第5話 堺蔵警察署
「藤村秋人、ご無沙汰だな」
名前を伝え署長に会いたいと告げるとすぐに署長室へ通される。
五十台前半の顎が長い黒髪の男はこの
「出世したようで何よりだ、署長さん」
「からかうのはよせ。カリスマ性、行動力、決断力、自分の至らなさを今実感しておるよ」
「だ、そうだが、そこのところどうなんだ?」
背後の部下二人に声をかける。
「評判はいいわよ。種族特性犯罪について我が署は、他の所轄と比較し頭一つ抜き出ている。これは、署長の力だと思うわよ」
「そうだな。少なくとも上からのくだらない面倒ごとは突っぱねてくれるし」
相変わらずパツンパツンのスーツを着ている赤峰の指摘に、ガタイの良い黒髪坊主の外見の捜査官が相槌を打つ。
「そのようだぞ? あまり、自己評価が低いのも困りもんだな。まあ、あのバケモン署長の後任なら気持ちもわからんでもないが……」
前任の署長とは一度会ったが、あれはマジでヤバい。具体的な説明は省くが、あいつは十朱同様元より人間種を辞めていた部類の人間だ。ただ、その方向性が十朱のような戦闘にはなかっただけのこと。いわば、鬼沼の聖人版ってところかもしれん。
いくら本人が無欲だとはいえ、あんな人物を一介の署長にしておくこの国の警察機構には正直ドン引きしたもんだが。この種族特性至上主義の世の中で、あの手の男が、隠居生活など許されるはずもなく、あっという間に警察庁の幹部へと担がれてしまう。
実際にテレビでは、最近、史上初のノンキャリ幹部だと話題になってたしな。
「そうか。わかってくれるか! 毎日、毎日、胃が痛くて、胃が痛くて」
泣きそうな顔で机から薬の瓶を取り出すと、口に放り込む。
「それで、今日来たのは、電話での件だ」
「事情は聴いた。調査は完了しているぞ」
署長は立ち上がると己デスクから封筒を取り出し、資料をテーブルに置く。
「園寿、これが過去の事件の全容だ」
「……」
俯気味にポロポロと涙を流す園寿。赤峰が園寿の隣に座ると、そっと抱きしめ、その頭を優しく撫でる。
「園寿、そこに書いてある電話番号に電話すれば、お前の親友に繋がる。あとはお前が決めな」
園寿の元のクラスメイトは、いつか会って園寿に謝れると信じて、自分の連絡先を警察に預けていた。その全員分の連絡番号を交通課の婦警がとっておいてくれたのだ。
「……」
泣きながらも無言でうなずく園寿。これ以上は蛇足だ。俺達ができるのは、背中を押してやるまで。最後には自分で決断しなければならないことのはずだから。
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