第7話 超常事件対策局


警察庁超常事件対策局

 

 忍に簡単な挨拶をしてから、最後の対策局へ向かう。


「あ、あ、阿修羅王様ぁぁッ!!」


 俺が部屋に入ると、右頬に星の入れ墨のある赤髪ポニーテールの女――朝倉葵あさくらあおいが悲鳴のような叫び声を上げる。

 まったく、こいつら、陰陽師はどうしてこうもいつもオーバーリアクションなんだ?


「だから、俺は藤村秋人、阿修羅王はただの称号だ。だから、いいかげん普通に接しろよ」

「はひはひ」


 ガチガチに緊張し、何度も顎を引く。だめだ。まったく分かっちゃいねぇ。


「おう、アキト、来てたのか?」


 書類と格闘していたスキンヘッドの男――九蔵が右手を上げ、


「お兄ちゃん!!」


 俺にダイブしてくる紫がかった肩までかかる髪に赤いリボンをした少女。

 この少女は安部詩織あべしおり。まだ俺が若かった頃、爺ちゃんの代理で安部家を訪れた際に森で迷子になって泣いていた子供が詩織だったようだ。まあ、当時、詩織は5歳くらいだしな。すっかり変わったし気付けなくても無理はないか。

 朱里となぜ知り合いなのは不明だ。多分、武術関係じゃないかと思っている。ほら、朱里ってそういう交友関係広そうだし。


「うー、アキトってジゴロ?」


 半眼で俺を見上げ胡散臭そうに呟く園寿に、


「い、いや違うぞ。何気に昔の知り合いってだけだ」

「でも今日、同じこと何回もあったぞ?」

「お兄ちゃん?」


 頬を膨らませ見上げてくる詩織に、俺は両手を上げて完全降伏のポーズをとる。



「十朱まで冒険者機構に取られないで本当に助かった」


 お茶を飲みながら、しみじみと対策局の局長――真城歳三がそんな感想を述べる。


「そうですねぇ。魔物やクエストを冒険者に委ねられたとしても、種族特性犯罪がなくなるわけじゃないですし。その点、十朱を中心に眷属化された隊員たちは、非常識に強化されています。あれなら、他国の軍隊だろうと正面からやり合えますよ」


 真城の隣に座る黒髪短髪の青年が、極めて物騒な台詞を吐くが、


「それ以前に十朱一人に、全滅だろうけどな」


 真城はボンヤリと遠い目をしながら、至極もっともな台詞を吐く。

 あの戦争の動画の一部は、真城達政府関係者には見せている。大方、十朱が吹き飛ばした第一師団でも思い描いているんだろう。うんうん、わかるぞ。あれって完璧に東京湾に上陸したゴ〇ラだしな。


「眷属についての自衛隊との調整が面倒でしたが、折り合いがつけられてよかったです」


 鬼沼が裏で色々動いていたようだしな。その手の権力的な話は、微塵も興味はない。好きにすればいいさ。



「今、十朱はダンジョンか?」

「ああ、歌舞伎町に出現したダンジョンで、鍛錬の指導にあたってもらってる」


 あいつも、充実した日々を送れているようで何よりだ。

 聞きたいことは聞いた。あとは――。


「真城、俺がここに来た理由、あんたならわかるな?」

「うむ」


 顔からヘラヘラした笑みを消すと、真城は俺の隣に座る園寿を見据える。

 そして、


「園寿、いままで話すら聞いてやれず、すまんかった」


 頭を深く下げる。


「……」


 ビクッと身体を硬直させる園寿の両肩を掴むと、


「だが、お前のやったことは決してやってはいけないことだ。それはいいね?」

「……」


 コクンと顎を引く園寿。


「十分に、反省しなさい」

「……」


 再度、顎を引く園寿の頭をその大きな手で撫でると、


「今晩、お前の好きなお好み焼き屋を予約した。お父さん、お母さん、お兄ちゃんと一緒に食べにいこう」

「うん」


 泣きながらも頷く園寿に、俺はこれで肩の荷が完全に降りたことを自覚していた。

 真城は元々、園寿が盗撮をしたとは考えていなかった。娘にどう接していいかわからず、無視を決め込んだのだ。俺も経験があるからわかる。ただ放置されるのが子供というのはもっとも傷つく。

 利用されたとはいえ、園寿は社会のルールを破った。真城はまず親として、園寿の話を聞いてから叱ってやらねばならなかったのだ。それが親ってもんなんだと思う。まあ、親失格の俺が偉そうに言えるもんじゃないが。

 もういいだろう。そろそろお暇しよう。


「じゃあ、俺は帰るぜ。園寿、お前はここで父ちゃんが仕事終わるまで待ってな」

「うん」


 頷く園寿に右手を上げて扉へ向かおうとすると、


「あ、アキト!」

「ん?」


 肩越しに振り返ると、


「オイラ、ケーちゃん、連絡するぞ! 皆にもだぞ!」


 睨みつけるほど真剣な目つきで園寿から今一番聞きたかった宣言する。


「そうか。頑張れ!」


 親指を立てて力強く叫ぶと、再度、扉へ向かおうとする。


「こ、今度はちゃんと、デートするんだぞ!」


 園寿は大声で、そんな阿呆なことを大声で言いやがった。


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