう夜だしご飯にしよっか」
「そ、そうだな。ていうか、まだ食べるのか。リアの体はどうなってるんだ?」
「普通よ。普通。あ! ここおいしそう! ここにしましょう!」
カラン。
「いらっしゃいませ! 2名様ですか?」
「は、はい」
ずいぶんと混んでいる。繁盛してるな。アグロス村とは全然違う。
「申し訳ございません。今満席でして、相席でしたらお席ご用意できますがよろしいですか?」
「お願いします」
ずいぶん奥の席に案内するな。
ここだけカーテン?
「失礼します」
そこには、フードをかぶった2人が座っていた。
テーブルには肉だらけだ。
「おい! てめーら、何しに来た」
え、えー。
なんで怒られたの。やばい席じゃん。ここは変えてもらうか。
「食べに来たのよ。それ以外ある?」
お、おい!!!
リアなんで堂々と座ってるんだ!!!
小声でリアにささやいた。
「おい。何普通に座ってんだ。店員さんに言って席替えてもらうぞ」
「なんでよ!!! 別に私は気にしない。それになんか負けた気になるし」
せっかく小声で言ったのに。
思ったより意地っ張りだな。リアは。
「おまえら、わたしたちの、こと、こわく、ない?」
「しゃべるな。シャル。どうせこいつらも他の奴らと一緒だ」
「ルカ。こいつら、みんなと、ちがう。においでわかる、はず」
「分かってるよ。でもな」
「シャル、は、なかよくなりたい」
「はあ。分かったよ」
なんだこいつら?
すると少し大きい1人が立ってカーテンの様なものを閉め、フードを取った。
こ、これは。
灰色の毛の耳と目と長い髪、口元には鋭い八重歯に褐色の肌。そしてしっぽ!!!
背はリアと同じくらいで160cmといったところか。スタイルも良くて、胸は、まあリアほどではないがしっかり膨らんでいる!
間違いない! 狼だ!! しかも女だ!
もう1人も立ってフードを脱いだ。
こ、こっちは。
明るい茶色の毛の耳にショートカットの髪、そして八重歯、今度は白い肌。またしっぽ!
それにしても小さいな。150cmくらいか? 胸は……。ないがかわいい!
これは猫だ!!!
「それで? 何の用?」
「なんでリアはそんなに冷静なんだ!!!」
「逆になんでそんな興奮してるの。最初から分かんなかったの?」
「わかんねーよ! それに獣人だぞ! こんな魅力的な展開があってたまるか」
「魅力的ね」
リアの後ろに鬼が見える……。
「わたし、シャル。ねこびとぞく。こっちが、ルカ。えっと、おおかみ」
「おい。シャル。狼人族を狼って言うな」
猫人族に狼人族。いいね。非常にいい。狼人族ろうじんぞく
「それで、何の用なの? 襲うつもり?」
「そんなことしねえよ! その、頼みがあるんだ」
「ルカって言ったかしら? いきなり大声出してきた人の頼みを聞くと思う?」
「お、おい。リア。ちょっと言い過ぎじゃないか。なにか事情が……」
リアが無言の圧を……。
「さっきはすまなかった。また、私らのことを狙ってるやつかと思ったんだ」
「シャル、も、あやまる。ごめんなさい」
「リア、もういいだろ」
「はあ。リュウが言うなら。私はリア。よろしくね」
「俺は、琉。八重樫琉だ。よろしく。それで頼みってなんだ?」
それに狙われてるってどういうことだ。
「実は、ミリューに行きたいんだ。冒険者になるために」
「それは獣人族の国にもあるはずでしょ。なんで人間族のところなの?」
「シャルたち、まりょく、つかえる。だから、ほかのじゅうじんみたいに、つよくない」
「シャルの言った通りだ。使えると言っても人間みたいに使える訳じゃない。身体強化程度だ。そのせいで獣人族のギルドでは冒険者になれなかったんだ」
「事情は分かったわ。リュウ、どうする?」
「え? 別に一緒に行けばいんじゃないのか? 俺らもどうせ行くし」
「はあ。そういうと思った」
リアはなんでそんな乗り気じゃないんだ?
「い、いいのか! 私ら獣人だぞ」
「逆に何で駄目なんだ? デイビスは魔族以外の種族は仲悪くないって言ってたぞ。そのさっき言ってた狙われてるってやつか?」
「たしかに、リュウのいうとおり。でも、にんげん、は、じゅうじんをうけいれて、ない。じゅうじんも、それはおなじ」
「確かに表向きはみたいなこと言ってた気がする。でも大丈夫だ! 俺はシャルもルカも好きだぞ!」
「な!」
「ん?」
「リュ、リュウ……」
リ、リアさん。また後ろに鬼が……。
「ごめんなさい! そういう意味じゃないんです! すみませんでした!!!」
「おまたせいたし、まし、た……」
パチン! バン! ガン! ビタン!
「痛い! 痛い! リアさん。料理来たから。食べよう!」
「仕方ないわね。ちゃんと反省しなさいよ」
「シャルも、リュウ、すき」
「な!」
「お、おい、シャル」
「リューウー……」
「俺悪くないじゃん!!! 許してください!!!」
傷だらけになりながらも、食事を済ませ店を出た。
お金はルカとシャルの分まで全部俺が払った。いや、リアに払わされた。
「じゃあ明日にはここを出るから。朝、門の外で集合ね」
「リア、リュウすまない。感謝する」
「シャル、リュウとねる」
うっ。
寒気が。
「シャ、シャル。また明日会おう」
なんとかお互いの宿に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます