file 04. 不安
本当に綺麗な人だ。
「どうしました?」
固まってる俺に、リアが困った顔でこちらを見る。
「い、いや、何でもないです。すみません。俺は琉、八重樫琉っていいます。よろしくお願いします」
このまま固まってたら完全にやばいやつになるところだった。
元の世界でもこんな人見たことない。
急に幸せ者。
「リアさんは、本当に今も冒険者さんなんですか?」
彼女は少しむくれて話した。
「そんなに弱く見えますか。これでも結構すごい人なんですよ!」
怒っている姿もかわいい……。
「す、すみません。そういう意味じゃなく! こんなに綺麗な方なのに、と思って」
リアの顔がだんだん赤くなっていくのが分かった。
「そ、そんなお世辞言っても何もいいことありませんからね……っ。でも、嬉しいです。そ、それよりそろそろ座りましょうか」
2人で宿屋の角のテーブルに向かい合って座った。
リアは、顔を隠すようにテーブルの上のメニュー表を一生懸命みている。
改めてこうしてみると本当に綺麗だ。
脚もすらっと伸びていてスタイルもいい。
なにとは言わないが、成長するところもほどよくある。大きすぎず小さすぎず……。
別に、断じて、変なことは想像していない。
「ここ、料理とかも頼めるんですよ。何か食べますか?」
気配りまで出来るなんて……。自分が情けない。
げっ。アールデウのお金なんてもってない!
このままでは――。
チャリン。
ん?
ズボンのポケットに手を当てるとなにやらコインの感触がある。
取り出してみるとデイビスからのメモとこの世界のお金であろうコインが入っていた。
デイビスめ。いつの間に。にやにやした顔が目に浮かぶ。
それにしてもこアールデウのお金は初めて見る。
2人で注文を済ませ早速本題に入った。
「リュウくんは、魔力について知りたいんだっけ?」
「はい、お願いします。あと呼び捨てで大丈夫です」
なぜかリアはまた顔を赤らめた。
「そ、そう。じゃあ、リュ、リュウ」
そんな照れながら言われるとこっちまで恥ずかしくなる。
俺は昔からすぐ赤くなるって馬鹿にされてきてるから、ここは冷静にいこう。
「はい!」
元気よく返事をした。
「ならその敬語やめなさい。私のこともリアでいいよ。リュウ」
「わ、わかりまし、じゃなくて、分かった。リア」
自分でも顔が赤くなった事がすぐに分かった。
それを見てリアは目の前で笑っている。
くそ。冷静沈着のクールキャラが崩壊した。
「もう! 俺のことはいいから! 魔力について教えて!」
リアは笑いながら教えてくれた。
「はいはい。人間族にとって魔力はその人が本来持つ力にプラスでその人が秘めてる力を引き出してくる力のこと。例えば、魔力を使わないで木を1本持てる人が魔力を使うと3本持てたとする。その2本分の力は魔力の力とも言えるし、本来その人が出せる力とも言える。でもこの2本分の秘められた力は魔力なしでは絶対に出せないよ。このままだとね。」
なるほど。あのときワープできたのは俺の潜在能力を一気に開放したのか。
「何でだ? 自分の力なら出し方次第じゃないのか?」
リアの顔から笑顔が消える。
「確かに出せなくはないかもしれない。でもその前に肉体が破壊される。力と肉体は別なんだよ。魔力が肉体を守ってくれるから本来の力がだせるんだ。それにこのままだとってちゃんと言ったでしょ。魔力なしでも3本持てる様になるまで力と肉体を鍛えればいいんだよ! そしたら魔力もあがるよ。でももともとの魔力量が少ないといくら努力してもそんなに意味はない」
才能も必要って事か。だからデイビスは使えなかったんだな。
それを乗り切ればあとは、努力次第ってやつか。魔力も便利じゃないな。
「人間族にとってはってどういうことだ?」
さっき頼んだ料理が届く。
とてもいい匂いがする。
リアの目も輝いて見える。咳払いをしてこう説明した。
「それは基本的に魔力を持っているのは、人間族と魔族と魔物だけ。他の種族は魔力なんかなくても肉体がもともと強かったり周りにある魔力を使ったり出来るからね。もっとも、魔族は魔力がないと何も出来ないらしいよ」
なんか大学の授業みたいだな。でもおかげですごくいい勉強になった。
リアは何でこんなに知ってるんだ? デイビスは知識なかったみたいだけど。
誰かに教わったのか?
そういえばアールデウには学校とかってあるのか?
「リアはなんでそんなに詳しいんだ? 学校とかで誰かに教わったのか?」
リアが不思議そうな顔でこっちを見る。
「ガッコウ? 私はおじいちゃんから教えてもらったの。本当は自分で学ばなきゃいけないから私はラッキーだった。冒険者として強くなるためには命をかけて経験するしかないの。強い冒険者はいろんな職業が選べる」
アールデウは教育機関がないのか。
道理でアグロス村には子供が少ないわけだ。
きっとミリューで子供の頃から将来のために魔物と戦っているのだろう。
その後もご飯を食べながら魔力のことやリアの話をして時間があっという間に過ぎた。
「今日はいろいろ教えてくれてありがとう。すごく助かった」
もうこの幸せの時間が終わりか。
楽しい時間は過ぎるのが早いとはこのことだ。
でも、これで今後の方針が見えてきた。これからじっくり考えよう。
「ううん。こちらこそごちそうになってありがとう。そ、それでなんだけど……」
リアが下を向く。
何か胸がざわつく。
「も、もしリュウがよかったら一緒に魔物討伐の練習しない? デイビスから冒険者希望だって聞いてたから。まだ教えれることもあると思うし。ダメかな……?」
――――え?
なにこの急な定番シチュエーション!!! ダメなわけない!
でもなんで俺と? 何か裏があるのでは? とは言ってもただの訓練のつもりだろう。
いや、この際そんなのどうでもいい。
後のことは考えない!
「も、もちろんいいに決まってるよ! 俺からもお願いしたいよ。でも俺となんかでいいの?」
舞い上がっている感情を殺し、必死にいつも通りを装う。
すると、リアも顔を上げ笑って手を出した。
「ありがとう! 私も剣術や魔術を見直したいんだ。だからこれからもよろしくね。リュウ!」
俺も手を出し、握手をしてお別れをした。
――――ガチャ。
デイビスの家にかえると、なぜかにやつくデイビスがいた。
きっと元からこうなることを知っていたのだろう。
そして、デイビスと少し会話し自室へ向かった。
ふう……。
アールデウに来て、まだ2日目。
だが、だいたいのことが分かった。
やっと落ち着いた今、ちゃんと今後を考えよう。
なんでここに来たんだろう。元の世界に帰れるのか。
ここに来れたならきっと何か帰る方法もあるはず。
その方法を探すか。心当たりがあるとすれば夜の光だろう。
元の世界にもアールデウの世界の人がいたって事か?
アールデウについてまだ知らないことが多すぎる。
時間はかかりそうだ。
元の世界での俺はどうなっているのか、みんなの記憶から消されてはいないだろうか、心配されているだろうか、不安が募るばかりだ。
なんだか心が落ち着かない。
急に、お父さんの事を思い出した。俺が何かに迷うといつも同じ事を言っていた。
「俺の、したいように。か……」
俺はいつの間にか、眠っていた。
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