file 02. 理不尽
綺麗だ。
目を開くと、目の前に広がる景色にただただ感動した。
ゆっくり周りを見渡すと少し遠くに壁に囲まれた街があるのが見える。少しほっとした。
安心した感情と共に、この知らない景色と今の状況に動揺が隠せない。
「ここ、どこ?」
1番大きな疑問が、意思とは関係なくすっと口から出る。
再び、周りを見渡すと近くに丘とそこに生える大きな木を見つけた。その木の下で、今の状況を整理し始めた。
持ち物は何もない。寝るときに着ていたジャージは今も着ている。
見つけた街の外見や広がる草原から日本ではないと判断する。俺は日本から出たことがない。だからここを海外のどこかなのではないかと考えざるを得なかった。こんな時こそスマホがほしい。寝るときもポケットに入れておけばと言うどうしようもない後悔に襲われる。
「はあ……」
ため息をついたとき、昨日の事を思い出す。
俺は確かに寝ていた。夜中、辺りが光った。近所で起きた放火事件。そして知らない場所。
1つの核心的な結論にたどり着いた。
「死んだのか」
にわかには受け入れられなかった。
しばらく横になり、目を瞑る。
死んでるなら何か変えられるかも。
何か思いついたわけでもないが、すぐに起き上がった。
「よし!」
何か心のもやもやが取れた気がした。
しかし、その覚悟は一瞬で水の泡となる。
上空に見たことない巨大なドラゴンが現れる。本能的に危ないと判断すると同時に、ドラゴンの口から火が放たれる。必死に逃げる。
「な、な、なんでドラゴン!? し、し、ししじぬううううう!」
「オーバーキルだよ! もう死んでるんだから殺さなくたっていいだろ!! 三途の川に行くとかじゃないのかよ!」
おかしい。死んでるのにまた殺されるのか? そもそも1回目の死因も全然わかんないし!
あのドラゴンは何だ? 輪廻転生は嘘なのか? もうくそが。
「異世界かよ!」
ごちゃごちゃになった頭の中から出てきた自然と出てきた言葉に深く納得する。
ドラゴンから距離を取り、たまたま見つけた岩に隠れいろんな可能性を試した。
視界に何かアイコンがないか隈無く見る。特に何もない。何か起こりそうな動きもやってみる。
「システム! アイコン! コマンド!」
「ログアウト! 退出! 逃走! 逃げる!」
「対戦中止! 降伏! やめる! キャンセル!」
今思いつくことは全てやった。
変化なし。ドラゴンも消えない。時間がない。
迫り来る恐怖に限界を感じる。もう終わりか。
――はっ!
最後に浮かんだ言葉に全てをかけた。
きっと最後の……。
緊張で汗ばんだ手を握りしめ、高く上に伸ばす。
目を閉じ、全身全霊で叫んだ。
「どこでもいいから遠くにワープしろ!!!」
――――ッシュン。
目を開くとそこは森の中だ。
さっきいた場所とは景色も全く違う。ドラゴンもいない。
良かった……生きてる……。
人生で最も生きることを願った瞬間だった。
さっきまであんなに恐怖で怯えていたのに不思議と気持ちが高ぶっている。
「異世界に来たんだ」
憧れだった異世界に転移したことへの喜びがだんだんと高まる。
誰が? 何のために? なんでこうなった?
疑問が尽きない。今日は分からないことだらけだ。
それでも、さっきのワープのような異世界定番能力をもっと使いたい。強くなりたい。そんな夢展開に胸を躍らさずにはいられなかった。
「森は危なそうだから早めに出るか」
そう。これはアニメや漫画でよくあるやつである。え? 1人だよね? なんでぶつぶつそんなこと口に出す必要があるの? という誰もが抱く疑問のやつである。これをすることでなぜか自分が主人公気分になれた。自己満足だ。
森を出る途中でいろいろ試した。
アイコンの確認。この世界からの脱出。ステータスの確認。魔法や魔術の確認。スキルの確認。……。
思いつく限りの事はやってみたがどれもだいたい失敗した。
唯一、一瞬だけ火を出すことが出来たので火を木につけ、その灯りで森から出た。
この世界に関して何も知らなすぎる。俺は日本で無知は恐怖であると学んでいた。
「まずは情報が欲しい」
森を出て少し歩くと小さな村を見つけた。少し訪ねてみることにした。
はっ……異世界と言うことは……エルフとか獣人とかかわいい子がいるおきまりの展開……。
期待なんかしてないよ……全然……。
そんなことを思いながら村を訪ねた。
「あまり人いないなあ。人間ばっかりだし」
無駄に期待した自分のせいだ。
それになぜかすごい視線を感じる気がする。もしかしたら異世界人ってばれてる!? 言葉とか通じるかな……。通じなくても最初に話す人はこれから長くお世話になるはず。信じられる人に最初に話しかけるんだ。できれば女の子! そう心に決めている。
そこに1人の大柄で、がたいのいい男に声をかけられる。異世界のハーレム展開もそんなに甘くないらしい。
「兄ちゃん、見ない顔だな。こんなとこで何してんだ?」
言葉は分かるのか。怖いけど悪い人じゃなさそうだ。少しびびりながら返事する。
「えーと、あのー、そのー」
これじゃ会話になってない! なぜか言葉が出てこない! 人と話すの苦手じゃないはずなのに! そうか。こいつコミュニケーション能力低下のスキル持ちか。やっかいなやつだ。
「なんだ、びびってんのか? 何もしないから安心しろ。ちょっとついてこい」
えー。やだー。こわーい。本当に何もされないかな。このまま奴隷とかにされないかな。不安だ。
とりあえず、何も言わずに俺は警戒しながら男の人の後をついて行く。
すると家に案内された。そこには武器がたくさん置いてあった。
男がこちらを振り返る。
「俺はここで武器屋をやっている。そういえば名前行ってなかったな。俺はデイビスだ。呼び捨てでかまわない。よろしくな」
すごくにいい人!
「お、俺は八重樫琉です。よ、よろしくお願いします」
しっかりしろ。俺。
「リュウか! 珍しい名前だな! その服も見たことないがどこから来たんだ? それにリュウからはドラゴンの匂いと変な魔力の流れが見える。なんか大変なことに巻き込まれたか?」
デイビスは笑いながら話してくれたが、図星すぎて何も言えない。
「ついてこい。こっちで風呂に入れ! 遠慮はするな! そのまま外歩かれても困るしな」
俺はそのままお風呂に入れてもらった。
お風呂と言ってもお湯は出ない。水で体を洗う場所である。この世界にはお湯は出ないのだろうか。
それに、さっき言ってた魔力の流れってなんだろう。何も見えないけど。
「デイビスさん、お風呂ありがとうございました」
俺がそう伝えると笑顔で返事を返された。
それからデイビスと他愛ない世間話をして、武器を見せてもらった。
この人ならと思い、俺はこの世界について教えてもらえないかお願いした。
快くいろいろこの世界について教えてくれた――。
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