file 03. 出会い
この世界、アールデウの生命は、様々な種族に分かれている。
人間族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、妖精族、魔族などが存在する。
全種族協力関係にあるわけではないが、交流は盛んで基本的に仲が良い。
しかし、魔族は他の種族と対立関係にある。
他の種族間でも政治的対立や裏社会でのしがらみは存在している。
だからといって、今まで種族間での大きな争いはなかった。
俺はデイビスの店の中を見渡す。
「ならこの店は不景気で潰れないのか? 武器なんて使うことないだろ」
デイビスはため息をつきながら少し真剣な顔になる。
「何も知らないんだな。残念ながらそれはない。魔物がいるからな。大きな争いが起こらないのは魔物の存在のおかげもある。だから武器は冒険者や兵士だけじゃなく、商人も当たり前に持ってるよ」
魔物? スライムとかゴブリンとかだよな? あのドラゴンもか?
魔族が使役しているのが異世界漫画やゲームの基本だぞ。
アールデウでは違うのか?
そう考えていると、デイビスが話を続けた。
「基本的に魔物は心を持たない。だから自分たち以外を無差別に攻撃をする。時には仲間を殺して食料にすることだってある」
なるほど。心を持たないと言うことは人形が攻撃してくるみたいなものか。
俺は、近くにある剣を右手にとって尋ねる。
「魔族は一応敵なんだろ? 魔族が魔物を使役して攻撃させてるわけじゃないのか?」
デイビスも近くにある大剣を両手で持ち、答える。
「使役している魔物ももちろんいる。だが、そいつらには心が与えられる。だから無差別に攻撃してこない。ただ魔族にも限界がある。魔物は繁殖力が優れているからな。野放しになっているのがほとんどだ。」
魔族のわがままじゃん!
俺は左手に盾を構えてまた質問した。
「それで魔族以外になんの利益があるんだ? ただの迷惑じゃないのか」
デイビスは剣を置いて笑いながら話した。
「そうでもない。確かに危険だが、魔物の素材は、ポーション、武器、服、これ以外にもいろいろ使えるからな。それに、魔族が魔物を生み出している訳じゃない。心のない魔物は魔族にだって攻撃する。ましてや魔族に他種族が文句言ったらすぐ滅ぼされるかも知れないぞ。最強の種族って言われてるからな」
なるほど。種族の関係はだいたい分かってきた。次はあれか……。
俺は剣と盾を元に戻し、目を輝かせて聞いた。
「冒険者って言ってたよな! やっぱり魔法とか魔術とかも使うのか!? 人気の仕事なのか! 魔力ってどうやって使ったらいいんだ!?」
デイビスは引きながら引きつった顔で口を開いた。
「冒険者はそんないいもんじゃない。王族や貴族みたいなやつ以外みんな通る道だ。中には冒険者を続けるやつもいるが、冒険者時代に身を守るすべを身につけてからみんな違う仕事をさがすんだよ。収入が安定しないから冒険者は人気ない。おれもそうだ。」
――えええええええ!
自由に気ままに暮らして、モテモテのハーレム冒険者で活躍する俺の世界線は!?
そもそも冒険者ってそんな簡単になれていいの!? 命の危険は!?
冒険者に強さとかロマンはないわけ!?
いや、まてよ! 俺の最強主人公設定の道はまだ閉ざされていない!
最強であれば可能性はある!
「俺は冒険者になって強くなりたい! どうやったら強くなれる! 魔力はどうやって使うんだ! どうやって! どうやって!」
デイビスは逃げるように目を逸らした。
冒険者のなりかたや稼ぎ方、基本的なことは全部教えられた。
このアグロス村では冒険者にはなれない。人間族の中心都市ミリューに行き冒険者ギルドで登録しなければならない。そこで、自分の能力が示される石版、能力石をもらうと能力が分かるようになる。
どうやらデイビスはもともと魔力を使いこなすタイプではないらしい。
魔力量や使う魔術によって個人差がある。
そこで魔力については、デイビスの知り合いの冒険者に教えてもらうことになった。
「リュウ。金も武器も何もないんだろ。冒険者になるのにも金はかかる。しばらくここで暮らして魔物倒す練習でもしてけ」
アールデウの人はみんなこんなに優しいのだろうか。
元の世界を考えると心が痛くなる。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
俺は潤んだ目で、デイビスに感謝を伝えた。
――――翌朝。
「おはよう、デイビス」
「よう、ちゃんと寝れたか」
「おかげさまでぐっすりだよ。ありがとう」
アールデウのことはだいぶ教えてもらったからな。
あの後も、アールデウの地形やこの村の事情とかいろいろ教えられたけど、暮らしてないと難しすぎる。
よくいる主人公は偏差値高すぎだよ。
なんかいいスキルとか分かってればいんだけど……はあ。
「おい、リュウ。そろそろ行くぞ。外で待ってるからな」
やばい、何もしてない。
……ヒヒーン。
アールデウの移動手段は馬か。これは定番だな。
そろそろ女の子発生イベント来ても良くない? アールデウは厳しい。
今から会いに行くのもかなりの手練れの冒険者って言ってたし。そもそもアールデウの冒険者の扱いから期待は出来ないよな……はあ。
「なんだ、今日ため息多いな。なんかあったか?」
デイビスよ。心配はありがたいが、今はこの男しか2人のBL展開な状況を嘆かせてくれ。
デイビスが馬車を通り過ぎて歩いて行った。
「特に何も。それより馬に乗ってどこかの街に行くんじゃないのか?」
デイビスはきょとんとした顔でこっちを向く。
「何言ってんだ? すぐそこの宿に泊まってんだとよ。早く来ないとおいていくぞ」
置いていったら行く意味ないだろ。
そういえばあまり考えてみなかったけど、なんで俺はこの世界に……。
帰る方法も早く見つけなきゃ。
なぜか、この考えになにか違和感を感じていた。
本当にすぐ着いた。デイビスは仕事があるからと先に帰った。
さて、どんな人かな。
――カラン、コロン。
「いらっしゃいませ」
「デイビスさんの紹介で、ここにいる冒険者の方に会いに来たんですけど」
こう言えって言われたけど、本当にこれで通じるのか。
「その方ならあちらでお待ちです」
通じた。デイビス、何者だ? 田舎はみんな知り合いってやつか?
宿屋のおじさまが見た方向にいるのは、1人の女性。いや、女の子?
「あの、何か間違いではないですか? 冒険者の方なんですけど」
なにかの間違いだと思い、確認を取る。
「いえ、あちらの方で間違いございません」
あの人が冒険者? アールデウの冒険者はそんなに安全な職業なのか?
離れたところからでも分かるほど綺麗な白髪のロングヘアーに冒険者とは思えない華奢な肩幅。
座っている後ろ姿でも綺麗だと分かる。
「お、お待たせしてすみません。は、はじめまして」
少し後ろから震えた声で声をかける。やってしまった。
座っていた彼女は、立ち上がりこちらを見る。そして笑った。
「はじめまして。リアです」
――――壊れそうだ。
最初にそう感じた。
綺麗な白い髪に青い瞳。それに透き通る声。
俺と同じくらいか少し下くらいの年齢だろうか。
彼女の笑顔は、美しさの中に可愛げもあるそんな非の打ち所のない人だ。
でもなぜか、その笑顔は何かを隠しているように見える。
確信は全くないが今の俺では届かない何かがあると思えた。
俺は、暫く固まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます